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ライバルは自分

〽アナタのためにこの身を賭して戦いましょう。  テレビ画面には実直そうなスーツの男が、自身の主に向けた想いを優しい声で歌っている。バラード調のその曲は、彼の低い声にあっていて、不覚にもきゅんとしてしまった。  オレがまだ二十代の頃に出演した『アイ・愛・LOVEs』という少女マンガが原作の、ミュージカル作品のDVDを久しぶりに再生している。  オレはそれに登場するラッセル・ド・キャルディという、キャルディ家の御曹司。主人公であるアイ・ミソノ・ハインズ・ランベルに恋心を抱く男性の一人である。  そして、そんなオレに仕える傍仕え、つまり側近の男はヴェルフという。ラッセルが幼少のことからずっと傍にいて、一番の理解者だ。頭も良く仕事もできて腕も立つ、そしてなにより頼りになる。  堅物かと思われるが、実はなかなかユニークな一面もあり、そのギャップが好きだというファンも多いキャラクターの一人だ。  そんなヴェルフを久秀さんが演じた。  初めて舞台に立ったときは、オレが久秀さんに仕える役だったが、このときはまるっきり逆だった。  オレを『坊ちゃん』と呼んでくることに気恥ずかしさを覚えたが、久秀さんはまるで昔からそう呼んでいたように自然に呼んできた。単純なオレはあっさり久秀さんの空気に飲まれて、照れを感じることなく演じることができたのだ。  画面に映る久秀さんは三十代。若く感じるし、今の久秀さんと比べると技量に差はあるが、それでも出演している誰よりも上手い。  このころから、久秀さんは役作りを徹底していたことがすぐに分かった。 「かっこええなぁ」  久秀さんの歌うシーンをもう一度再生する。  自分の歌うところはとても見れたものではないが、久秀さんのは別だ。今のオレの年齢に近いからこそ、得られるものがある。だからときめいている場合ではない。  しかし、 「やっぱ、かっこええ」  世間ではきっと、こういうのを『萌え』というのだろう。  劇中の久秀さんというよりヴェルフはスマートでかっこいい。ビシッと決めたオールバックに、皺のひとつもないスーツ、少し個性的な柄のネクタイに隙を感じてかわいいと思ってしまう。ヒロインに夢中のラッセルに振り回されているところも、ヒロインのお目付け役の少年をからかうシーンもお茶目でかわいい。  しかし、ラッセルがヒロインとともに悪漢に襲われているところを颯爽と助けるシーンなんて、これ以上ないぐらいにかっこいい。 『坊ちゃん、いけませんな。少しヤンチャがすぎますよ』  悪漢との闘いでついたホコリを払うしぐさ、ハードなアクションだったのに少しも息が乱れていない。かっこいい。  整えられたオールバックから一本だけ、額にかかる髪がかこいい。  ラッセルを見る厳しくも優しいまなざしもかっこよくて、オレはDVDを見ながらときめいてばかりだ。  演じているときはそんなことは感じなかったが、月日が経ってこうして見てみると、ヴェルフは男が憧れるすべてを持った男だというのが分かった。  もっともそこには、オレの大好きな久秀さんが演じているから、という意味が含まれるが。  そして、ヴェルフがかっこいいのはここからだ。ラッセルとアイにそれぞれにお小言を言う後ろから、倒し損ねた悪漢が襲い掛かる。危ないと声をかける前に、ヴェルフはワンステップでそれを回避して、回し蹴りを炸裂させるのだ。  百八十五センチの長身から繰り出されるそれのなんとかっこいいことか。きっちり採寸の取られたスーツが彼のスタイルの良さを引き出している。 「ああ、かっこええ」  やはり久秀さんが画面に映るたび、セリフを発するたびにかっこいいと思ってしまう。  どうやら自分は、久秀さんの慇懃無礼とした役柄が好きのようだ。  ギラギラしている悪役も好きだし、どこかとぼけたような役も好きだが、やはりこのヴェルフやそのあとぐらいのミュージカルで演じた頭脳明晰な軍師もドストライクだ。  胸がきゅんとなって苦しくなる。ドキドキするという言葉で表現できないぐらいにドキドキしてしまう。 「ああ、こんな久秀さんにラスティ様って言われてみたい」  クッションを抱きかかえてジタバタする。  普段、オレをからかうときに「坊ちゃん」と呼んでくるが、実はあれもたまらない。からかわれているのはわかっているが、このヴェルフを思い出してしまって、胸が騒ぐのだ。  