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桜は咲いたか

『来週、日本に帰るから上野で花見でもしない?』  というようなメッセージが久秀さんから届いた。  彼は今、短編映画祭に参加するためにロサンゼルスにいる。撮影も向こうでおこなったようで、SNSにはロケをしただの、どこそこに行っただのと投稿されている。  それはそれは楽しそうにしているし、実際に久秀さんの出演した短編映画をネットで見たが面白かった。クセの強い役だったが、それを彼は難なくこなしていて、ますます役者として磨きがかかっていた。  そんな久秀さんが帰国してくるという。そして、デートのお誘いだ。  久しぶりに彼に逢うのは嬉しいし、デート後のことも期待してしまうが。  オレはちらりとカレンダーを見る。日付は三月十日。まだまだ冬の寒さが残る時期である。  桜の開花予報もまだなのに、果たして桜は咲いているのだろうか。  まだ、どこも開花してないと伝えてもよかったが、なんとなく久秀さんが張り切っているような気配を感じたので、特にそれについては触れずに『楽しみにしてる』とメッセージを返したのだった。  そうして約束の日。この光景を見て久秀さんはどう思うのだろう。  東京都心でも雪が降り、うっすら積雪もある。仮に桜が咲いていたとしても花見どころではないだろう。  この様子を見て、さすがになにかしらの連絡があるだろうと、メッセージアプリを確認してみるが通知は入っていなかった。  忘れているだけか、それとも引っ込みがつかなくなっているか。おそらく後者だろう。久秀さんは、妙なところで頑固だから。  電車が遅れていたので、約束の時間を少しだけ過ぎてしまった。遅れる旨を事前に伝えたところ、『了解。気を付けておいで』と返事があった。  上野駅に着くと、あきらかに寒そうな恰好をした久秀さんが、申し訳なさそうにオレに手を振っているのが見えた。 「すみません、久秀さん。お待たせしました」 「いや……いいよ、大丈夫」  耳や鼻を赤くした久秀さんに、もう我慢の限界だった。 「あっははは! 久秀さん、めっちゃ寒そう!」 「……うるさいよ」  指を差してゲラゲラ笑うと、久秀さんは罰が悪そうに顔を歪めた。 「久秀さん、まだこの時期、桜は咲いてへんよ」 「今年はあったかいから早く咲いてると思ったんだよ」 「いや、それはないやろ」  オレは自分のマフラーを久秀さんにかけてやった。ついでに頬を触ってやると、びっくりするぐらい冷え切っていた。 「どっかでお茶せぇへん?」 「やだ。花見する」 「……頑固やなぁ」  ふん、と拗ねたようにそっぽを向く久秀さん。普段は年相応の落ち着きをもっていて、オレを甘やかしてくれるのに、こんなときは子どもっぽいところを見せる。  きっと久しぶりにオレに会うから、かっこをつけたかったのだろう。  そういうところがギャップがあって、不覚にも可愛いと思ってしまった。 「じゃあ、ちょっと散歩する?」 「そうだな……ぶえっくしょい!」 「あー、Bless you」  盛大にくしゃみをした久秀さんの肩をポンポンと叩く。こんな薄着で待たせてしまったことが申し訳なく思えて、苦笑することしかできなかった。 「なぁ、久秀さん。一回どっかお店入ろうよ。絶対、風邪ひくて」 「……そうする」  鼻を啜って久秀さんは、さも当然かのように手を差し出してきた。そして、これまた当然のようにオレの手を取って、自分のコートのポケットの中に突っ込んだ。 「これで、ちょっとはかっこつくかな」 「そういうこと言わんかったら、かっこええんやけどな」 「はは。言うなよ、そういうこと」  久秀さんはわざとらしく困ったような表情を浮かべたが、オレはポケットの中できゅっと手を強く握り返すのだった。  それから、駅のすぐ近くにあるカフェに入り、久秀さんはホットコーヒーを、オレはホットカフェラテを注文した。  コーヒーを一口飲むなり、久秀さんは大きくため息をつく。 「あー、あったけぇなぁ。