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倉庫での1日目のこと

 3年生が卒業した部屋に入れ替わりで新入生たちがぽつぽつと入居してくるのを横目に、 美己男(みきお)は一人で寮の部屋に閉じ籠って過ごした。  夕方までダラダラとベッドで過ごし、さすがに腹が減ってきて食堂へ行った。  食堂の自販機でパンを買ってボソボソと一人で食べながらテレビを見上げる。  工芸展の締め切りが近いことを告知するニュースが流れるのを見て    先生、チョウコク出来上がったのかな と気持ちが溢れそうになる。  最後に見たものはまだ手付かずの柱だった。      あれから、どうなったんだろう?  美己男は結局、何も見届けていないことに気がついた。  あんなに大我(おおが)に彫って欲しくて、どうしても大我の彫刻が見たくて、 会いに行き続けたというのに。  大事なものを放り出してきてしまったような気がしてくる。      先生に大事なものの為に全力で戦って、偉いなって言ってもらったのに・・    ・・見に行かなくちゃ    できていても、できていなくても    先生のそばで、ちゃんと見届けなくちゃ  美己男は大急ぎで部屋に戻ると洋服をバッグに詰め込み始めた。  部屋の鍵を職員に返し、荷物を手に寮を出ると外は薄暗く寒さに身震いする。  ハッ、ハッと白い息を盛大に吐きながら、美己男は猛スピードで倉庫まで自転車を漕いだ。 「せんせっ。」  息を切らしながら、シャッター脇のドアを開けようとしたが、鍵がかかっている。 「せんせっ、開けて。」  どんどんとドアを叩いた。 「開けてっ。入れてよぅ。」  小さい子供のように美己男は涙声で叫びながらドアを叩き続けるが留守にしているのか、 大我が出てくる気配はない。  美己男はドアを背に座り込み、腕に顔を伏せた。      もしかして、もう、いないとか?  卒業式の日に追いかけなかったことを激しく後悔する。  美己男は寒さと、もう会えないかもしれない、という不安に震えながら小さくなって うずくまった。  行く当てもなく、扉の前に座り込んだまま、動けなくなってしまった。  辺りはすっかり暗くなって、さらに寒さが増してくる。  体がすっかり冷え切ってしまった頃、ガサガサとナイロン袋の音がして聞き覚えのある ため息が聞こえた。  顔を上げると温かい手が頬を挟む。 「冷た。」  大我の黒い瞳と目が合う。  髪が銀髪だ。 「どのくらいいたんだよ。めちゃくちゃ冷たくなってんじゃん。」  美己男は大我の首に飛びついた。 「せんせっ。」 「おわっ。」  美己男の勢いに大我が尻もちをつく。 「ちょっとっ。」  美己男は我慢できずに、うー、と泣き出した。 「もー、何だよ。とりあえず、中に入るぞ。せっかく風呂入ってきたのに。尾縣(おがた)冷えすぎ。」  よっこらせ、と首にかじりついた美己男の腕を掴んで立ち上がらせると、鍵を開けて 真っ暗な倉庫の中に入った。  パチパチと明りをつける。  明りのついた倉庫の真ん中に白く(そび)え立つ彫像が姿を現した。 「あ・・。」  美己男は思わず声を漏らした。  まだ何も彫られていなかった柱に今は、二人の人物が刻み込まれていた。  二人は抱き合っていて、一人が胸にもう片方の人の頭を抱きかかえている。  頭を抱きかかえられた人の手は相手の背中を包みこんで、寄り添い、溶け合って、 二人は一つになろうとしているかのようだ。  温かい光を放っているかのようなその彫像を前にした瞬間、美己男の胸はバクバクと音を たて、喉の奥に熱い塊が込み上げて涙が溢れそうになる。 「あー、ヤバ。これ、すご。」  立ち尽くして彫像を見上げる美己男の手が引っ張られる。  大我に手を引かれて事務所に入ると石油ストーブの前に座らされた。  大我は美己男の肩に毛布を被せ、両手を取ると包み込むように握って、はぁ、と 息を吹きかけた。 「こんな冷たくなって。相変わらず尾縣って、バカだな。」  笑いながら手を温めてくれる。 「もういなくなっちゃったかと思った。」 