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第11話
「四十万、昔の友達に会ったから少し話してから帰るって」
「えっ?!」
増田の言葉に明は目を丸くさせて大きな声を出した。
恋人を家で待たせているのに友達と話してくる?一体幸は何を考えているんだ?!
「増田君ごめん。幸が勝手なことして」
明は肩を落として頭を下げる。
「せっかく来てもらったのに・・」
「いいよ!いいよ!久々の友達に会ったら話したい気持ちもわかるしさぁ」
「・・・」
増田があまりにも人の良さそうな顔で笑うので、明はさらに申し訳ない気持ちになった。
「あ、じゃぁなんか俺お菓子とか持ってこよっか?腹減ったよな?」
明が立ちあがろうとすると、増田は「大丈夫だよ!」と言ってそれを制す。
そして胡座をかいた足をモジモジとさせながら言った。
「それよりさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと?」
「うん、あのさ・・」
少し言いにくそうに言葉を切り、一呼吸置いてから増田は続けた。
「その、明君も矢野と幼馴染なんだよな?」
「え、うん。そうだけど・・」
「あー。あの、本当小さいこと気にしてるなって思われるかもだけどさ・・矢野と四十万って昔からあんな感じなのかなって・・」
「・・・」
増田が何を気にしているのかはよくわかる。
むしろ幸と付き合っていてそこが気にならない方がおかしいのだ。
「・・幸は、昔から人見知りだったから俺と昴にべったりだったって言うか」
明は幸と昴、両方の立場が悪くならない言葉を選びながら答え始める。
「それで、高校は俺だけ別でしょ?だから余計に2人の距離が近く見えるのかも。でも幸はそれが普通で昴に変な感情はないんだよ」
気にすることではないと思えるように笑ってみたが、増田の表情はまだ暗い。
「・・俺、思っちゃうんだ。きっと四十万にとって俺より矢野の方が頼りになるんだろうなって。だからどうやったら矢野を越えられるのか考えてて」
「別に、俺からしたら増田君が昴より下だとは思えないけどなぁ」
「全然ダメだよ。矢野ってやっぱり学校でも目立つんだ。本人は大人しくしてるつもりでもさ。それで矢野が騒がれてると四十万はそっちをジッと見るんだ。まるで自分のものなのにって目で」
「・・自分のもの・・」
昴が幸を気にしているのはわかるが、幸もそういう風に見えるのか。増田には悪いが、ますますあの二人が付き合えってしまえばいいのにと思ってしまう。
先ほど幸が基依を追いかけて行った時、心臓が痛くなるくらい不安な気持ちになった。
基依に近づかないでくれ—
出来るならそう叫びたいほどだった。
幸が魅力的なことはわかっている。
そう思わないと、きっと最低な言葉で罵ってしまいそうになるから。
「明君?」
明が黙っているので増田はさらに不安そうな色を浮かべた。
「あ、いや。やっぱ幼馴染だから自分が一番理解してるって気持ちはあるんじゃん?俺だってそうだよ!昴は自慢の幼馴染だって思ってるし」
「・・そうなのかな」
納得はしていない表情で増田はテーブルの上の飲み物に手を伸ばした。
「あのさ、俺からも聞いていい?」
明が言うと、増田は飲み物を飲むのをやめてこちらに目を向ける。
「何?」
「増田君はさ、幸のどういところが好きなの?」
「えっ?!」
そんな恋愛トークが振られるとは思わなかったのか、増田は頬を染めて困ったように笑った。
「いやぁ、今まで幸の恋人ってそういうの聞ける雰囲気の人いなかったからさぁ。俺なんて幸のオマケ程度にしか思われてなかったし。話しやすい感じの人は増田君が初めてだからちょっと聞いてみたくて」
「あぁ、そうなんだ」
少し嬉しそうに増田が微笑む。
「えっと・・最初はやっぱり見た目に目がいったってのはあるけど・・四十万って受け答えが丁寧っていうか。ちゃんと俺の話聞いてくれてるってわかるのが嬉しくて、色々話したくなるんだよな」
