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Schenk mir Liebe
ときどき、優しいあの人のことが欲しくて欲しくてたまらなくなる。
強く抱きしめてキスをしてほしい。そして、情熱的なまでに愛してほしい。
ただひたすらに「欲しい」という感情が渦を巻いて、思考が低下していく。
久秀さんのお兄さんが経営するフレンチレストランで、久しぶりに二人での食事会。
目の前で久秀さんはイベリコ豚のチョリソーを食べながら、ベルギービールを飲んでいる。そんな久秀さんはすごく楽しそうで、オレだけこんな浅ましい感情を抱いているのがおかしいぐらい。
言ってしまえば、はやく抱かれたい。
最近、忙しくて会う機会も連絡を取る機会すらなかった。それが、たまたま今日、街中で再会して、お互い明日までオフだというから、一緒に飲みに行こうという話になり現在に至るのだ。
セックスをするかはまだ決まっていない。どちらかの家に泊まるかなんて決まってもいないし、ただ一緒に飲みに来ているだけである。
ビールを飲みながら、ちらりと久秀さんの顔を見る。
すでにほろ酔いでも久秀さんは相変わらずカッコイイ。役のために伸ばしている髪もヒゲも彼によく似合っている。
セックスした時にあの髪が頬を撫でて、あのヒゲが鼻下にあたるのだな、と想像すると心臓がドキドキして喉がカラカラに乾いて、ごまかすようにまた一口ビールを飲んだ。
欲しい。久秀さんが欲しい。
我慢できなくて、足で久秀さんの足をつつけば、彼は眉をハの字にして笑う。
気付いてくれただろうか。オレの気持ちに。
目を合わせないように俯けば、ぽふっと頭を撫でられた。瞬間、ぶわっと体に電流が走った気がした。触れてもらえて、体中の血液が下に集まっていくような感覚に、思わず身震いする。
久秀さんは少しため息をついて、伝票を片手に立ち上がった。
「なんか、コイツ酔ったみたい。そろそろ帰るわ」
「タクシー呼ぶか?」
「頼むよ」
そんなやりとりを久秀さんとお兄さんがしているのが聴こえてくる。けれど、ほとんど頭には入ってこなくて、ただグルグルと久秀さんに「抱かれたい」という気持ちしかない。
これでは、ただヤリたいだけ。思わず自嘲してしまう。
「ほら、水飲んどけ」
久秀さんが水の入ったコップを置いてくれる。オレの耳は象のように久秀さんの声を捉えて離さない。些細な言葉ですら、今のオレには毒となる。
お兄さんも心配して声をかけてくれるので、水をいただきながら対応する。
さすが兄弟というべきか、声も顔もよく似ていて、久秀さんがもっと歳を重ねたらこんな風になるのだろう。十年後の久秀さんの姿を想像して、また、ドキドキしてしまった。
「ラスティ、ほら。タクシー来たぞ」
「うん」
そう呼ばれて言われるまま着いて行く。食事代も久秀さんが出してくれて、しかもマンションまで送ってくれた。
マンションについた時点で、オレはもう我慢の限界だった。
欲しい、という強い気持ちに支配されて、まるで熱に浮かされているかのようだ。
フラフラと足元がおぼつかない。久秀さんが肩を貸してくれる。
「飲みすぎちゃったんだな。困ったやつめ」
部屋まであとすこし。時間にしてたぶん二分ぐらい。その時間がもどかしい。
久秀さんは一言も喋らないオレに、ペラペラと話かけてくれる。気を紛らわそうとしてくれているのだろう。
だけど、それは今のオレには逆効果だ。
久秀さんへの想いが溢れて零れて。
部屋の中に入った瞬間、久秀さんに思いっきり抱き着いてやった。
「おわっ!」
急に抱き着いたものだから、久秀さんでもオレを支えることが出来ずに、その場に倒れ込んだ。
「ラスティ!」
「久秀さん!」
久秀さんがたしなめるように名前を呼ぶ。それと同じタイミングでオレも久秀さんの名前を呼んだ。
夢中でキスをして、久秀さんの匂いを堪能するようにギュッとしがみつく。
首筋に歯をたてると、久秀さんはオレの頭をよしよしと撫でた。
「わかったわかった。ここじゃ背中痛くなるから向こういこう」
久秀さんになだめられて、手をひかれてベッドに向かう。
