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花嫁 9

「 !!」 街を歩いてて名前を呼ばれて青ざめた。 その名前は捨てた名前で、今は恋人からもらった名前で暮らしてるから。 逃げたが追われて、腕を掴まれ捕まった。 「何故逃げた!!お前のせいで!!」 そう叫ばれた。 人目も気にせず、村に居たその人は怒鳴ってきた。 「お前のせいで村がどうなったと!!」 それは聞きたくなかった。 知りたくなかった。 花嫁の犠牲で成り立つ村などどうでも良いと思ってた。 子供を犯させる村などどうなっても良いと。 そのつもりで逃げてきた。 でも、聞きたくは無かった。 でも何が。 何があった? 鬼を解き放ってから。 邪法を壊してから。 怒鳴り何かいおうとしたその相手が吹き飛ばされた。 「オレの恋人に乱暴するな」 恋人がいつの間にか現れて、その村の男を吹き飛ばしていた。 村の男は派手にとばされ、気を失ったようだった。 動かなかった。 駆け寄ろうとして、止められた。 「関わるな。もうお前には関係ないんだろ」 そう囁かれて、それに従った。 抱えられるようにして帰り、部屋で何も考えないですむように抱いてくれるのに溺れた。 「今幸せだろ?それでいいじゃないか」 優しい言葉と、どこまでも貪欲な突き上げ。 中を突かれる記憶は、村の思い出には無いから、それに夢中になる。 ゴリゴリされるのが好き。 入る場所近くのソコを潰されるのが好き。 奥までを襞が裏返るほど出し入れされるのが好き。 奥を抜かれるのが好き。 跨り自分で動くのが好き。 それは村ではなかったことだから。 「オレのだ。オレの。可愛い、オレの」 囁かれ続けた。 それはでもあの記憶とも重なる。 幼い日からの暗い記憶。 でも。 コレは愛する人。 恋人で。 でも。 でも。 匂いが。 匂いがして。 忘れてた記憶が。 スパイスのような甘い匂い。 これは。 恋人からするいつもする匂いは。 どうして気付かなかった。 これはあの。 あの神の。 夜毎に包み込んできた甘い匂い。 「思い出してしまったか」 恋人は舌打ちした。 声がもっと深くなった。 ゆっくり抜かれて。 向かいあって座らされた。 恋人の身体がゆっくり膨れあがり。 角が皮膚を突き破った。 鋭い歯が牙になった。 それでも恋人の面影はあったが、それは人間ではなかった。 つけたままだったテレビから、街中で一撃で殴り殺された男のニュースでやっていた。 村人の顔が映る。 死んだのだ。 ガタガタ震えた。 初めて神に抱かれた時のように。 【選ばしてやりたかったんだよ。お前は村から解放してくれたし。お前の望みは全部叶えてやりたかったし】 鬼は言った。 怨霊であり、悪鬼であり、神。 【逃がしてやるという選択は無かったよ、悪いけどな。でも、愛してる。本当に。人間のように】 鬼は言う。 「村は?」 聞いてしまった。 【あの日あの夜。あそこにいた奴らはみんな死んだ。今日いたヤツは村の外にいたからな。でもこれで、全員だ。お前は別だ。お前はオレの恋人だからな】 簡単に言われた。 【おかげでもっと強い力を持てた。今なら何でもできる。何でもしてやれる。お前が望みは小さすぎたけどな】 鬼が笑った。 その通りだった。 全ての望みは叶えられていた。 逃げることも。 人の中で普通に生きることも。 満足するまで、中を犯されることまで含めて 泣いた。 泣いた。 逃げられてなどいなかったのだ。 【愛してる。愛してくれるだろ?】 その声には切実さがあった。 人としての恋人と過ごした日々。 確かに愛していた。 【みんな逃げた。お前だけは。お前だけは】 巨大な身体に抱きしめられた。 あの頃は見えなかったその身体に。 「どうして今はあなたが見えるの?」 それを聞いた。 これが本体ならば、見えないはずだった。 聞かなければならなかった。 【お前はもう、コチラに来てるからだ。今までの花嫁達はそれを恐れて死んでしまった】 答えはいつでも簡単だった。 鬼の精を中に放たれる意味。 皆自死した意味。 人間でなくなることに、人間は耐えられない。 「オレはもう。人間では無いの?」 聞いてしまった。 【そうだ。オレと共に有り続ける】 そこには罪悪感は聞こえた。 【お前だけは。手放す選択は無かったんだ】 それが理由だった。 泣いて。 髪を撫でられ抱きしめられ。 【離してやれない。死なせてやれない。他の花嫁達は逃がしてやれたのに】 囁かれて。 この世に生まれて利用され殺され、勝手に神にされ、鬼になった男。 自分を必要としてくれる者を欲したために生贄にされた男だったモノ。 【花嫁達は捧げられたが、お前だけはオレが欲しかった。オレの元に連れて来られた子供の頃からずっと、だ。愛して欲しかった。逃がしてやれなかった。でも、お前の為に出来ることはしたんだ。お前の望みは叶えただろ?】 言われてわかる。 どうやって邪法を打ち破る知識を思いつけたか。 偶然落ちてた本。 たまたま聞こえた話。 全ては用意されていたのだ。 【選ばせてやっただろ?本当に】 確かに。 確かに。 自分から恋人を選んだ。 【愛してる】 鬼が泣いていた。 泣いて。 泣いていて

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