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第69話
「僕が話を聴いてくれてとても良かった、と言ってこれを渡してくれたんだ。僕は仕事でやってるから話を聴くのは当然なんだけど……喜んでもらえると嬉しいよね」
目を細めてしみじみと語る拓さんは感激を隠し切れないようだった。スクールカウンセラーのような難しい仕事をしていて、こうして実際に感謝されるのは感慨深 いものがあるのだろう。僕もなんだか感動してしまった。
「ひとの心に寄り添える素晴らしい職業ですね。拓さんはすごいです」
僕がありのままの想いを伝えると、拓さんはニッコリと花のような笑みを浮かべた。
「桜くんにそう言ってもらえると僕も自分が誇らしくなるよ。実際、とても気を遣う仕事だから時々しんどくなるんだけど……頑張ろうと思えたよ」
拓さんは食堂のテーブルに乗せていた僕の手の上に、そっと自分の手を重ねた。でもすぐにパッと手を離す。
「ごめん、突然触ってしまって。嬉しくてつい……」
「いえ、そんな……。あの、その他のキーホルダーも学生さんからもらったんですか?」
僕はさり気なく会話をそらした。正直、風吹以外の男性に触れられるのは嫌だった。でも拓さんは勢いでやってしまったのだから仕方がない、と思った。
「ああ、これは元々集めてたんだ。僕こういうの可愛くてつい買っちゃうんだよね。昔から可愛いものが大好きで、気に入ると手に入れたくなってしまって。子供の頃はお小遣いをもらうといっぱい買って母から怒られたよ。『男の子なんだからこんなもの付けるのやめなさい』ってよく言われた」
ちょっと寂しそうに拓さんは言う。僕は拓さんが可哀そうになった。でも拓さんももう大人だし、お母さんに怒られたことも昔の思い出になっているだろう。それに可愛いものを集めてしまう拓さんのことも、何だか微笑 ましいなぁと思った。
「今は可愛いキーホルダーを自由に付けられていいですね」
僕が言うと、拓さんは一瞬真顔になってからふわりと綺麗な笑みを見せた。
「そうだね。もう母は何も言えないよ」
「そうですか。別々に暮らしてるんですか?」
「いや……同じ家にいるよ。ただもう、僕に怒ることはないけどね」
「あ、さすがに社会人になると親もうるさく言えない感じですか」
拓さんはまた笑みを見せて何か言おうと口を開いた。そこで僕たちが座っていたテーブルのそばを通った女子学生が「あ~! れにぃがいっぱい。かわいい~」と声を上げた。
視線を上げると三人の女の子達がいて、拓さんがスマホケースに付けているキーホルダーを見ていた。いくつも付いているキーホルダーの中で同じ顔のキャラクターのことを言っているらしい。
「〝れにぽに〟好きなの? めちゃ可愛いよね。あたしはぽにぃが推しなんだ」
三人の中で、フリルがたくさんついたワンピースを着た女の子が拓さんに話しかけてきた。メイクも服もピンクでまとめられていて、パッチリした目につけまつげをつけているその子はアイドルみたいに愛らしかった。積極的な性格なのか、臆 することなく質問を投げかけている。
「あ、そうだね。僕はれにぃが好きで、グッズが販売されると買ってるよ」
「そかー。グッズもすぐ無くなるから競争だよね。毎回抽選になるもん。いっぱい持っててすごっ」
その子はまじまじと拓さんのキーホルダーを見ている。僕は〝れにぽに〟を知らなかったので、話題についていけなかった。とりあえずスマホのブラウザで〝れにぽに〟を検索してみると、どうやらユーチューバーか何かで、動画配信者のグループらしい事は分かった。動画のサムネイル画像にはキーホルダーのキャラが映っていた。今観る限りでは、顔出しで配信しているわけではなさそうだ。
「……アレ? なんかこの子、れにぃに似てるっ」
女の子がかがんで僕を覗き込んだ。スマホに目を向けていた僕は驚いて顔を上げた。
「ほんとだ、似てる」
フリルの女の子の後ろにいた子達の片方の子も言った。隣の子もうなずいている。僕はキョトンとして彼女たちを見返した。
「えっ……僕がですか?」
聞き返すと、今度は彼女たちが驚いたように口を開けた。
「もしかして男の子? 可愛いから女の子かと思った~」
キャピキャピしながら女の子たちは顔を見合わせて笑う。僕がキーホルダーのキャラクターに似ているのだろうか? 確かに髪の毛は濃い目のピンク色で描かれているから、元々赤毛の僕と似て見えるのかもしれないが。
「ごめんね、急に話しかけて。れにぃ似 さん、またねっ」
ヒラヒラと手を振って女の子たちは去っていった。「可愛かったね。あたしも今度れにぃのアクキー買おっかな」とおしゃべりしながら遠ざかっていく。
「驚いたね、明るい子達だなぁ」
拓さんが苦笑交じりに言う。「そうですね、びっくりした」と僕は答えた。そこで拓さんの昼休みが終わる時間が近づき、僕たちのおしゃべりの時間も終わった。
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いつも読んでいただきありがとうございます。
予想より年度末、年度始めが忙しくなってしまいました。
次回は4/10更新予定です。
お待たせして申し訳ございませんが、また読んで頂けると嬉しいです。
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