生き返る」 「そりゃそうやろ」  おおげさな言い方に、オレは思わず噴き出した。久秀さんはその反応に気をよくしたようで、やっとリラックスできたようだ。 「はー……これからどうしようか」  久秀さんがオレの目をじっと見た。  どうやら具体的なプランはないらしい。どうしようもなにも、ただ桜が咲いていないから花見はできない。でも、久秀さんは花見をしたがっているし、オレは久秀さんと一緒にいられるならどこでもよかった。 「花見はできんしな」 「お前、いい性格してるなぁ」  久秀さんは己の失態を思い出したのか、苦虫を嚙み潰したような顔をする。そして、手を伸ばしてきて、オレの額を軽く小突いた。 「まあ、いいや。散歩しながら考えようぜ」 「せやな」  久秀さんはぬるくなったコーヒーを飲んでしまうと、伝票を持って立ち上がる。オレも自分のカフェラテを飲み干し、机の上にあった紙ナプキンで口元を拭いた。  外へ出ると空気はさっきよりも冷え込んでいて、歩くのも億劫になってしまうほどだったが、久秀さんとならそれも悪くないと思えるのだから不思議だ。 「今年はあったかいから早く咲くと思ったんだがなぁ」  久秀さんはなんだか悔しそうにぼやきながら、缶コーヒーを一口飲む。  オレもホットカフェラテを飲んでいたが、すでに飲み干してしまったので、自販機で買った微糖のコーヒーを飲んで暖を取っていた。  それからもしばらく桜の木の下で立ち止まっては、開花状況を確認しながら会話をした。しかし、やはりどこも咲いておらず、ただ寒々しい木があるだけだった。 「まぁでも、お前がいるだけで花見って感じがする」  久秀さんは缶コーヒーを両手で包んで暖を取りながら呟く。そして、おもむろに身をかがめてオレの頬に唇を落とした。 「ふふっ。なにしとん?」  くすぐったさに肩を揺らし、オレは照れを隠すように笑った。しかし、久秀さんの唇は離れていかない。ちゅ、と音を立てて何度も頬や額にくちづけてくるものだから、なんだか背筋がぞくぞくしてきた。 「ちょっと……久秀さん……」  さすがにこれはまずいと思い、オレは久秀さんの肩を押し返す。だが、久秀さんはお構いなくといった様子でオレの体に腕をまわして抱き締めてきた。 「さみぃんだよ。だから、ちょっと暖を取らせてくれ」 「そんなん……オレやって寒いわ……」  久秀さんの体温は外気に晒されて冷え切っていたが、それでも触れ合ったところからじんわりと熱が伝わってくるようだった。オレも彼の背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。  すると、今度は唇にキスされる。何度も啄むようなくちづけをされて、オレはなんだか頭がぼうっとしてきた。  久秀さんの唇はコーヒーの味がして、それがまた妙な気分にさせるのだ。  ぬるりとした舌がオレの唇を割って入り込んでくる。歯列や上顎をなぞられ、舌を絡め取られると背筋がぞくぞくした。  オレも負けじと舌を動かすと、くちゅりと唾液が混ざり合う音が耳に響く。その音にも煽られて、オレは自分から積極的に久秀さんを求めた。 「ん……ふぁ……」  舌の動きに翻弄されながら、オレは必死になって久秀さんにしがみつく。しかし、キスは次第に激しさを増していって、上手く呼吸ができなくなった。  酸欠気味になってくらくらしてきたが、それでもまだ離れる気にはなれない。むしろこのまま蕩けてしまいそうなほど気持ちがよかった。  やがて、どちらからともなく唇を離したとき、オレたちは互いを見つめ合っていた。瞳に情欲の色が浮かんでいて、早く続きをしてくれと訴えかけてくるようだ。 「場所、変えようか」  久秀さんは掠れた声で囁くと、オレの手を引っ張って歩き出す。オレはなにも言わずについていったが、頬が紅潮していくのを止められない。  心臓もばくばくとうるさいぐらいに高鳴っていて、今にも破裂してしまいそうだ。  連れてこられたのはホテルだった。いつもならこんなことしないのにと思いつつも、期待してしまっている自分がいる。  