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第4話

「下、脱がすぞ」  一旦身体を離し、風吹はそう言った。僕は恥ずかしくて目を閉じたまま、首を縦に振った。  風吹の手で僕のズボンと下着は完全に脱がされた。元々体毛が薄く、下の毛もろくに生えていない幼さの残る自分の下半身を風吹に見られるのが恥ずかしい。僕はTシャツを引っ張ってなるべく見えないようにした。 「隠さなくていい。絶対笑ったりしないから」  言うと風吹は僕の手を取って上にあげた。羞恥(しゅうち)のあまり両手で顔を覆う。風吹が「……はぁ……っ」と息を乱したのが分かった。  そっと、風吹の手が僕の陰部を覆った。あまりの気持ちよさに、ビクンと身体が痙攣(けいれん)する。 「だいぶ濡れちゃってるな。悪い。パンツ汚れたかも」  手を上下に動かしながら風吹が謝る。僕は首を横に振ろうと思ったけど、結局ただ快楽に悶えただけだった。風吹の唇と舌が僕の頬から首を這って、更に快感を刺激する。  繰り返される風吹の手の動きで、僕のおちんちんはガチガチになっていた。体液もあふれ出ていて、チュクチュクと隠微な音を立てている。 「ふ……っ、ふ、ぶき。ぼく……僕もう……」 「──出そう? いいよ、イって」 「────!!!」  精を放って、僕は身震いした。風吹は大きな手で僕の出したものを受け止めてくれる。今までは眠った状態で出していたのを、初めて意識のある状態でやったことで、僕はそのキツさと開放感を同時に味わった。力が抜けて急激に眠気が襲ってくる。 「よく出来たな。寝ていいよ。ここにいるから」  風吹はティッシュで手を拭って、僕を褒めてくれた。どこに褒められる要素があるのか分からなかったけど、人生で最大というくらいの安堵感(あんどかん)に包まれて僕の意識はそこで途切れた。  目が覚めた時、風吹はちゃんと隣にいてくれた。眠っていたのは多分一時間くらい。風吹の腕の中で目覚めて、さっきの事を思い出して強烈に恥ずかしくなった。 「……起きたか? 身体キツくない?」 「う……うん。大丈夫」  僕はちゃんと下着もズボンも履いていた。寝ている間に風吹が履かせてくれたのだろう。 「あの……風吹、ごめんね。あんな変なことやらせて」  何もかもが申し訳なくて、僕は謝る事しかできなかった。風吹は「いや……」と低く言う。 「何てことねーよ。つか、むしろ役得っていうか……」  風吹にしては歯切れの悪い言い方をしている。なぜか照れているようにも見えた。 「ありがと。自分ひとりでも出来る様に頑張ってみるね」  僕がいうと、風吹は軽く笑った。 「オナニー頑張る宣言されてもな。いいよ、これからも俺が手伝うから」 「えっ? そんな……悪いよ。だって気持ち悪いでしょ……? 僕の……」 「桜のは、全然気持ち悪くない。いいから頼れよ。迷惑じゃないから」 「う……うん。じゃあ、もし上手く出来なかったらお願いします……」  事実、その後も僕は上手くオナニーが出来なかった。やろうと思って股間に手を伸ばすけど、いくらこすっても僕の陰茎はさほど大きくなってくれなかった。  一般的な男子が所謂(いわゆる)〝ひとりH〟をしたり〝マスをかいた〟りする時は、エッチな気分になれるようエロ本とかアダルトビデオを見たりするんだろう。でも僕は手近にそんなものはなかったし、貸してくれるような親しい友達もいなかった。  唯一の親友は風吹と言っても過言ではないが、風吹にAV貸してと言い出すもの気が引けた。 「どーだ? 上手くやってるか?」  数日後、風吹が僕の部屋に来て訊いた。何を指しているのかは明白だったので、僕は静かに首を横に振った。 「なんか……ちゃんと出来なくて……。ダメだよね、僕。不器用で」 「器用さとか、関係ねぇだろ。ほら、こっち来い」  座卓で勉強していた僕の手を、風吹が引っ張る。僕はまた自分のベッドに寝かされて、風吹の手によって射精することが出来た。  そうして僕は風吹に甘えたまま、半年ほどが過ぎた。朝起きた時起こる不快な夢精も、風吹のお陰でおさまってくれていた。お風呂場でする陰部の皮の手入れの仕方も、風吹から教えてもらって実行している。僕の下半身は第二次性徴期を上手く過ごして行けそうだった。  忘れもしない。あれはその年のクリスマスの日だった。僕のお母さんは自分の父親、要するに僕のおじいちゃんが骨折してしまったとかで、おばあちゃんの手伝いをする為に実家へ泊りに行っていた。  桜が心配だからと言って、風吹に一晩一緒に過ごしてほしいと頼んだのは母だった。僕たちは特にコソコソすることもなく、堂々と一緒の部屋に寝る事になった。 「頼みがあるんだ」  寝る前に、どことなく緊張した面持ちで風吹が僕に言った。僕たちはその夜、パーリーなフライドチキンを食べて、ケーキも平らげて、ゲームに興じて楽しい時間を過ごしていた。  お風呂に入って歯磨きもして、寝る段階に来た時、僕に期待がなかったと言ったら嘘になる。きっと、風吹と僕はあの秘密の行為をしてしまうのだろう、と確信をしていた。  でも風吹が急に生真面目な顔になって言ってきたので、僕はついに、こんな関係をやめようと言われるのかと思った。風吹の硬い表情を見て、僕の胃はキュッと縮んだ。この半年間ずっと、いつやめようと言われても仕方ないと思ってきた。 覚悟はしていたはずなのに、想像するのと本当に言われるのでは違うんだろうな、とその時思った。

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