「銭湯行ってただけだよ。」 「でも、先生のチョウコク、最後まで見届けないとって、思ったから。」 「そっか。」  大我が美己男の手の平を自分の頬に押し当てる。 「今日は一緒に飯食ってくか?」  うん、と美己男は頷くと顔を寄せ大我の唇にギュッと自分の唇を押し付けた。 「一緒にご飯食べて、一緒に寝てよ。」 「寮は?」 「もう出てきちゃった。」 「新しい家は?」 「来週からしか入れない。」 「そういうとこは、ズル賢いな。」  呆れたように言う。 「ほんとにいいのか?」 「うん。今は先生と一緒にご飯食べて、一緒に寝たい。」  「・・わかった。来週までの一週間だけな。飯はほとんどコンビニかデリバリーだし、 寝るとこ、一個しかないからな。文句言うなよ。」 「いい、ひっついて寝る。」  美己男は答えた。 「ほんと、お前、(たち)悪い。」  大我はそう呟くと 「じゃあ、まず、飯にしよっか。」  と立ち上がった。  カセットコンロで煮たインスタントラーメンを頭を寄せ合って鍋から直接すする。 「あのチョウコク、もう完成?」  美己男は熱々のラーメンを食べ終え、温まった体と大我のそばにいる安心感でトロリとした気分で聞いた。 「ほぼ。なかなか顔が決まんなくて。」 「すごいね。先生のチョウコク、俺、やっぱり、すごく好き。なんか、胸がドキドキして 泣きそうになる。」  鍋を片付けようと立ち上がった大我が動きを止める。 「あのさ、もう、そういうの、我慢できないんだけど。」 「え?何?また何か悪いこと・・。」  美己男は、ビクリとして大我を見上げた。  大我が美己男の唇を塞ぐ。 「んっ。」  美己男は一瞬、目を見開くと、大我の首にかじりついた。  舌を絡ませ激しく吸い合う。  ガタガタと美己男は椅子から転げ落ちのしかかってきた大我を受け止めた。  大我の瞳が熱く光る。  美己男は首に腕を回し引き寄せた。  大我の体の重みが胸にかかり、息が弾む。 「んっ。」  お互いの舌を吸い、甘く唇を噛む。  大我の膝が美己男の足の間に割り込んできて、美己男の体はさらに温度が上がり、 腰が疼く。  大我の膝に足を絡ませた。 「あ、待て尾縣。」  大我も息が上がっている。 「ヤダ、待てない。もう、すごい勃っちゃった。」  美己男は泣きそうな声で言った。  大我は困ったような顔をする。 「俺もだけど・・。ちょっと、急ぎすぎ・・。」  大我が腰を引く。 「へぁ?」  美己男は声を上げた。 「そんなっ、先生、こないだも途中でいなくなっちゃうし。あの後、俺、大変だったん だからねっ。今日もこんな中途半端とか、あんまりだよ。この後、どうすんだよっ。」  美己男は切なく腰を(よじ)る。 「あー、だよな、悪かった。」  美己男の必死の訴えがおかしかったのか、大我が笑い出す。 「もうっ、笑いごとじゃないってっ。」  大我は起き上がると美己男の両手を引っ張った。 「ごめん。とりあえず、こんな床の上じゃなくて、ベッド行こ。」  そう言うと大我は美己男の手を引いて床に敷いたマットレスまで行くとゴロリと横に なった。  美己男も寝転んで大我の胸に頬を摺り寄せる。 「尾縣、お前、セックスしたことあるの?」 「ううん、ない。」  それを聞いて大我は美己男の頭をギュッと抱え込む。 「だったらなおさら、焦ってしないで、もっとゆっくりしないと。な?」  美己男は大我に抱き着いた。 「でも先生にして欲しくてたまんない。好きな人とエッチしたいの、ダメなの?」  大我が美己男の頭を撫でる。 「ダメじゃないよ。だけど、傷つけそうで怖いんだよ。勢いだけでやりたくない。」 「先生は俺の事、好き?俺としたい?」 「好きだよ。久しぶりに誰かをこんなに好きになって、結構ダメージ食らった。 お前といると、ほんとにバカになる。我慢できなくて自分でも嫌んなるし。 だからさ、よけい尾縣を傷つけたくない。」  うん、と美己男は頷いた。 「でも、やっぱり、俺、先生としたい。俺も大事に思ってる、先生の事。 多分、先生と同じくらい。だから、それが伝わって欲しい。