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第1話③
ーー
「本当に来たわ、彼氏ー」
昴の部屋に入るなり、明は大きなため息を吐いた。
「来るの早すぎ!まだ昼前だぜ。俺起きたばっかりだったのにさぁ」
そう言う明の髪の毛には寝癖が跳ねている。
「それで俺が慌てて昴の家に行く準備始めたら、幸が『明も一緒に遊ぶ?』とか言ってくるし。彼氏にすっげー嫌そうな顔されたしさぁ。本当勘弁してくれって感じ」
「お疲れ様、明」
昴はふふっと笑うと、明の前に腰掛けた。
昴の部屋はとても広い。
元々は二つの部屋だったところを、間の壁を取って一つの部屋にしたそうだ。
両親の離婚後、昴はこの大きな一軒家で父親と二人で暮らしている。
「今日おじさんは?」
「釣りに行ってるよ。何か釣れたら明の家にもお裾分けするって」
「おー!楽しみにしとこ!」
「釣れるといいけどね。それよりこれ、1日遅れだけど誕生日おめでとう」
昴はそう言うと、明の前にスッと袋を差し出した。
「へへっ、ありがとう!開けていい?」
「もちろん」
手のひらサイズのビニール袋を開けると、中にはスマホ用のスタンドが入っていた。
「おぉー!欲しかったやつー!」
明はそれを手にとって喜びの声を上げる。
「自分の机で動画見る時、ずっと辞書に立て掛けてたんだよ!めっちゃ嬉しい!」
「よかった。幸が明は自分の部屋でずっと動画見てるって言ってたからさ。いいかなって思ったんだ」
「そうそう!最近ハマってる動画があって。でもそれ幸に教えてもらったやつだから!幸の方が先にハマったんだよ」
「みたいだね。だから2人ともスマホスタンドにしたんだ。一応色違いだけど」
「あー。そっか。そうなんだ・・」
明は手に持ったスマホスタンドをいじりながら歯切れの悪い返事を返す。それから意を決して顔を上げると昴を見つめて言った。
「あのさ、昴が優しいってわかってるから言うけど俺に気遣わなくていいからな!」
「・・え?」
キョトンとした顔で昴は明を見つめ返す。
「いや、いつも幸と同じ物プレゼントしてくれるからさ。でも本当は幸に特別にあげたい物とかあるだろ?」
「・・・」
「プレゼント、俺は今年が最後で大丈夫だからさ。そろそろ本気で幸に気持ち伝えていきなよ。昴だっていつまでも幸が他のやつと付き合ってるの見るの嫌だろ?高校で新しい出会いだってあるかもしれないしさ」
明は明るいトーンの声で言う。昴に気を遣わせないためだ。
しかし昴にはそれが伝わっていないのか、視線を下に落とすとボソリと小さな声で言った。
「・・大丈夫だよ。俺が、幸から離れることはないから・・」
「・・・」
あまりにストレートな幸への想いに明はおもわず黙り込む。
「いや、それはわかってるけどさ・・」
とりあえず何か言わなくてはと明が声をかけると、上を向いた昴と目が合った。
そして、次の瞬間には昴にグイッと肩を引き寄せられる。
「っすばる!?」
「・・・もう、幸の彼氏来てるんだよね?」
「えっ・・う、うん・・」
昴の声が耳元で響く。そのあまりの近さに明は思わず体を強張らせた。
「じゃぁ、やってるのかな・・今頃・・」
「・・・」
好きな相手が、今この時間、隣の家で恋人と身体を重ねている。
やはりそれは耐え難いものなのだろう。
昴の気持ちを思い、明はそっと昴の腕を触る。
「大丈夫だって。今の彼氏もβだから番になることはないし。幸の方はそんなに本気じゃなさそうじゃん」
「そうだけどね・・・」
そう答える昴の瞳が明を捕らえる。
熱を帯びた瞳だ。
Ωの幸が誰かと身体を重ねていることを思うと、αとしての本能が疼くのだろうか。
ーーまた・・かーー
明はゴクリと喉を鳴らして覚悟を決める。
そして次の瞬間、昴が優しく明の背中を撫でながら言った。
「お願いしてもいい?」
「・・・」
覚悟を決めたと言っても、その行為にはやはり抵抗がある。けれど・・
「昴が、抑えきれなくなって幸を傷つけないためだからな・・」
「・・わかってるよ」
「本当、俺なんか代わりにして意味あるのかなぁ。全然幸と似てないのにさ」
明はハァとため息をつくと、自分でスラックスを膝の位置まで下げた。
「ありがとう・・明」
昴はそう言いながら手を伸ばすと、そっと明のそこを下着の上から触れる。
まだ力無く柔らかい。
それからスルリと下着の中に手を入れると、今度は直接それを優しく扱き始めた。
「・・ふっ・・ぅう」
明の肩がビクッと揺れる。
人に触られる感覚にはまだ慣れない。
「一緒に触るね・・」
昴はそう言うと、いつの間にか外に露わになっていた自身のモノと明のそれを擦り合わせ始めた。
「〜うぅぅ・・・」
明は瞼をキツく結ぶと昴の両肩を力強く掴む。そして顔を見られないように、昴の胸にうずくまるようにして下を向いた。
・・こんなこと、本当は恥ずかしい。
けれど、昴と幸の関係がどうか平穏なままであって欲しい。
幸は傷つきやすいから。繊細だから。
守ってあげなくちゃいけない。
そして、昴も大切な友達だ。
特別な存在の二人が、傷つきあうところは見たくない。
そのためなら自分がいくらだって代わりになる。
なるべく声を出さないように唇を噛みながら、明はその行為が終わるのをただじっと待った・・
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