愛し合いながら「坊ちゃん」や「ラスティ様」と呼ばれたらどうなるだろう。きっとオレはときめきすぎて死んでしまうかもしれない。 『私のこの手も足も脳もすべて坊ちゃんのものです。ですから、どうぞご随意になさってください。大好きですよ、坊ちゃん』 「ああー、オレも好きぃ」 「ラスティ!」  オレが画面のなかのヴェルフにときめくたびに、入ってくる声。とうとう我慢できなくなったのか、それはオレの前に姿を現した。 「ラスティ、あのさ、俺の前で俺以外のヤツに好きっていうのやめてくれない?」 「俺以外のって、久秀さんやないの」 「そうだけど、そうじゃなくて! とにかく、好きっていうなら俺だけにして」  画面の中でなく、画面の外の久秀さんは我慢ならないというように、DVDプレイヤーのスイッチを切った。そして、テレビ画面からオレの隠すように覆いかぶさってくる。  色素の薄い茶色の瞳にたくさん不満の色が浮かんでいて、ひとめでヤキモチを妬いているのが分かった。 「久秀さん、自分で自分にヤキモチ妬くの、最高にかっこ悪いで……」 「じゃあ、俺がラッセルにかわいい、大好きって言ってたらどうなんだよ」 「別になんとも思わへんけど」  どうやらオレの返事がお気に召さなかったらしい久秀さんは、ふてくれさた表情のままキスしてきた。 「俺のほうがキスもセックスも上手いから」 「自分と張り合ってどないすんねん」 「うっせぇ。十年前の俺がお前のハートを射止めてるのがムカつくんだよ」  普段は頼りになる。それは間違いない。久秀さんはいつだって先頭に立ってオレを導いてくれる。恋人であり尊敬できる先輩だ。  しかし、恋愛になるとどうやらそれは別らしい。  独占欲や執着心が強い久秀さんは、オレがほかのひとを話しているのが面白くないのか、すぐに会話に加わってくる。演出家と話していても、さすがに会話に交じってくることはないが、目が届く範囲に気付いたらいる。  なにより「さりげなく」というのがたちが悪い。男だろうと女だろうと久秀さんからすれば、ヤキモチの対象なのだ。  それは別にもう慣れたので構わない。やめてくれと言ったところで、久秀さんはこれからも変わらないスタンスを貫くに決まっている。  しかし、自分自身にまでヤキモチを妬いてしまっては、もはやそれは重症だ。どれだけ、オレのことが大好きなのだろうか。  久秀さんはオレの頬や額にキスをして、力強く抱きしめてきた。 「オレが一番好きなのは久秀さんやで」 「どの久秀さん?」 「今の久秀さん」 「過去と未来の久秀さんは好きじゃないのかよ」 「……めんどくさいな、アンタ」  ヤキモチモードに突入した久秀さんほど、面倒くさいものはない。 「そりゃ、初めて会ったときの久秀さんも好きやし、ヴェルフのときの久秀さんも好きや。でも、オレが今一番好きなのは、こうやってめんどくさいヤキモチ妬いてる久秀さんやで」 「めんどくさくて悪かったな」  そう言いながらもほんの少しだけ機嫌の直った久秀さんは、またオレにキスをしてきた。  上唇を食んで、それから下唇を同じようにする。舌先で唇をこじ開けて、口内に入り込んでくる。ねっとりとしたしつこいキスだ。 「ラスティ、したい」 「……ん」  したいのはオレも同じだ。  久秀さんの熱い視線を浴びながら、オレはこくりと頷いた。 「んぅっ、はっ」  性急に重ねる唇。オレは久秀さんの首に腕をからませて、キスを返した。何度も何度も角度を変えてキスをする。そして、次第に深くなっていく。  ぬるりとした舌が口腔に入り込み、オレのそれに絡まる。粘膜が触れ合う感覚はたまらなく気持ちよくて、オレも積極的に舌を絡めていく。  キスをしながら久秀さんの指は器用にオレの服のボタンをはずしていく。妙に慣れた手つきに、少し嫉妬してしまう。 「はっ……、ん……っ」  キスをやめると、久秀さんの手がオレの服の下に入り込み、胸を撫でてくる。  男だからそんなところを触られたところで、感じるはずがない。そう思っていたのに、オレは久秀さんに触られているだけで、体が熱くなってきた。 「あっ……」  胸の突起を摘ままれて、思わず声を上げてしまった。慌てて唇を噛んで抑え込むが、久秀さんは聞き逃さなかったようだ。 「ここ気持ちイイんだ?」 「ちがっ……ぁっ」  久秀さんの指でいじられているそれはぷっくりと膨らんでいる。気持ちいいかよくないかで言えば、間違いなく気持ちいいのだが、それを素直に認めるのも癪だ。  