そう言って照れるように増田は頬を掻いた。
「へぇ。なんかわかるかも。幸は人の相談とかよく聞くイメージ」
「そうなんだよ。それですごい真剣に考えてくれるっていうか。なんだったら自分より悲しんでくれたりとかしてさ」
「うん、そうかも。幸昔からそういうところあるよ」
「そっかぁ。やっぱりいいよな、そういうところ」
「・・・」
嬉しそうに惚気る増田を見て明も微笑む。
増田は幸のことを、Ωとして性の対象で見ているわけではないことがわかる。
誠実で優しい人間なのだ。
明は先ほど考えてしまったことを思いだして胸が痛んだ。
増田はいい人だ。彼を裏切るようなことにはならないでほしいとも思う。
幸がこの増田の優しさにずっと惹かれていてくれたなら、それでもいいのかもしれない。
けれどそれならば昴の気持ちに決着はつけるべきだろう。
今度、もう一度ゆっくり昴と話してみようと明は思った。
ー
「え?今日基依休みなんですか?」
膝の痛みは一日で消え、明は早退した日の二日後の練習には朝から参加することにした。
送ってくれた基依にも直接お礼が言いたかったからだ。
けれど部活に行ってみると基依の姿はなかった。
「あぁ。さっき部長に連絡あって体調不良だとさ」
「体調不良・・そうですか」
「夏バテでもしたかねぇ。本当毎日暑くてやんなるわな」
「そうですね」
先輩の愚痴を聞きながら明は手に持っていたボールをバウンドさせる。
基依からは何の連絡もきていなかったはずだ。
昨日連絡した時は『明日行くよ』と返事があったのだが・・
体調不良ならば仕方ない。
明は小さくため息を吐くと、ゆっくりと柔軟運動を始めた。
結局、練習が終わった後にスマホを確認してみたが基依からの連絡は入っていなかった。
『体調大丈夫?』と短いメッセージを送ってみる。
返事が来るまでは少し落ち着かない。
電車の車窓からは海にゆっくりと沈んでいく太陽が見える。明はそれをボゥと見つめて気を逸らすことにした。
「明」
駅の改札を出ると同時に名前を呼ばれそちらに目を向ける。
「あっ・・」
昴が明と同じようにバスケの練習着姿で立っていた。
「昴も部活の帰り?」
小走りで昴の元に駆け寄っていく。
会うのは夏祭りの日以来だ。
「・・うん。今日体育館の設備点検の関係で急遽昼で部活が終わっちゃって。さっきまでYタウンをウロウロしてたんだ」
Yタウンは駅の裏にあるこの辺りでは一番大きな商業施設だ。連絡通路で駅から直結しているので、帰りに寄るのにも丁度良い。
「へー!いいじゃん!なんか買った?」
「いいや。何も思いつかなかった」
「そっか。まぁ無駄遣いするよりいいって!」
明が笑って言うと、昴は一瞬横にチラリと視線を泳がせる。それからもう一度明を見ると改札の横にあるファストフード店を指差した。
「あのさ、あそこでちょっと食べていかない?」
「え?いいけど。昴お腹減ってんの?家帰った方がよくない?」
「大丈夫。明と久しぶりに話したいなって」
「・・・うん、そうだね。俺も!」
明は増田と話した時に考えたことを思い出す。
一度ちゃんと、昴に幸とどうなりたいのか確認してみるいい機会だ。
二人はそれぞれ注文を終え食べ物を受け取ると、奥まった二人掛けの席に着いた。
店内は同じような年代の若者で賑わっている。
「Yタウン、夏休みだし混んでた?」
明がズズっとジュースを飲みながら聞く。
「うん、多かった。フードコートなんて座れないよ」
ハンバーガーの包み紙を開きながら昴は答えた。
二人で外でゆっくり話しをするのはいつぶりだろう。
高校生になってからは初めてかもしれない。
「明、今日部活だったんだよね?」
昴がチラリとこちらに目を向けて聞いた。
「そうだよ!今日も疲れた〜。って言ってもK高に比べたらゆるゆるだと思うけど」
「・・基依君も今日来てた?」
「え・・」
ポテトを手に取ろうとしていた指がピタリと止まる。
それから取り繕うように笑って答えた。
「いや、今日は基依は休み〜。体調不良だって」
「体調不良?」