繋いだ手をぎゅっと握り返すと、久秀さんがこちらを向いたので目が合ってしまった。恥ずかしくなって顔を背けようとしたができなかった。なぜなら、そのときにはもう唇を塞がれていたから。 「ん、んぅ……」  何度も角度を変えてキスされるうちに頭がぼうっとしてきた。オレは久秀さんの背中に腕を回して、自分からも積極的に舌を動かす。そうすると彼は喜んでくれて、ますます激しく求めてきた。 「……っは……はぁ……」  やっと唇が離れたときにはすっかり息が上がってしまっていた。酸欠気味で苦しいはずなのに、まだ物足りないと思ってしまう自分がいる。 「久秀さん……」  オレは熱っぽい声で名前を呼ぶと、彼の首に腕を回して抱きついた。久秀さんもそれに応えるように強く抱き締め返してくれる。 「あんまり煽らないでくれよ」  困ったような声でそう言って、彼はオレの耳元に唇を寄せてきた。そして、耳たぶを優しく食まれる。それだけでもぞくぞくした感覚に襲われてしまい、オレは小さく喘いだ。 「んぅ……」  くちゅくちゅという水音が響くたび、体が熱を帯びていくのがわかる。もっとして欲しいと思ってしまうけれど、それを言葉にすることはできなかった。  代わりにオレは自分から強請るように腰を押し付けていたようで、久秀さんが小さく笑う気配がした。 「今日はやけに積極的だな」 「……久秀さんやって、いつもより興奮しとるやん……」  オレは拗ねたような口調で言うと、久秀さんはオレの首筋に吸い付いてきた。ちくりとした痛みが走ったが、それさえも快感へと変わっていくようで背筋が震える。 「そりゃそうさ。久しぶりに会うのに、お前と一緒にいて興奮するなって方が無理な話だろ?」  久秀さんはそう言って笑うと、オレの服の中に手を入れてくる。脇腹から腰にかけてをゆっくりと撫でられると、体が勝手にびくびくと跳ね上がった。 「あっ……だめ……」  制止の声を上げたが久秀さんは聞く耳を持たずに行為を続けていった。上半身をまさぐっていた手は胸まで上り詰めてきて、両方の突起を同時に摘まれる。  その瞬間、電流のような快感が体中を駆け巡り、オレは堪らず仰け反った。 「あぁっ……!」  あまりの快感に涙が出そうになる。頭がどうにかなりそうだった。久秀さんはオレの反応を見て楽しんでいるのか、執拗にそこを攻め立ててきた。  指先で転がされたり、軽く引っ張られたりするたびに、オレは甘ったるい声を上げてしまう。 「やぁっ……そこばっか……あかん……」 「どうして? こんなに気持ち良さそうじゃないか」  久秀さんは耳元で囁くと、今度は耳たぶを口に含んできた。ぬるりとした感触と共にぴちゃりと水音が響く。その音すらも刺激になり、オレは体を震わせた。  そのまましばらく耳を責められていたがやがて舌は首筋へと下りていき、鎖骨のあたりをきつく吸い上げられる。  ちくりとした痛みが走るが、それも快感となってオレを苛んだ。 「あっ……んぅ……」  何度もキスをされて、全身には赤い痕が散りばめられる。その間も胸への愛撫は続いており、オレの胸の突起はすっかり赤く腫れ上がってしまっていた。  久秀さんは満足そうな表情を浮かべると、ようやくオレの服の中から手を抜いた。そして、今度はオレのズボンに手をかけると下着ごと一気に引きずり下ろす。  オレは一糸纏わぬ姿になったが羞恥心よりも期待の方が上回っていたので、自分から足を開いてしまう。  久秀さんはそんなオレを見て意地悪く笑うと、内腿に手を這わせてきた。最初は軽く撫でるだけだったが次第に付け根の方へ移動していき、ついにはオレの一番弱いところに触れてしまった。 「やっ……あぁんっ……」  あまりの快感に視界が真っ白になる。しかしそれも一瞬で終わりを告げてしまい、オレは切なげに吐息を漏らした。もう少しだったのにというもどかしさを感じつつ彼を見上げると、彼は意地の悪い笑みを浮かべていた。 「どうした? もっとして欲しいのか?」 「……意地悪や」  オレが拗ねたように唇を尖らせると、久秀さんは宥めるように軽いキスをしてきた。