ベッドに腰かけて久秀さんを引き寄せれば、オレにそのまま馬乗りになった。
「エッチしたい……」
「はいはい」
「そんなんイヤや、久秀さんもエッチしたいって言って!」
「俺もエッチがしたいよ」
困ったような呆れたような声で久秀さんが言ってくれる。
オレがわがままを言っている自覚はある。でも、今日はたくさん久秀さんに触れたくて、触れてほしくて。いつもは言わないわがままを言ってしまう。
それでも、久秀さんは困りこそするが、絶対に怒ったりはしない。
「兄貴の店にいたときからずっと、物欲しそうだったもんな」
あやすように髪を撫でてくれる。目じりの皺を深くして、優しく微笑んでくれた。
「しょうがない。ご要望にお応えしてたくさん愛してあげる」
そう言いながら、久秀さんがキスしてくれた。
ちゅ、ちゅと啄むようなバードキスを繰り返しながら、久秀さんの手はオレの服をたくし上げられ胸のあたりまで顕わにされた。
「乳首、もう立ってるけど……なんかした?」
指で両胸の乳輪を円を描くようになぞりながら聞かれる。乳首なんて触ってない。そんなこと言わなくてもわかっているくせに。
久秀さんがオレの身体をこんな風にしたのだ。こんな気持ちいいことは今まで知らなかった。全部ぜんぶ久秀さんが悪いんだ。オレの体は彼のおかげで作り替えられてしまったのだから。
「なんにも。久秀さんがエッチにしたんやから……」
「そっか。俺のせいでラスティの体はこんなにもエッチな体になっちゃったんだなぁ」
可愛いと言いながら、久秀さんはオレの胸に舌を這わせる。ぺろりと舐められた胸はそれだけで快感を拾った。肌に当たる長めの髪とヒゲの感触が、さらに快感を高める。
乳首をちゅうと吸われれば、強い快感が全身を駆け巡ってもっとしてほしくなる。思わず胸を突き出してもっともっととせがんでは悶えてしまう。
そんなオレの期待に応えてくれるかのようにくちゅくちゅと音を立てて胸の飾りへと愛撫を続けてくれる。
「ンあっ……ひさひで、さぁっ……」
胸の飾りにばかり吸い付くものだから、反対側の乳首がいじってもらえなくて疼くように痛い。そちらも触ってほしくて久秀さんの後頭部に手をやってぐいぐいと胸に押し付ければ、仕方ないなぁと言いながらもう片方の胸を弄ってくれた。
その間にズボンを脱がされてパンツの上から自身を揉まれる。優しくゆっくりと握りこまれて上下に擦られるとたまらない快感が生まれる。でも同時に物足りなさもあってもどかしいばかりだ。
「前もいじってほしい?」
コクコクと必死に首を縦に振れば、下着を脱がされて直に握りこまれた。先端から零れる先走りでくちゅりと音がなる。その音ですらオレを興奮させる材料になった。
久秀さんがオレの竿を握って上下に擦り上げる。いつもひとりでするときとはまた違った刺激が気持ちいい。なにより久秀さんの手がオレのモノを触っているのだと思うとさらにたまらない気持ちになって快感を生むのだ。
ずっと我慢していたのもあって限界は早い。久秀さんの手を汚すのは申し訳なくて我慢しようと思うのに、そんな我慢すらできやしない。
「もっ……あかん……出る……」
「一回出しとくか」
ビュルルッと勢いよく出た精を久秀さんは手で受け止めてくれる。最近シていなかったこともあって量が多い気がするし濃い感じもする。まだイってるのにさらに擦りあげるものだから腰がガクガクと揺れた。
くたりとベッドへと沈むオレを見下ろして、久秀さんは手にべったりついた欲望を舐める。その姿がとても扇情的でごくりと唾を飲み込んだ。
「濃いね」
「最近シてなかった……から……」
「ひとりでは?」
「するわけないやん……」
イったばかりで疲れているのに、久秀さんはオレに覆いかぶさってきてキスを繰り返す。気持ちいいけれど息が上がるし苦しい。
でもその苦しさもまた愛おしいと感じてしまうのだから重症だ。もっともっととおねだりすればしょうがないなと言いながら久秀さんが服を脱ぎ始めたので、オレも体を起こす。
久秀さんのシャツが脱ぎ終わる頃、オレも衣服をすべて脱ぎ捨てて裸になった。
「よくできました」