「って部長に連絡あったみたい。俺が直接聞いたわけじゃないけど。夏バテとかじゃない?」
「・・ふーん」
面白くなさそうな顔をして昴が相槌を打つ。
その表情を見て明は首を傾げた。
「昴、基依のことやっぱり気になるの?」
「え・・?」
「ほら、俺が前にその・・言っちゃったじゃん。基依も幸のこと好きなのかもって。やっぱり同じ人のこと好きなやつは気になるのかなって」
「・・別に、そんなわけじゃないよ・・」
昴は横に目をやる。しかし表情は相変わらず暗い。
何かを考えているようだ。
「・・あのさ、昴・・」
明は恐る恐る口を開く。
この続きを言うには勇気がいるが、話そうと思っていたことだ。
ゴクンと唾を飲むと明は昴をしっかりと見つめて続けた。
「幸に、気持ち伝えてみたら?」
「・・・え」
昴も明の方に視線を戻し、少し目を見開く。
「なんで・・急に?」
「いや、最近考えてたんだよ。俺、いつかは幸と昴が恋人になるんだってずっと思ってたけど、でも増田君はいい人だしそう決めつけるのは違うのかなって」
「違う?」
「うん。ごめんな、勝手なこと言って。俺は幸には昴が1番だって思ってるけど、でもそれを決めるのは幸自身で・・いつかを期待してずっと宙ぶらりんで待ってるのは、それはそれで辛いしに先に進めないんじゃないかなって」
「・・・」
「一回、ちゃんと幸に気持ちを伝えてハッキリ答えをもらった方が昴も次にいけるんじゃないかな・・」
「それは、つまり俺にフラれてこいってことだよね?」
「えっ・・!いや、そんなつもりじゃ!」
明は慌てて両手を振るが、肩を上げて気まずそうな顔で続ける。
「ただ、今幸には恋人がいるから・・増田君はいい人だし・・別れる感じもしないじゃん?」
「・・そうかな」
「え・・」
昴の声がいつもより冷たく感じ、明はドキリとする。
「・・ごめん、明に言うのはよくないかなって思うけど・・でも俺はそうは思わない。幸は増田君ともそんなに長く付き合わないんじゃないかな」
「なんで・・そう思うの?」
「・・・幸のことは、よくわかるから・・」
視線を横に向けて昴はボソッと言った。
「・・・」
その様子を見て明は両手の拳を強く握る。
「じゃぁ・・やっぱり昴が告白したらいいんじゃない?増田君とは別れるって思ってるなら言いなよ!幸のことはわかるっていう自信があるんでしょ?俺は・・幸は昴から言われるのを待ってると思ってる。それなのに昴が言わないから幸はフラフラしちゃうんだよ。昴も幸から言われるの待ってるのかもしれないけど、そうやってお互いに相手に任せっきりだからまとまらないんだよ!」
明は顔を赤くして捲し立てるように言った。
「・・明」
その様子を見て昴は目を見張る。
「あ、ご・・ごめん。俺・・」
おもわずカッとなってしまったことを恥じて明は下を向いた。
今更だってわかっているのに。
なんで・・昴はこんなにも『幸』が特別なのだろう。
同じ家に生まれて同じ親に育てたれたのに、どうして幸と自分ではこんなにも違うのだろう。
考えないようにしてるのに・・一度そう思い始めてしまうと悔しさと妬ましさで胸が苦しくなる。
こんな自分が大嫌いだ。
明はプルプルと頭を振ると笑いながら顔を上げた。
「あの、やっぱり今の話なし!ごめんな、二人のことなのに関係ない俺が口だして!」
「・・・」
「昴が自分のタイミングでさ、伝えたい時に伝えるべきだよな。俺マジで余計なお世話だった。ごめん!」
明はそう言うとパチンと両手を合わせる。
「好きとか付き合うとか、俺やっぱりわかってないよなぁ。はは」
誤魔化すようにわざとらしく笑うと、明は再び目の前のポテトを食べ始めた。
昴はそんな明を少し寂しそうな目で見つめる。
「昴、ごめんって!そんな顔しないで食べようぜー!昴と二人でご飯食べるのなんて久々なんだし」
明がそう言ってポテトに手を伸ばそうとすると、その手を上から包み込むように昴の掌が重なった。
「・・え、昴?」
明の視線がポテトから正面の昴に移る。
昴は射る様な鋭い瞳で明を見つめると、小さな声で言った。