しかしそれだけでは物足りなくて、オレは自ら久秀さんの首に腕を回して引き寄せた。  そして今度は自分から彼の唇に吸い付くと、積極的に舌を絡めていく。その間も久秀さんの手によってオレのものは扱かれ続けており、次第に限界が近づいてきたようだ。 (あ……あかん……もうイってまいそう)  そう思った直後だった。突然、久秀さんの手が離れていったのだ。 「あっ……なんで……?」  もう少しで達することができたのにどうしてやめてしまうのか。オレは不満げな表情を浮かべて久秀さんを見つめた。  しかし、彼は意地悪な笑みを浮かべるばかりで何も答えてはくれなかった。そして、今度はオレのものを口に含んでくるではないか。 「ひっ……! いやっ! ああぁっ!」  生温かい口内に包まれて背筋がぞくぞくする感覚に襲われる。今まで経験したことのない快感に恐怖すら覚えたが、それでも体は正直だった。  久秀さんの舌の動きに合わせて腰を動かしてしまっていることに気付き、オレは羞恥に顔を赤く染める。 「やぁっ! あかん……もぉ……イってまいそう……」  オレの訴えを聞いているのかいないのか、久秀さんは執拗にオレを攻め立て続けた。そしてついに限界を迎えようとしたとき、またしても彼は口を離してしまう。 「やっ……なんでっ……?」  あと少しだったのにという悔しさと物足りなさで泣きそうになったが、久秀さんはそんなオレを見て楽しげに笑っただけだった。  そして、オレのものを優しく手で包み込んで上下に動かし始める。 「あぁっ! だめっ……いまされたらぁ……」  敏感になったそこには強すぎる刺激だった。しかし、久秀さんは止めてくれないどころかますます手の動きを速めてくる始末だ。  オレはもう限界で頭がおかしくなりそうになっていたのだが、そこでまたも彼の動きが止まった。 「なんでぇ……?」 「まだダメ」  そう言って彼はオレをうつ伏せにすると、腰を高く上げさせた状態で固定する。そして、後ろの孔に触れてきたかと思うとゆっくりと指を挿入してきたのだ。 「あぁっ!」  突然襲ってきた圧迫感に悲鳴を上げるが、それでも彼は容赦なく指を動かし続けた。  最初は一本だけだったのが二本三本と増えていき、最終的には四本の指が挿入されるようになっていた。バラバラに動かされながら内壁を擦られるとたまらなく気持ちが良くて、オレはもう何も考えられなくなるほど感じ入ってしまう。  久秀さんはしばらくそうやって中を掻き回していたがやがて満足したのか、ずるりと指を引き抜いた。そして、今度は自分のズボンを下ろすと熱く猛ったものを取り出す。 「力抜いてろよ」  久秀さんはオレの耳元で囁くと、一気に奥まで挿入してきた。あまりの質量に息が詰まるが、それも一瞬のことですぐに快感の方が上回ってしまう。オレは待ち望んでいた刺激に歓喜の声を上げながら大きく背中をしならせた。 「あっ……あぁっ!」  ずぶずぶという音を立てながら何度も激しく抽挿を繰り返す。その度に意識が飛びそうなほどの強い快楽に襲われて、オレはもう何も考えられなくなっていた。 「あぁっ! ひゃあんっ!」  久秀さんのものが出入りするたびにオレのものからは透明の液体が噴き出して止まらない。オレはただひたすらに喘ぎ続け、もう限界が近づいていた。 「やっ……イっちゃ……! もうっ……あっああっ!!」 「くっ……」  オレが達した直後、彼もまたオレの中で果てていた。熱い飛沫を受け止めながらオレはぐったりと脱力する。  しかしすぐに引き抜かれてしまい、物足りなさを感じたところで仰向けに転がされた。 「久秀さん……?」  不安になって見上げると、彼は優しく微笑んでオレの頭を撫でてくれた。  そして、今度は正常位で再び挿入してくる。先程までとは違った角度からの刺激にオレは身を震わせた。 「んっ……ふぁ……」  ゆっくりと律動が開始され、オレの口からは自然と吐息が漏れる。久秀さんはオレの乳首を刺激しながら徐々にピストンの速度を上げ始めた。 「あっ! あぁっ! んっ!」  