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第35話

 僕は味噌汁を風吹と自分用に盛りつけてテーブルに置いた。風吹に体調を気遣ってもらう事が、今日は何だかモヤッとする。  もし僕が菫なら──とっくに車の免許も取っていて、バイトでそこそこ稼いだお金でテーマパークにでも出かけようとするだろう。風吹とお互い交代で運転して、お金も出し合って、理想のデートが出来るのに……。 「──どした? 映画嫌なのか?」  僕が黙っていたので、風吹が怪訝(けげん)そうに訊いて来た。僕は急いで首を横に振った。 「……ううん。そうじゃない。何観ようかなって思ってただけ」 「そっか。あ、茄子の味噌汁美味い」  風吹は味噌汁を美味しそうに飲んでいる。僕もご飯に箸をつけた。色々あり過ぎて神経過敏になっている気がする。風吹の言う通り、今日は映画を観てのんびり過ごした方が良さそうだ。 「おばさんはもう仕事行ったのか?」 「うん。僕が起きた時ちょうど出掛けるとこだった」 「……じゃあ、二人っきりだな」  風吹が僕の手の甲にツツツ……と指を滑らせる。僕はそれだけでゾクゾクしてしまう。頬を赤らめた僕を見て「かわい」と風吹が囁く。 「エッチなビデオでも借りるか」  風吹が言い出したので、僕は少し興味を持った。 「そっか、もう十八禁オッケーなんだよね。ちょっと観てみたいかも」  自分で言い出したくせに、風吹は僕の食いつきに面食らった顔をした。 「いや、冗談だって。やめとこう。アクションものかアニメにしよう」 「え? なんで──」  言ったところで洗濯が終わったお知らせの音が鳴る。僕は急いでご飯を食べて洗濯物を乾燥機にかけた。縮む危険のある服だけ部屋干しする。におい対策にスプレーを振ってから、歯を磨いた。  家事の諸々を終わらせてから、僕達はレンタルビデオショップへと出発した。そぼ降る雨の中、二人で傘をさして歩く。近所に住む顔見知りの中年の女性とすれ違った時、「あら、今日はお休みなの?」と訊かれた。風吹は如才なく「はい、そーなんです」と答えてる。  近所の人から見れば、仲の良い幼馴染みがどこかへ遊びに行くように見えるだろう。僕と風吹が付き合っていて、身体の関係もあると知ったら、あのおばさんもやっぱり変な目で見るのだろうか……。 「ねぇ、風吹。なんでAV借りちゃ駄目なの?」  僕は傘が当たらないように、出来るだけ風吹に近づいて訊いてみた。 「なんでってそりゃ……」  風吹は僕の顔を見て口をへの字にした。 「だって借りるとしたらフツーのAVだろ? そんなの見せて桜が女に興味持ったら困るからだよ」 「えー、興味持つかなぁ。なんかますます見たくなってきた」 「だめだ。ナシ!」 「じゃあ……フツーじゃない方の借りるとか?」  風吹はほとんど恐怖を覚えてるんじゃないかと思うほど、困惑した表情を浮かべる。 「──は? 男同士のか? そんなのもっとダメだ。イケメンの俳優に夢中になるかもしれないだろ。やっぱりプロのテクニックは良いとか言い出したら……」  風吹は僕をどんな目で見てるんだろ。そんなに浮気癖がありそうに見えるのかな? 「何観たって風吹より好きにならないと思うよ?」  僕がボソッと言うと、風吹は意外にも赤くなった。その姿が可愛くて、僕は思わず笑ってしまった。 「やっぱりAVはいいや。コメディとかがいいな。後はホラーとか」 「よし、そうしよう」  風吹はホッとしたようだ。誰が見てもカッコイイ風吹が僕の事でオロオロするのが意外だし、それが何だかくすぐったくて嬉しかった。  僕たちはビデオを二本借りて、コンビニでアイスを買って家に戻った。僕の部屋の古いテレビでDVDを再生する。二人で並んで映画を見るのはとても楽しかった。一本はラブコメディものだったので、ちょこちょこラブシーンが出てきてドキドキした。  濃厚なキスシーンの時、風吹が僕の肩を引き寄せてきた。髪や頬にキスをしてくる。僕は話の続きが気になって画面に集中していたけど、風吹が服の上から胸元をまさぐり始めたので意識がそっちへ行ってしまった。 「……ンッ」  僕の乳首の上で風吹の指が円を描く。僕はビクッと震えた。風吹が僕の着ているTシャツをめくりあげ、露になった僕の乳首に吸い付いた。 「ふ……ぶき。映画が……アッ」  風吹は僕の抗議を無視して吸う力を強めた。もう風吹ってば、続き気になるのに……。でもそう思うそばから、僕の身体は快楽に反応してあっという間に降参した。数秒後にはもっと風吹が吸いやすい様に自分から胸を突き出していた。 「アッ……アッ……アンッ……ンッ」 「桜……すごく可愛い。いい声」  風吹が乳首を舌で転がしながら言う。僕は風吹が愛しくて頭に頬を擦り付けた。風吹は顔を上げると、僕の顔を見つめる。息を乱して僕も風吹を見つめた。気持ち良さのあまり目が潤んでくる。 「すげぇ色っぽい顔してる。綺麗だよ、桜」  風吹は僕にキスをした。僕は貪るようにそのキスに応える。何度しても風吹とのキスは新鮮で、身体の芯まで愛情と快感がしびれとなって走っていく気がする。 ※少しお休みをいただきます。4月中には再開したいと思っています。  皆さまも新しい年度の始まりを順調に乗り切れますよう祈っております。
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