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愛に溺れる

「ラスティ」  低く甘い声で名前を呼ばれる。散々抱き合ったあとのピロ―トークで、甘やかされるのが好きだ。  子どもにするように、髪を頬を撫でてくれる。労わるようにトントンと胸を叩かれる。 「可愛かった。気持ちよかったよ」  額にキスをして褒めてくれる。  今日はがんばった。久秀さんが悦んでくれるように自分から誘ったし、口でアレを慰めたりもした。一人でシテるのを見せると、久秀さんはギラついた目で舌なめずりをした。オレで興奮してくれるのが嬉しかった。 「久秀さん」  名前を呼ぶとキスで返事をしてくれる。唇を軽く噛んで、舌を入れてくる。  その先を求めないキスが気持ちいい。 「久秀さん、名前呼んでほしい」 「ラスティ」 「ちゃう……」 「ラスティアス」  滅多に呼ばれない本名に、言いようのない多幸感に包まれる。  大好きなひとに名前を呼んでもらえるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。 「ラスティアス」 「もう一回呼んで」 「ラスティアス」  久秀さんはどうしてこんなにオレを大切にしてくれるのか。好きだなって思うのはなぜだろう。  こんなめんどくさいオレを、久秀さんは全て受け入れて愛してくれる。  ときどき、申し訳なくなって、抱き合う前に泣いてしまうこともある。それでも久秀さんは見限ることなく、なだめてくれるし、たくさん愛の言葉をくれる。 「好きだよ」 「オレも……」  好きと言いかけて、急に不安が押し寄せてきた。体を触れ合わせているのに、それらが全てウソみたいに思えてくる。 「大丈夫。好きだ、愛してるよ」  久秀さんはそんなオレの気持ちを察したように、抱きしめて頭を撫でてくれた。  あたたかいのに、孤独感が埋まらない。 「なあ、久秀さん」 「なんだ?」 「……ずっとこうしていたい」  すがりつくように久秀さんの手を握った。この手を離したくない。この人が求めるままに応えたい。本当に望むならなんでもするから、オレを置いていかないで。  オレを一人にしないで……。 「そんな可愛いこと言うなよ。放したくなくなる」  そう言って久秀さんはもう一度深くキスしてきた。長い舌で口内を愛撫されて、とろけるような感覚に陥る。  オレはもう、女の子とキスなんてできないかもしれない。  こんな気持ちいいことを知ってしまったら、他の人間となんてできなくなる。  オレの中に久秀さんが入っている気がして、ぞくぞくした。  この体は、この人のものだって自覚ができて嬉しかった。 「愛してるよ」  耳元で囁かれた言葉が嬉しくて涙がでた。 「ラスティ、お前は俺だけのものだ」  久秀さんはときどき、オレの心が読めるんじゃないかと疑うほど、欲しい言葉をくれる。  愛に臆病で愛を知らないオレは、今与えられているもので満足できなくなった。  もっともっととねだってしまうようになった。  それが怖くて仕方がない。  この人から与えられるものが多すぎて、溺れてしまうような気がするのだ。

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