もっと全部繋がって、 それで一緒にいっぱいになりたい。」  大我が笑って額に唇を寄せる。 「お前、ほんとに、すげぇな。どうやったらそんなすごくなれるわけ?」 「えー?すごいバカってこと?」 「違うよ、すごい愛に溢れてるなってこと。」 「じゃあさ、続きしようよ。俺、もう違うもん、溢れそう。」  美己男はそう言うと大我にのしかかった。  大我が声を上げて笑う。 「待てって。お前、俺の話、聞いてたか?今日はダメだって。」 「なんでっ、もう、我慢の限界なんだってば。」 「ほんと、尾縣はかわいいなぁ。でも、今日、ゴムないし、準備なしは俺が怖くて 無理だから。な?」 「・・んー。」  美己男は(うめ)いた。 「ほら、イチャイチャするだけでも気持ち良いから。」  大我に腰を引き寄せられ、グルリとひっくり返されると下に敷かれる。  体の重みが腹にかかり、キュッと腰が切なくなる。 「じゃ、いっぱいチューして。」 「ん。」  大我が美己男のトレーナーを脱がせ、自分もフリースを脱ぐと足元に放り投げる。  素肌を合わせ、顔を寄せて何度も音を立ててキスをする。  腰を(こす)りつけると、痺れるような快感が走った。 「尾縣、肌真っ白だな。気をつけないとすぐ跡がつきそう。」  首筋から首元まで優しく唇で撫でられる。 「ああ・・。」  大我の銀色の髪が肌にサワサワと触れ、揺れる。 「跡、つけて。」  胸の上に唇が這っていくとチュウと一段と大きな音がして、チリ、と肌に甘い痛みが 走った。 「ひぁ。」  思わず声が漏れる。  ふふ、と大我が笑うと熱い息が胸にかかり堪らない気持ちになる。 「もっと。」  大我が唇を胸に押し当て肌を吸う。  唇が乳首に触れた瞬間、美己男は胸を反らし、大我の頭を抱えた。 「あっ、あっ。」  優しく唇に挟まれ、口に含まれる。  温かく、湿った舌が乳首を(なぶ)る。 「んんっ、あ、うそっ。やだっ。」  美己男は激しく反応してしまう自分の体に、声を上げる。 「ここ、いや?」  大我が顔を離す。 「違うっ、やじゃない。でも、声が出ちゃっうっ。」  美己男はもう、興奮しすぎて何がなんだかわからなくなってくる。 「いいよ、もっと声出して。俺しか聞いてないから。」  大我が笑って、優しく唇にキスをしながら下着の中に手を滑り込ませた。 「ああっ。んっ。あ、せんせっ、擦って。」  首筋に顔を押し付ける。 「下も脱いで。」  ズボンと下着をずらすと、もう美己男のモノは固く勃ちあがって、透明な液が溢れている。 「違うもんって?何が溢れそう?」  大我が耳元で囁きながら、先端をグリグリと撫でた。 「あっ、あん。我慢汁っがっ。」  ビクビクと体が勝手に反応してしまう。 「もう溢れまくってる。」  大我もズボンと下着をずらすと自分のモノを引き出した。 「あっ、せんせぇのもっ、勃ってる。」  美己男は大我の熱く固くなったモノに触れた。 「んっ、そりゃ勃つって。」  お互いのモノを握り、擦り合う。 「あー、せんせぇっ、んっ、気持ちぃ、気持ちいいっ。」  美己男はあまりの快感に大我の腕に強く掴まった。 「尾縣、舌、出して。」  大我の求めに必死で舌を突き出す。  大我がチュウと音を立てて舌を吸った。  ハァハァと息があがり、心臓が爆発しそうに早くなる。 「あー、ダメ。出る、出るっ。」  美己男は叫んだ。 「ん、いいよ。」 「やだ、まだっ、あー、出ちゃうっ。」  美己男は体をのけ反らせ、思い切り白い液を飛ばした。  ビクビクと痙攣する度、精液が飛び出す。 「んー、せんせぇ。」  ギュウと首にしがみついた。 「すげぇ濃い。」  大我が熱く余韻がうねる体を抱きしめてくれる。 「せんせぇ、もっとしたい。もっといっぱい。」  体中に甘く蕩けた倦怠感を感じながら、美己男は大我の胸に鼻を擦りつけた。 「まだ足んない?」 「ん、まだ・・。先生のも、してあげたい・・。」  そう言いながらも木の香りと温かい大我の腕に包まれて美己男はそのまま眠ってしまった。

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