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第17話

「それじゃ、お借りします。甚平か浴衣、どっちかサイズがありそうな方で」  風吹が答えた。受付担当者は「かしこまりました。少々お待ちを」と言って奥に引っ込んだ。 「イベントやってるんだね。明日が土曜日だからかな」  僕が言うと風吹が頷いた。 「そーだな。インバウンドで外人客が多いからかもな。でも実質無料ってのはいいな」 「うん。……あ、後でお金払うね。全部風吹に任せちゃってごめん」 「いんだよ、お前は金なんて払わなくていい。俺が勝手に決めて全部やってるだけだし、その為にバイトしてんだからさ」 「いや、悪いよ。僕ばっかりそんな……」 「──じゃあ」  風吹が僕の近くへと寄った。手で僕の腰をススッと撫でる。 「カラダで払ってもらおうか」 「──っ」  僕の身体はまた、簡単に反応してしまった。カッと頬が熱くなる。 「ぼ……僕も風吹としたいんだから、それじゃ払う事にならないでしょ?」  言った後、恥ずかしくて下を向いていた僕は、風吹から反応がないので不安になった。そんなに変なこと言ったかな。正直な気持ちなんだけど……。  恐る恐る風吹を見上げると、いつもは透き通る様な白い肌が、赤く染まっていた。僕は驚いて呆然としてしまった。照れて頬を染めている風吹は、なんだかとても可愛かった。 「えと……その……今回は出してもらうね。だけど、後で僕も何かするから」  僕は風吹の厚意を受ける事にした。きっと本当に頑張ってバイトしてくれたんだろう。拒否したら逆に失礼だと判断した。 「……あ、うん。分かった」  風吹の声はちょっとかすれ気味で色っぽかった。僕も更に自分の頬が赤くなるのが分かった。 「お待たせ致しました。甚平と浴衣をご用意しました。大体の勘で見繕ったので、サイズが合わないかもしれません。こちらのサービスは大変人気で、残っているものも少なくなっておりまして……申し訳ございません」  受付担当者は大きめの袋をこちらに差し出してきた。不織布の袋は黒色で中身が見えない。風吹はお礼を言って受け取った。 「とりあえず、お部屋でお召しになってみてください。合わなければそのままお返し頂ければいいので、今の所保証金は無くて大丈夫です」  受付担当者のお言葉に甘えて、僕たちは保証金を預けずにチェックインを終えた。コテージは自分の車をすぐ近くに停められるようになっているらしい。僕たちは指定された駐車場へ車で移動した。  そこはカントリー風の戸建ての建屋が隣接する造りになっていた。風吹が予約してくれた部屋は他より少しだけ離れた場所にあった。  僕達は荷物を運び込んだ。宿泊プランは一泊二食付きだ。夕飯は十八時からビュッフェ型式のレストランが宿泊客に開放される事になっていた。もう少しでご飯の時間になる。  コテージの中は思ったより広めだった。リビングみたいな部屋と、寝室、バスルームに別れている。 「わぁ、こっちテラスになってるんだね」  僕は大きな掃き出し窓の所へ行こうとした。そこで風吹に後ろから抱きしめられた。 「……!」  言葉が出てこない。まさか──もう始まる? でも、もう少しで夕飯の時間になるのに……。 「一個だけ、確認したい事かあるんだ」  風吹は僕の頭に顔を伏せて言った。その声が真剣な雰囲気だったので、僕は少し混乱した。やっと二人きりになれて、嬉しい衝動で抱きしめられたかと思ったから余計だった。 「──え……? なに? どんなこと?」  風吹は一度僕の頭にコツンと自分の額を軽くぶつけた。そして「こっちに座ってくれ」と言って二人掛けのソファへと僕を引っ張っていく。  隣に座った風吹は、前屈みで両肘を脚に乗せて、組んだ手の上に顎を当てている。視線は僕を見ず、前方に向けられていた。  表情が暗い。僕は急に恥ずかしくなった。さっきまで勝手に浮かれていて、すぐにでもコトが始まるのかと期待していた。でも風吹の顔は真剣そのもので、セクシャルな様子は一切感じられなかった。 「……今日、お前水谷と話してただろ?」  突然桃ちゃんの名前が出たので、僕はポカンとした。 「……え……。あ、うん。喋ってたよ。それが何か……?」  なんだろう……。まさか桃ちゃんと話したのがまずかったとか? 「あれ見た時、なんつーか凄く……お似合いに見えたんだ。女子と並んで楽しそうに話してて、普通のカップルっていうか……青春って感じでさ」 「……」  僕は何も言えなかった。風吹が何を言いたいのか、すぐには理解出来ない。 「カップルって……。水谷さんとまともに喋ったのは今日が初めてだよ。あの時だって、弓道をいつから始めたのか、とかそういう他愛もない話だったし」 「いや、うん。それは分かってる。カップルって言ったのは言葉のあやで……」  風吹は何か苦い物でも食べたみたいに、歯を食いしばってギュッと目を閉じた。そしてそれを思い切った様に開き、僕と目を合わす。

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