「・・・明、この間のこと覚えてる?」
「この間のことって・・」
「俺達が・・セックスしたこと」
「っ・・!」
ガタっと席を立つと明は慌てて昴の口を塞ぐ。
「ちょっ!外で何言ってんの?!」
「・・大丈夫だよ。誰も聞いてないって」
昴は口に当てられていた明の手を取ると、そのまま明の両手をテーブルに繋ぎ止めるように上から自身の手で覆い被せた。
その仕草に明の心臓がドクンと跳ねる。
「す、昴。何してんの・・」
明はストンと座り直すと、恥ずかしそうに口を尖らせる。
すると昴は真剣な目つきで明を見据えながら口を開いた。
「ねぇ、明。もう一度・・俺とできる?」
「で、できるって何を・・?」
「だから・・セックス・・」
「え・・」
明の口元がひくっと引き攣る。
何かの冗談かと思ったが、昴の表情は真剣だ。
明は昴の瞳をじっと見つめていたが、ゆっくりと頭を横に振ってから答えた。
「だめ、できない・・」
「・・なんで?」
昴の表情は変わらないままだ。
「だって・・やっぱりああいうことは想いあってる人同士がするものだと思うから。気持ち良いとか寂しいとか、ましてや誰かの代わりでやるとか、それは相手に失礼なことだよなって思っう・・」
「・・明は、もうやりたいと思わない?」
「うん・・秘密にするのも後ろめたい。だから俺はもうできない。ごめんな、昴」
「・・・」
昴は黙ったままじっと明を見つめていたが、フッと目元を緩めると観念したような表情を見せた。
「俺はやっぱり明が大好きだよ」
「え・・」
「そうやってちゃんと人の気持ちを大事にするところ。誠実に考えられるところ。昔からずっと大好きだった」
「あっ・・ちょ、なんだよ〜!めちゃめちゃ褒めてくれるんじゃん〜!」
明は照れ隠しのためにふざけた口調で返す。
急に『好き』と言われて驚いたが、どうやら『人として好き』という話らしい。思わずドキリと心臓が跳ねてしまったことが恥ずかしくて、それを誤魔化すように明は大袈裟に笑った。
しかしおちゃらけた笑みを浮かべる明とは対照的に、昴は穏やかな口調のまま続ける。
「本当だよ。俺は、明にたくさん元気をもらった。明が小さい頃からそばに居てくれてよかったって思ってる」
「昴・・」
「明が・・俺にとって1番大切で大好きな幼馴染であることは変わらない、これからもずっと・・それが伝えたかった」
「な、何?どうしたの?引っ越しでもするの?急にお別れみたいなこと言うなよ?」
いつもと違う雰囲気に明は戸惑いの表情を浮かべる。
「別にこれからだって俺と昴は友達だろ?俺だって昴のことは好きだし大切だよ?」
明がそう言うと、昴は少しだけ眉間に皺を寄せて笑った。
「うん・・わかってる、ありがとう」
ーー
なぜ、突然昴はあんなことを言ったのだろう。
明は帰宅して自分の部屋のベッドに倒れ込むと天井を見ながら考えた。
幸はちょうどお風呂に入っているらしくまだ姿を見ていない。
今日は友人と買い物に行くと言っていたが、帰りは明より早かったようだ。
明は目を閉じて先ほどの昴の言葉を頭の中で反芻してみる。
あんなにはっきりと誰かから『好き』だと言われたのは初めてだ。こんなに心が暖かく、そしてくすぐったい気持ちになるなんて。
恋愛ではなく友愛の言葉であっても『好き』という言葉にはすごい力があるのだと、明は改めて思った。
それに昴が素直に自分の気持ちを話してくれたのも初めてかもしれない。
いつもは遠慮がちに幸の隣で笑っているだけだから。
けれど・・昔からそうだっただろうか。
明はふとそう思い、ゆっくり起き上がると机に置かれたアルバムをパラパラとめくった。
母が印刷してくれた写真を適当にアルバムにいれただけのもので、最後の写真は小学校の卒業式で終わっている。
一番初めのページを見ると保育園の運動会の写真だった。
左に幸、右に昴、そして真ん中に明が立ってメダルを首から下げている。
「俺が、真ん中の時期もあったのか・・」
その並びが意外過ぎて思わずぼそっと呟いた。