オレは必死に首を横に振るが、久秀さんの手は止まってはくれなかった。  オレの胸は女のように柔らかくはないが、それに反して滑らかな肌をしている。その肌を堪能するように久秀さんの手は優しく動いて、胸を愛撫する。 「もっ、ええか……ら」 「ダメ。気持ちよくなってるラスティ、いっぱい見たいから」 「ひぃあ!」  爪先で引っ掻くようにして胸の突起を摘ままれる。 「あっ、あっ、やっ、そこっ、あかんっ」 「なんで? 好きだろ?」 「好きやけど……ぁっ」  久秀さんはオレの制止も聞かずに、くにくにと指の腹で擦り上げる。そして、反対側の胸を口に含むと舌先で転がし始めた。 「いやぁ……あっ、あっ」  声を抑えたいと思うのに、抑えることができない。女のような甲高い喘ぎ声が自分の口から溢れてしまっていて、羞恥に死にたくなる。 「かわいい。ラスティ」  ちゅっちゅと音を立てて吸われる乳首が痛いはずなのに、与えられる刺激は快感となってオレの頭を埋め尽くしていく。  久秀さんの空いた手がジーンズの中に入り込み、オレのモノをやんわりと握り込んだ。 「あっ」 「ラスティのここ、固くなってる」 「言わんでええからっ……」 「どうして? 俺はうれしいよ。ラスティが俺で感じてくれてんの」  久秀さんは嬉しそうに笑って、オレのそれをゆっくりと扱き始めた。 「あっ、やぁっ、ん……っ」 「気持ちいい?」 「……っ、あほ……っ」 「素直じゃないラスティもかわいい」  そう言うと、久秀さんは胸への愛撫も再開させてきた。突起を摘まんだり擦ったり。ちゅっと吸われては軽く歯を立てられる。その度、オレの体はぴくりと跳ねた。 「あ……っ、あぁ……」  ジーンズに入り込んだ久秀さんの指が下着のゴムをくぐり、さらにその奥の後孔を撫でた。まだ乾いたそこは指の侵入を拒む。 「や……ぁっ、久秀さっ」 「わかってる」  久秀さんはオレが名前を呼ぶだけで分かったようだ。胸から顔を上げると、オレのジーンズと下着に手をかけて一気に引き抜く。 「ひぁっ!」  いきなり下肢をさらけ出されて、思わず悲鳴を上げてしまった。  しかし、久秀さんは相変わらず嬉しそうに笑う。そして、オレの足を左右に割り開くと、その間に体を滑り込ませてきた。 「ちょ……っ」 「ごめん。狭いかもしれないけど我慢して」  言うや否や、久秀さんの頭が下がる。そして、あろうことかオレの足の間に顔を埋めて、さっきまで指でなぞっていた後孔に舌を這わせ始めた。 「あっ、うそ……っ! やめぇ、そんなとこ……っ」 「ん……、大丈夫」  何が大丈夫なのか分からない。しかし、久秀さんはやめる気はないらしく、唾液でたっぷり濡らしたそこにつぷと舌先を差し込んできた。 「ひぃっ」  ぬるりとした感触は指でされるより、もっとダイレクトに快感を伝えてきた。  久秀さんはオレのそれを口に含んで愛撫する。そして、唾液で濡れたそこに指をゆっくりと差し込んできた。 「あ……っ、や……ぁ」 「大丈夫。ゆっくりするから」 「ん……っ」  久秀さんはオレの足にいくつもキスを降らすと、ナカに差し込んだ指をゆるゆると動かし始めた。 「あっ……ぅん……」  異物感はある。しかし、それよりも快感が上回る。オレは久秀さんの髪を弱々しくつかみながらも、未知の刺激に翻弄されるしかなかった。 「はっ……ぁん……っ、や……あぁっ」  指一本がスムーズに動くようになったのを確認してから、二本目が挿入された。 「あぅっ! ……ぁっ、あっ」  二本の指がナカをバラバラに動く。その度にくちゃくちゃと濡れた音が聞こえ、オレは居た堪れない気持ちになった。 「や……ぁ、いや……っ、ひぁっ」  恥ずかしくてたまらないのに、久秀さんはオレに快楽を与える手を止めてくれない。  それどころか、三本目まで挿入してナカを拡げようとしてきた。さすがにそれがつらくて、オレは腰を動かしてなんとか逃げようとする。しかし、それは久秀さんの手によって阻まれてしまった。 「ラスティ、ごめん」 「なに……?」 「俺、もう限界」  久秀さんは切羽詰まったように言うと、オレの足を抱え上げた。そして、いつの間にか寛げられていたジーンズの前から、すっかり勃ち上がったそれを取り出す。  その大きさにオレは息をのむ。しかし、久秀さんはそんなオレに構わず、それを後孔に押し当ててきた。 「あ……っ、あかん……っ、そんなん、はいらんからぁ……」 「ごめん、ラスティ。