激しい抽挿にオレは為す術もなく翻弄されるしかない。ただひたすら与えられる快楽を受け入れ続けることしかできなかったのだ。 (あかん……気持ち良すぎておかしくなってまいそうや……)  頭が真っ白になりそうだった。いや、もう既になってしまっているかもしれない。それほどまでにこの行為に夢中になっていた。  久秀さんも余裕がないのか、今までに見たことがないほど真剣な表情をしていた。それがまたオレの興奮を煽ってくれて、無意識のうちに彼のものを締め付けてしまう。 「そんなに締めるなって……」  久秀さんは苦笑いを浮かべながらそう言ってオレの中から出ていく。  そして、今度は仰向けに寝転ぶと、自分の上に乗れと言うように手招きしてきた。オレは彼に促されるまま跨がると、ゆっくりと腰を落としていく。 「んっ……ふあぁあっ……」  自重でより深くまで入ってしまい、それだけで軽く達してしまった。しかし、まだ足りないとばかりにオレは自分から動き始める。  久秀さんのものを手で支えながら上下に動くと、自分の良いところに擦れてたまらなかった。自然と動きが速くなり、やがて限界が近づいてくる。 「あっ! あぁっ! も……あかんっ!」  オレが絶頂を迎えようとしたときだった。  突然下から突き上げられ、オレは背中をしならせて仰け反った。そのまま激しく揺さぶられると頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなるほどの強い快感に襲われてしまう。 「やっ! あぁっ!! あかんっ……またイってまいそう……」  オレは涙を流しながら訴えたが、久秀さんは止まってくれなかった。むしろ更に激しくなっていくばかりだ。オレはもうされるがままに喘ぎ続けるしかできなかった。 「ひぃっ! あっあぁああぁっ!」  最後は同時に絶頂を迎え、オレはぐったりとしながらベッドに倒れ込んだ。  久秀さんもオレの隣に寝転ぶと優しく頭を撫でてくれる。その心地良さにうとうとしていると、彼はオレの耳元で囁いた。 「……愛してるよ」  そう言って微笑む久秀さんに、オレも笑って言葉を返す。 「オレも……愛しとる……」  彼の胸に顔を埋めると、久秀さんはぎゅっと抱きしめてくれた。 「お花見は、また今度しような」 「うん……」  オレは幸せを噛み締めながらそっと目を閉じる。そして、そのまま深い眠りへと落ちていったのだった。  それからしばらくて、オレと久秀さんは綺麗な桜を眺めながら手を繋いで歩いていた。 「あ、見て、久秀さん! めっちゃ綺麗や!」 「本当だな」  久秀さんも嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔を見るとオレも幸せな気分になったので自然と笑みがこぼれた。  すると彼はオレの手を引き寄せて指先に軽く口づける。突然のことに驚いて彼の顔を見ると、そこには優しい笑みがあった。 「お前のほうが綺麗だけどな」  そう言って微笑む彼の姿に胸がきゅんとしたオレは、思わず彼に抱き付いてしまう。そしてそのまま唇を重ねようとした、のだがそれは久秀さんの人差し指によって阻まれてしまった。 「……っ!?」  驚いて見上げると、彼は悪戯っぽく微笑んでいる。その仕草があまりにも色っぽくてドキドキしてしまった。 (ずるいわ……こんなんされたらますます好きになるやん)  オレが恨めしげな視線を送っても、久秀さんは余裕たっぷりの表情だ。それがまた悔しくて、オレは彼の腕を引っぱって歩き出した。 「あ……おい、どうした?」 「久秀さんのアホ!」  オレが叫ぶように言うと、彼は困ったように笑いながらも付いてきてくれる。それがまた嬉しくて自然と口元が緩んでしまった。  そんなオレを見て、彼もまた優しく微笑んでいる。 (あぁもう……ホンマ好きやなぁ)  そんなことを考えつつ、オレたちは手を繋いだまま桜並木を歩いていったのだった。

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