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第41話

 甘い快楽に(おぼ)れていた僕は「……何? どんなこ……と?」と息を乱して訊き返した。 「今からさ……その……お前としてるとこ、動画に撮りたいって言ったら怒る?」 「え……?」  風吹の言いたいことが分かって、僕は真っ赤になった。つまりそれは…… 「僕と……エッチしてるとこを撮るってこと……?」 「うん……。なんか最近忙しくて、なかなか出来ないし……。撮っておけば見返せるから。俺にめちゃくちゃ感じてる桜をさ」 「……」  僕はすぐに返事が出来なかった。風吹の言う事は一応筋が通っている。でもなんとなく、そんな提案をする風吹が〝らしくない〟感じがした。でも風吹がまた僕の硬くなったアソコをしごき始めて、僕の思考は散漫(さんまん)になった。 「アンッ、アッ……ハ、アッ……アアンッ」 「桜、すごくエロい。かわい」  風吹は多分、ベッドの横にある僕の机の上にスマホを置いて動画撮影をオンにした。僕は恥ずかしいのと、なんとなく撮られているという興奮もどこかに混じっていて、目を閉じたまま風吹の愛撫に夢中になっていった。  風吹は僕の全身を味わうみたいに唇を這わせ、僕のお尻の穴をローションでほぐしてから僕の中に入って来た。いつも通り大きくて硬い風吹の陰茎に突かれて、僕は気持ち良さに涙を流した。  そうしていると、何か強いうねりのような感覚が内側からあふれて来る。ここ数回、風吹とセックスしている時はそんな感覚に襲われるようになっていた。  僕は風吹の優しくて強い腕の中で、快楽の海の中に深く沈んでいった。  目が覚めたのは真夜中だった。風吹は僕に腕枕をしていて、僕の髪をそっと撫でていた。 「ん……風吹、僕また寝ちゃったみたい。今、何時?」 「……一時半くらいかな」  風吹は僕の頬にキスをした。動画を撮られたことを思い出したけど、上手く撮れたのかどうかを訊く勇気がなかった。 「明日、部活休みだっけ?」 「ああ、試験前だからな。俺はバイト行った後勉強するから、明日は来れないと思う」 「……そっか。僕も勉強するね」 「分かんないとこあったら遠慮なく訊けよ」 「うん、ありがと」  最近の僕は授業で分からない事があると、帰り際に教授を引き留めて質問することにしている。お陰で以前よりも風吹を頼ることが少なくなった。 「なぁ……今日会ったスクールカウンセラーだけどさ……」 「ああ……拓先生? 久しぶりに会ったし、僕たちの学校にいるなんて知らなかったからビックリした。先生がどうかした?」 「……あいつとさ、個人的に会うのか?」  僕は「そうだね、多分」と答えた。拓先生からは僕が小学生当時のことを訊きたいと思っているから、今後会う事になるだろう。 「──どうして? 風吹は僕が拓先生と会うの、嫌なの?」 「まぁ……そだな。あんまり会って欲しくない」  僕は風吹の顔を見た。薄暗い部屋の中でぼんやり浮かぶ風吹の顔は、前方を真っ直ぐ見たまま眉根(まゆね)が寄せられている。 「理由、訊いてもいい?」  風吹の様子が真剣だったので、僕は質問してみた。 「あいつさ……なんかちょっと嫌な感じすんだよな。ガキの頃の事だけど……俺見たんだ」 「? 何を?」 「休みの日、俺サッカーやりに公園に行こうとして、あいつがお前の(あと)付けてるのを見た」  僕は驚いて言葉が出なかった。付けていた……? 拓先生が僕を? 「お前は多分、図書館へ行くとこだったんだと思う。俺はお前に声掛けようとして、お前の後ろを歩いてたあいつに気付いたんだ。変にコソコソしてるように見えた。安田の家庭教師の日でもなかったし、おかしいなって思って……」 「そ、そうだったの? でも先生は僕を見かけたから、声掛けようとしてただけかもしれないし……」 「大学生が小学生にか? バイトの時間じゃねぇし、給料出る訳でもないのに、小学生のお前を構う理由がないだろ」 「それは……そうかもしれないけど……」  実際、偶然鉢合わせしてしまったのではない限り、わざわざ知り合いの子供に声を掛けるのは少し変な気もする。しかも先生は僕の後を付けていたとなると……。 「俺はお前のこと、呼び止めようと思った。そしたら菫が後から来て、桜の名前を呼んだんだ。あの大学生はそれに気づくと、サッとわき道に引っ込んだ」 「菫が……?」 「ああ。待って、先に行かないでーって言ってた。お前は振り返って、菫は友達のとこ行くって言ってなかったっけ? とかなんとか答えてたよ」 「そうだったの? 僕、全然覚えてないや」 「だろうな。俺だって、あの時あいつが変だって思わなきゃ忘れてたと思う。俺は道路の向かい側から見てたから、誰も俺に気付いてなかったけどさ」 「そうなんだ……。確かになんか変だけど……でも……」 「あの後、桜も俺もあの町から引っ越したから関係なくなった訳だけど、またあいつが現れて……ちょっと不安になった。まぁ偶然だろうけどな」 「う……ん。拓先生が僕たちの学校のカウンセラーになったのはたまたまだと思うけど……。風吹が気になるなら、僕気を付けるね」 「そうしてくれ。俺の考えすぎかもしれないけど、なるべく二人っきりにはならないで欲しい」

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