力抜いてて」 「や……っ、むりぃ……っ、ひっ」  オレの言葉なんか聞こえないとでもいうように、久秀さんのそれがオレのナカにゆっくりと侵入してくる。 「あ……っ、あぁっ……」 「ラスティ、もうちょっとだから」 「……ふっ、はっ」  散々慣らしたとはいえ、やっぱり指と本物のそれは全然違う。圧迫感がすごくて息苦しい。オレは大きく口を開けてはふはふと呼吸を繰り返す。  しかし、久秀さんはそんなオレにお構いなしで腰を進める。そして、一番太いところが入り切った瞬間、ぐちゅんと大きな音を立てて、一気に奥まで貫かれた。 「あ……っ、アアっ!」  強い衝撃。オレは背を反らせて悲鳴を上げる。 「ラスティ、息吐いて」  久秀さんに言われ、必死になって酸素を吸い込もうとする。しかし、うまく体の言うことを聞いてくれない。 「ゆっくりでいいからさ。俺の動きに合わせて息吐いて」 「ふ……ぅ……」 「そう……いい子だ」  オレを宥めながら、久秀さんはゆるゆると腰を動かす。 「あっ……ぁ……」 「痛くない?」 「んぅ……っ、ぃたく、な……い」  圧迫感は強いが痛みはあまりない。オレはなんとか久秀さんにそう伝える。すると、久秀さんの顔が嬉しそうに綻んだ。 「じゃあ、動くから」 「え……っ、あぁっ!」  言うや否や、久秀さんは腰を動かし始めた。最初はゆっくり。そして徐々に激しくなっていく。 「あ……っ、やぁっ、ひぅっ、あぁっ」 「お前をこうやって気持ちよくさせるのは十年前の俺にはできないだろ?」 「な……にっ、ひぁっ」  奥を突かれながら問われても答えられるはずがない。オレはただ揺さぶられるまま、久秀さんのそれを受け止めるしかなかった。  しかし、久秀さんはそんなオレに構わず、何度もオレの弱いところを突き上げてくる。そのたびにオレはあられもない声を上げてしまう。 「やぁっ、ひぁ……っ! もぅっ、むりぃ……っ」 「……なにをおっしゃいます、坊ちゃん。まだまだ余裕でしょう?」  久秀さんは急に雰囲気を変えて、そう意地悪く笑う。どうやら、ヴェルフになりきっているらしかった。 「だから、もっと私を感じてください」  そして、容赦なく腰を打ち付けてくる。オレはただ揺さぶられるままに喘ぐしかない。  久秀さんの手がオレのそれに伸びる。何度も達したそれは少し触るだけで、すぐに硬度を取り戻した。 「あ……っ! ああぁっ!」 「ラスティ様、愛してます」  普段とは違う声で久秀さんはそう耳元で囁くと、さらに腰の動きを激しくする。  肌のぶつかり合う音と結合部から聞こえる水音が部屋中に響き渡る。その音が恥ずかしくて耳を塞ぎたいのに、それも叶わない。 「坊ちゃん……っ!」 「ひぁっ! ヴェルフッ……ああぁあっ……!」  久秀さんのそれがオレの弱いところをえぐり、最奥まで突き上げた瞬間、オレは背を反らして悲鳴を上げた。そして、同時にナカにいる久秀さんを強く締め付けてしまう。 「くっ……」  久秀さんが小さく声を漏らす。そのすぐ後、熱い飛沫が体の奥で放たれたのを感じた。  その温度に誘われるようにオレも白濁を吐き出す。 「あ……っ、ぅん……」  体の奥で久秀さんの熱を感じていると、ずるりとそれが抜かれる感触がした。それにも敏感になった体は反応してしまう。 「ラスティ」  ヴェルフから久秀さんに戻ると労わるようなキスを降らせてくる。オレはなんとかそれに応えながら、大きく息を吸い込んだ。 「ラスティ、気持ちよかった?」 「……久秀さんのアホ」  オレはそう憎まれ口を叩いて、久秀さんにぎゅっと抱きついた。 「もう、久秀さんじゃなきゃあかんようになっとるやん……」 「ラスティ!」  久秀さんが感極まったような声でオレを抱き締め返してくる。苦しい。けど、それは嫌な苦しさじゃなくて、どうしようもなく愛おしい気持ちだ。 「ラスティ、愛してる」  久秀さんはそう言ってオレの首筋に顔を埋める。そして、優しく噛み付いてきた。  チクリとした痛み。何度ダメだと言っても久秀さんは首筋にキスマークを残す。 「こういうことできるのも俺だけだからな。十年前の俺も、ヴェルフもこういうことできないから。ざまあみろってんだ」 「やっぱ久秀さんは最高にかっこ悪いわ」  へっ、と謎に勝ち誇った顔をする久秀さんに、オレは大きなため息を吐いた。

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