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3年生の夏休みのこと

     夏の雲ってなんであんなに白いんだろう    太陽の眩しさに目を細めながら空を見上げ、美己男(みきお)は思いきり自転車のペダルを 踏んだ。    夏休みに入る頃、大我(おおが)が学校の近くに倉庫を借りた。  工芸展に出品する作品を製作する為だ。  美己男は、デッサンの夏季講習を受ける、という名目で外出を許可してもらい夏休みに 入ってから度々、倉庫を訪れた。  3年生に進級する時、先輩から譲ってもらった自転車はきちんと手入れがされていて、 高ぶる気持ちを快適に運んでくれる。  美己男は一秒でも早く倉庫に行きたくて猛スピードで自転車を走らせた。  美術室でチェーンソーを握って以来、大我の瞳が熱に浮かされているような濡れた瞳に なった。      あの瞳で見つめられたら    あの手で触れられたら    あの指で撫でられたら    自分はどんな形になっちゃうんだろう  そんな想像で頭がいっぱいになり、体が熱く(うず)いて火照(ほて)る。  顎から汗の雫が垂れ、喉がカラカラになるのも構わず美己男は立ち上がって自転車を 漕いだ。  全開になっているシャッターの脇に自転車を止めて 「せんせー。」 と木の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら中に入る。 「うあ。」  倉庫の真ん中に立っている木の柱がズタズタに(えぐ)られている。  ゴロゴロと切断されて転がっている木の(はし)くれを避けながら歩いた。 「おー、尾縣(おがた)。」  大我が大きなペットボトルの水をグビグビと飲みながら奥にある事務所スペースから出て 来た。  木の柱に近寄ると、ゴンと蹴り倒して、ゴロゴロと倉庫の端まで足で蹴飛ばしていく。 「あーあ、また?ダメなの?」  倉庫の端には、他にもいくつか、同じようなものが転がっていた。 「んー、まぁ、そんなすぐには。ブランクあるし、正直キツイ。」  頭に巻いていたタオルを外して顔の汗を拭う。  伸びかけの髪と無精ひげの大我は2年前の夏休みとは違った意味で教師らしくない姿だ。 「じゃあ、休憩。一緒に昼飯食お。食堂の人が作ってくれた。」 「尾縣、受験生なんだから、あんまり俺に構ってないで勉強しろよ。」  大我がバサバサと頭を振ると、木屑(きくず)がパラパラと落ちた。 「えー、せっかく来たのに。飯、一緒に食わないの?」  美己男は大我の肩に落ちた木屑を払いながら聞く。 「食うけど。」    大我が美己男の持っている袋の中を覗いた。 「昼飯、何?」 「おにぎりと、から揚げ。」 「やった。毎日来れば?」 「何だよ、さっきと言ってる事、真逆。」 「はは、外で一緒に食おうぜ。」  そう言って大我が嬉しそうに笑った。

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