昴はニコリと笑っている。逆に幸は少し恥ずかしそうだ。
この頃、両親の不仲で昴にとっては決して心穏やかな時期ではなかったはずだ。
それでもこうやって楽しそうに笑っている。
保育園の頃を思い出してみると、確かに昴はいつも笑っていた。
自分が鈍感で何もわかっていなかったからかもしれないが・・
それでも・・あの頃は確かに毎日が楽しかった。
昴とふざけて笑って、毎日堂々と過ごしていた。
『明が小さい頃からそばに居てくれてよかったって思ってる』
昴はそう言っていたけれど、それはこちらのセリフかもしれない。
昴が隣にいて一緒に笑ってくれて楽しかった。
そばに居てくれて嬉しかったのは明だって一緒だった。
それなのに、いつの間にかそんな気持ちを忘れてしまっていた。
自分の醜い嫉妬心のせいで・・
「何見てるの?」
後ろから声をかけられ、明は慌ててアルバムをバンと閉じて振り返る。
「えっ、なに?隠すもの?」
幸がまだ半乾きの髪の毛のまま、怪訝そうに眉を顰めて覗き込んできた。
決して隠す必要のあるものではなかったのに、先ほどの昴とのやりとりを悟られそうで明は誤魔化すようにして笑った。
「あ、いや、別に・・ただ昔のアルバム見てただけ」
「ふーん・・」
幸はチラリと明の手の中のものに目を向ける。しかしすぐに明の方に向き直ると、首からタオルを下げ大きめの半袖シャツに短パン姿でベッドに腰掛けた。
「それより、明おかえり。部活どうだった?」
「え、別に普通だよ。でも汗かいたから俺も夕飯の前に風呂入ろうかなぁ」
明はそう言って手に持っていたアルバムを机の上に戻す。
「幸は今日早かったんだね。もうお風呂入ってるし」
「うん。俺も汗かいてベタベタだったから」
幸はそう言いながら手でパタパタと顔を仰ぐ。
「今日遊んだ友達はどこの友達?高校?」
そんな幸の仕草を見ながら明は何気なく聞いた。
「えっ・・?」
幸の手がピタリと止まる。
「・・なんで?」
「なんでって、幸が昴無しで友達と遊ぶの珍しいなぁと思って。ほら、この間も昔の友達と会ったとか言って増田君待たせたじゃん?幸がそうやって色んな友達と遊ぶのは悪いことじゃないと思うけど」
「・・・」
そう言う明を、なぜだか幸は警戒するような視線で見つめる。
「なに?なんかあった?」
触れてほしくないことでもあるのだろうか。
明は心配になり幸の表情をうかがった。
「ううん、別に」
幸は一瞬明から目を逸らす。しかしすぐに警戒の色を解くように微笑みながら言った。
「ほら、明もお風呂入っちゃいなよ。ご飯できちゃうよ」
「・・うん」
明は返事をすると幸の前を通って部屋のドアノブに手をかける。
しかし部屋の外に出る前に「明・・」と後ろから名前を呼ばれた。
「うん?」
振り向くと幸が明のベッドに座ったままジッとこちらを見据えている。
「明、俺に秘密にしてることある?」
「・・え?」
「何でもいいけど・・秘密にしてること、ある?」
「秘密って・・」
言葉に詰まりながら、心臓の鼓動が速くなっていく。
幸に言えないことなんて沢山あるからだ。
「・・そんなの、あるに決まってるじゃん。双子だからって何でも言うわけないだろ!」
明は動揺を悟られないように笑う。
そんな明を見て幸は目を少しだけ見開くと、すぐに口元の端だけ上げて「そうだよね」と小さな声で言った。
「秘密なんてあって当たり前だよね。俺も明も・・」
「・・そうそう!当たり前だって!じゃぁ、俺風呂入ってくるね」
明はそう言うと、そのまま扉を開けて逃げるように部屋を出ていく。
それからトントンと階段を降りながらジッと足元を見つめて考えた。
幸はどうして突然あんなことを聞いたのだろう。
何か幸にバレてしまったのだろうか。
それとも・・
幸自身に、何か後ろめたい秘密でもあるのだろうか・・?
わざわざこちらにも秘密があることを確認することで、相殺されたいような秘密が・・
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