ちゅっとご褒美のキスをしてくれるから、お返しにほっぺたに口付ける。
ゆっくりと横たえられて脚を広げられた。その間に久秀さんが入ってきて閉じれなくなる。オレのすべてを見られているかと思うとドキドキしてたまらなくなった。
ローションを垂らされて、つぷりと指が奥まで入り込んでくるのがわかると思ったらすぐに二本目の指が突っ込まれて中をかき乱される。
「ひっ……あんッ……あっ」
何度も抜き差しされると気持ちいいのがどんどん蓄積していくような感じがする。もどかしいほどにゆっくりと出し入れされ、広げられる。それもまた刺激になってもっともっととせがむことしかできなくなってしまった。
久秀さんの指をおいしそうに咥えこんだところで、さらに指が増えて三本目まで入ってくる。バラバラに動かされて内壁をなぞられたり擦ったり、それがたまらなく気持ちよくて声が止まらない。
ぐちゅぐちゅという水音が大きくなればなるほど、今、久秀さんの指に犯されているのだと思うとたまらなく興奮する。
「やっ……もっ……ンぁあッ……」
何度もいいようにされたからすっかり柔らかくなった中は、もう受け入れる準備ができただろうに。まだ焦らすようにバラバラに指を動かされてさらに広げられる。
そんなんじゃ足りないよというように奥が疼いて仕方がなかった。
早く欲しいと思った瞬間、急にずるりと指が抜かれて代わりに熱いものがあてがわれた。視線を上げれば今にも獲物に食らいつかんとする久秀さんの顔があった。
「もう、欲しいの?」
問いかけられて素直に頷く。オレの体は求めてやまなくて我慢できないと腰が揺れる。それを見て満足そうに笑った久秀さんは一気に押し入ってきた。
「ひぁっ……ああッ、はっ」
一度イって敏感になっているからか、ずっと欲しかった快感が一気に身体中を駆け巡るようだった。
待ちわびたとばかりに中がぎゅうぎゅうに締まり、久秀さんを離すまいと絡みつくのがわかる。気持ちよすぎてどうにかなってしまいそうで、目の前にいる久秀さんに必死にしがみついた。
「そんなに欲しかったの?」
「ンっ……ひさひでさ、んがほしかっ……」
言い終わる前に唇をふさがれる。何度も角度を変えて繰り返されるキスにだんだん息苦しくなって口を薄く開くとすぐさま舌が入り込んでくる。
歯列をなぞられて上顎を撫でられればゾクゾクとした快感が背筋を駆ける。そんなキスをされながら腰をゆるゆると動かされてさらに追いつめられた。
深く中まで入り込んでくる久秀さんがオレの中でドクンと脈打つのがわかる。中がそれに反応するみたいに絡みつくのが恥ずかしくて気持ちいい。
口をふさがれたまま何度も奥を突かれると、気持ちよすぎて頭が真っ白になりそう。
「あッ……やぁ、そこっ……」
「好き?」
「ん……すきぃ……」
もうずっと前から彼によって開発されている前立腺をこすられるたびに体が飛び跳ねる。トントンと優しく叩かれたり、グリッとえぐるようにされたりとその刺激にいっぱいいっぱいだった。
激しく突かれているわけではないが、その小さな刺激を敏感に感じ取ってしまうためもう限界は近い。
「ね……ンっ、ひさひでさ……」
「ん?」
「一緒がえぇ……ッ」
ぎゅっと久秀さんにしがみついて腰をゆすれば中に入っているものが大きく脈打ったのがわかる。どくどくと波打つように動くのが気持ちよすぎて思わずイきそうになるがグッと堪える。
しかしそれも一瞬のことで、ズンッと一回奥を突かれたと思ったら、激しくピストンを繰り返されてさらに奥まで入り込んでくる。
「あぁあッ! ……ンっ!」
急に訪れた刺激に目の前がチカチカとしてもう何がなんだかわからない。
ただ、気持ちいいのと好きな人と一緒になれていることだけが嬉しくって涙が出る。ぽろぽろと涙を流しながら、必死に久秀さんにしがみついて気持ちよすぎて何も考えられない頭から何とか言葉を探した。
「ひさひでさんッ」
「……どうした?」
「すき……」
「知ってる」
余裕そうな久秀さんがなんだか悔しい。こっちはもうすっかり余裕なんてないけれど、精一杯の抵抗だ。それでもやはり好きな人に抱かれているのだと思うと幸せすぎてたまらないのだ。
