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第10話

「俺が勝手にお前を構ってるだけなんだけど」 「ううん。だって風吹は、その気になればもっと楽しい学生生活を送れるはずだよ。でも僕がいつまでもそばにいるから、世界が狭くなってる気がするんだ。僕たちは……付き合ってるとかじゃないし……ただの幼馴染なのに……こんな……」 「あー、それか。ったく、今かよ」  風吹はイラついた感じで言った。 「恋人同士じゃないもんな」 「う……うん。僕たちは、恋人同士じゃない。だからもうこんな関係も……」 「分かった。愛してるから、結婚しよう」 「うん……。そうだよね……。うん……けっこ……。は? 結婚⁉」 「そう、結婚。俺は桜以外考えられない。お前を生涯、俺のものにしたい」 「け……けっこん……? でも結婚って、男同士で出来ないでしょ?」 「よく分かんねーけど、今はLGBTQなんちゃらとか色々あるし、方法ならなんかあんじゃね? 正式じゃなくてもさ」 「そっ……そんな……。だって僕は……風吹は……」  僕の頭の中は、嵐に襲われたみたいになっていた。結婚……風吹と僕が? 付き合うとか恋人になるとかを飛び越して──結婚? 「……お前が……桜が嫌なら諦める。お前が俺と一緒にいたくないっていうなら、俺はお前の前から姿を消す。二度と会わない」  風吹らしい、きっぱりした言い方だった。きっと、僕が断れば風吹は本当に僕の前からいなくなるだろう。強い、鉄壁の意志を持って。  僕の全身はおこりの様に震え出した。風吹にこの先一生涯会えなくなるかもしれない。そう思っただけで目の前が真っ暗になった感じがした。 「い……嫌だよ。風吹と会えないなんて……そんなの……」  僕の目から無意識に涙があふれて落ちた。風吹は少し安心したように息を吐いて、僕の頬の涙を指で(すく)い取る。 「それじゃ、ちゃんと聞かせてくれよ。プロポーズの返事」 「でも僕……僕は、風吹に釣り合わないし……」 「釣り合うってなんだよ。性別とか、見た目とか、家柄とか、そういう外面(そとづら)的なものか?」 「そりゃあもちろん、そういうのもだけど……。風吹ならもっと綺麗な、可愛い、女の子とか……」 「俺は、桜を愛してる。後は桜が俺を選ぶか選ばないか、それだけだ。他の事は関係ない」  おずおずと、僕は風吹の顔を見た。真剣で、誠実な目で風吹は僕を見ている。 「桜は俺が好きか? 俺とずっと、一緒にいたいと思うか?」  僕はまた泣きそうになった。その答えは、僕の世界にたった一つしかない。 「風吹のこと、大好きだよ。ずっと、ずっと、一緒にいたいと思っている」  風吹はしばらく、何も言わなかった。それから「はー」と大きく息を吐いた。 「良かった……。すげー緊張した」  そう言うと、風吹は僕の頭を大きな手でぐりぐり撫でた。 「ずっと不安にさせて悪かった。俺の方こそ、お前が受け入れてくれるのをいい事に、大切なことをうやむやにしてきたんだ。お前に触れたくてたまんねぇのは俺なのに、オナニー手伝うとか、都合のいい方に持って行って……最低だよな」 「そんな……。僕は嬉しかったよ。風吹はずっと、僕を見捨てないでいてくれたもの」 「見捨てるとかないだろ。俺、めちゃくちゃお前が可愛くて、愛しくて、ずっとお前に触れるのが最高の癒しだった」 「癒し……なの? 全然柔らかくないよ。僕の身体」 「やわっかいよ。俺にとっては。感じやすくて、ガチで反応良くて、桜に触ってるだけですげぇ気持ち良いんだ」  僕は頬を赤らめた。風吹が僕を好きだと分かって、嬉しさと安心で頭がクラクラした。 「なぁ……キスしていい?」 「え? ……あ、うん。もちろん」  風吹は改まった顔で、僕の後頭部に手を当てた。前かがみになって、顔を近づけてくる。  風吹の唇が、僕の唇に触れた。風吹は僕の顎に手をやって、そっと下へと引っ張った。僕の口が開くと、風吹の熱い舌が入り込んで来る。  風吹は容赦なく僕の口の中を舌で探った。僕はキスなんて初めてだったし、ディープキスのやり方も全然分からない。ひたすら僕の舌に絡んでくる風吹の舌の動きに応えるだけで精一杯だった。  風吹はキスをしたまま僕をベッドの上に倒した。時々角度を変えながら、ずっとキスを続けている。僕の狭い部屋にチュ、チュ、と口と舌を絡ませる音が響く。 よくキスの事を〝ちゅー〟と言ったりするけど、ほんとにそんな音がするんだな、とどうでもいい感想が頭をよぎった。 段々息がしにくくなってきた頃、やっと風吹は僕から唇を離した。ほてりと、甘い興奮で赤くなった僕の顔をじっと見ている。「可愛い」と言ってもう一度チュッと口づけしてから、僕の横に身を横たえた。 風吹は僕を引き寄せて、ギュッと抱きしめた。僕は風吹の腕の中で、やっとキスをしてもらえたことが嬉しくて涙ぐんだ。風吹は今まで僕にたくさんのエッチな事をしてくれたけど、何故かキスだけはしなかった。 僕が身悶えているのを見て、風吹も息を乱している時は何度もあった。そんな時僕は、風吹の唇で僕の口をふさいでほしいと思っていた。めちゃくちゃにキスをして、痛くてもいいから、もっと色んな場所を風吹で満たしてほしかった。

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