ごちゅんごちゅんと奥を突かれるたびに上がる声が止められないし、何より気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。
今、自分がどんな顔をしているのかすらわからないが、きっと酷い顔をしているに違いない。
だがそんなことも気にしていられないくらい、快楽で頭がいっぱいだった。
だんだんと律動が早くなってきて限界が近いのがわかる。
「ラスティ……」
余裕のない声で名前を呼ばれて愛しさがこみ上げる。最後とばかりに奥を激しく突かれて目の前に火花が散ったような感覚に陥る。
「ン……ああぁあッ!」
「くっ……ンッ」
ドクンと中が脈打つのを感じてそのまま熱を吐き出してぐったりとシーツに倒れこむ。そのすぐ後に中にじんわりと熱が広がっていき、久秀さんもイったのだとわかった。
しかし久秀さんはまだ中から抜いてくれなくて、オレの中をゆるゆるとかき混ぜる。
「ぁ……ンっ、ひさひでさん……」
「俺のこと、まだ欲しいんだろ」
「……えっ、やっ……あっ! ぁンっ」
オレはまだイったばかりだし、もうヘトヘトだというのに久秀さんはそんなことをお構い無しにまた中に入り込んでくる。
それはまるで逃がさないというかのようでゾクゾクした快感が背筋を駆け抜ける。
もうヘトヘトだと思っていたはずなのに身体は貪欲にも与えられる快楽をすべて受け止めてさらにと求めてしまう。
すっかりオレの身体も作り替えられてしまったようだ。
「ァっ……ひぅッ! やぁ、ンッ」
激しく奥を突かれながら深く口付けられる。先ほどオレがしたみたいに舌を吸われたり絡められたりするものだから、オレの舌も久秀さんの舌もどちらのかわからない唾液でドロドロになっていた。
口を離すと銀糸が伸びてプツリと切れる。それがなんともいやらしくて顔が熱くなった。
「んっ……ンッ……ッ!?」
何度も奥を突かれているうちに再び硬くなってきた中のものがごりっといいところを突き上げる。
ビクンッと腰が跳ねるのと同時に、ぎゅうっと締め付けると耳元で切羽詰まったような声が聞こえた気がした。
「……っごめん」
「やッ! ……ぁあっ、ンンッ!」
そしてそのまま再び激しく突かれる。一度出された久秀さんのものがぐちゅんぐちゅんといやらしい水音を立てて耳までも犯されているかのよう。
そんな音にも興奮してかどんどん熱が高められていくのがわかった。
もう何度もイってしまっていてこれ以上は無理だと理性が告げているのに、身体はまだ彼を求めて止まないようだ。
もう限界だと思っていた身体は休むことを知らないかのように、ずっと熱を持ち続けている。
そんなオレの身体のことを知っているのか知らないのかはわからないが、久秀さんはまたすぐにオレの中で果てた。
ドクンドクンと脈打ちながら中に吐き出される熱いものに身体はビクビクと反応して欲を吐き出した。これでようやく終わると思うとなんだかさみしいような気分になった。
まだ夜は長いはずなのに早く終わってほしいとさえ思うのだから、もうオレはどこかおかしくなってしまったに違いない。
そんなオレの気持ちを汲み取ったかのように再び硬くなったもので奥を突き上げられる。
「えっ、うそッ……やっ!」
「悪い。俺がまだ足りない」
「むりっ……! あかん、って!」
もう無理だと訴えるオレの言葉を聞かずに再び激しく犯され始めた。
その後も朝になるまで幾度となく抱かれ続けて、次の日はベッドから動けないという事態になったのだった。
求めたのは確かにオレで、たくさんキスをされることも情熱的に抱かれることを望んだのもオレだ。
こういう結果になることは承知の上であったが、オレは一つ大事なことを忘れていた。
久秀さんは普段は優しくて丁寧に愛してくれるが、ひとたびスイッチが入ると途端に加虐性をあらわにしてくる。
たくさん愛されて気持ち的には大満足したが、体力的にはごっそり持っていかれてしまい、今日がオフでよかったとつくづく思ったのだった。
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