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倉庫での3日目のこと

   喉が渇いて目が覚めた。 「水・・。」  美己男(みきお)は掠れた声で呟き、起き上がろうとして 「あ、()って。」 と、腰の痛みにベッドの上で(もだ)えた。  隣で大我(おおが)がスゥスゥと寝息を立てている。      あ・・、俺、昨日、(かおる)さんと初めてエッチしたんだ  大我の寝顔を見ながら、嬉しさで顔がニヤける。  満たされた気持ちで、つい、眠っている大我の頬にスリスリと鼻を(こす)り付けた。 「あれ?」  そういえば、最後、大我の腹に勢いよくぶちまけて、そのまま、また寝落ちたことを 思い出す。  毛布を上げて中を確かめると、体は綺麗に拭かれて、下着も()かされていた。    馨さん、綺麗にしてくれたんだ    昨日も、そういえば、おとついも・・? 「最悪・・。」  恥ずかしさに枕に顔を伏せた。 「そんなに良くなかった?」  大我の声がする。 「え?ちがっ、俺、一人でイくだけイって気持ち良すぎて寝落ち・・。 あ?馨さん、起きてる?」  美己男は驚いて顔を上げ、起き上がろうとして 「()った。」 とまた、痛みに突っ伏した。  大我が目を開けて、ふ、と笑う。 「朝から大騒ぎだな。」 「ごめん・・。」  美己男は涙目で大我を見た。 「おはよ。」  大我が頭を胸に引き寄せる。 「かなり痛む?ごめん、もっと優しくするはずだったのに途中で止めらんなくなった。」  寝起きのぼんやりとした声が耳に甘く響く。 「うん。痛いけど平気。」  温かい毛布の下で合わせる裸の胸がたまらなく気持ち良い。 「気持ち良かった。」 「そう?」 「うん。昨日、繋がっていっぱいになって、死ぬほど嬉しかった。なのに、寝落ちちゃって。俺ばっかり気持ち良くて、やだなって。馨さんも気持ち良くなって欲しかったから。」 「気持ちいいよ。昨日も、おとといも、すごく気持ち良かった。こんな気分になったの、 久しぶり。一緒に寝るのってやっぱいいな。」  とびきり甘く熱く、唇を合わせる。 「朝飯、行くか。」  うん、と美己男は(うなず)いた。 「じゃあ、今日は俺、自転車こげなさそうだから、責任とって馨さんが前ね。」 「うわ、昨日からやられっぱなしだな、俺。だっせぇ。」  ふふ、と大我は笑った。    ベーカリーから帰ってきてすぐ、大我は彫像の顔を彫り始めた。  また部屋中の酸素を使い切ってしまうんじゃないだろうか、と思うほどの集中力で彫刻刀を振るう。  昼も食べずに彫り続ける大我を美己男は一日中、飽きもせずに眺めた。  ぼんやりとしていた彫像の顔立ちがだんだんとはっきりしてくる。    綺麗だな・・  神様なんて信じてはいないけど、いたならこんな顔をしてるのかもしれない、と美己男は 思いながらその顔を眺める。  夕方、倉庫の中が薄暗くなってきても、大我はまだ彫り続けていた。  美己男が点けた倉庫の電気にようやくハッと手を止める。 「あ、ごめん。邪魔した?」  美己男は点けた電気を慌てて消そうとした。 「あ、いいよ、電気、点けてて。」 と言う大我の声にホッとする。 「ごめん、暗くて危ないかと思って。」 「うん。明るいうちしか彫りたくないから。今日はもう終わりにする。」  そう言うとガシャガシャと脚立から降りて来た。  美己男は彫像の顔を見上げる。 「綺麗。すごく。」 「そう?」  大我がうっすら笑って美己男を見る。 「何?」 「ううん。腹へった。」  そう言いながらもたれかかってくる。  美己男はぐったりとした重みを受け止めて頬に鼻先を寄せる。 「昼、食わないから。ちょっと早いけど晩飯にしよ。」  大我の手を引いて事務所に入ると、給湯器から温かい湯を出して洗面器に張った。  その中に大我の両手を(ひた)す。  一日中、彫刻刀を握っていた大我の手は固くなって少し震えている。 「その前に、タバコ頂戴。」 「うん。」  美己男はタバコを一本(くわ)えると、火を点ける為に一口だけ吸う。  大我の後ろから抱き着いて、指に挟んだタバコを咥えさせた。 「ん、サンキュ。」  深く息を吸うと、チリチリとタバコの先が音を立てる。  思い切り肺の隅々まで煙を行き渡らせるように吸うのを見計らって、またタバコを自分の 指に挟んで大我の口から離した。  ふうー、と煙を吐き出すと、大我は首をひねり、乾いた唇を美己男の唇に押し付けた。  大我の首に美己男は手を回し絡みつく。 「タバコ、だめっつったろ。」 「火、点けただけだよ。肺には入れてない。」 「二人の時だけだぞ。」 「ん。わかってる。」  美己男は大我の首筋に甘く唇を押し当てた。 「あー、腹いっぱい。うまかった。尾縣(おがた)ぁ、銭湯行かね?」  美己男が作った、たらこのパスタをたっぷり食べると、大我はベッドに寝転んだ。 「今日、一日彫ったから背中、バキバキ。湯船に浸かりたい。」 「いいよ、近くにあるの?」 「うん、スーパー銭湯じゃなくて、普通の風呂屋だけど。」 「行くー。」  外に出ると、空気が澄んで冷たく星空が見える。  5分ほど歩くと懐かしい雰囲気の銭湯があった。  番台でお金を払って脱衣所に入る。 「銭湯なんて久しぶり。」  脱衣所には誰もおらず、美己男は嬉し気に声を上げた。 「銭湯なんて行ったことあんのか?尾縣。」 「あるよ、バレー部の合宿で行った時、みんなで銭湯行った。」 「へぇ、そっか。」  大我は背中が痛そうに服を脱いでいく。  美己男も服を脱ぐと、大我が美己男の裸の胸を見て 「あ、尾縣っ。」 と小さく声を上げた。 「うん?」  美己男も自分の胸を見る。  あちこちに小さな赤く(にじ)んだような跡が散っている。 「あ・・、キスマ。」 「・・ごめん。」  大我がしまった、という顔をする。 「誰も見てないよ。平気。」  美己男は全裸になると、大我を残して浴室に入った。  美己男は気にせず、シャワーの前に腰かける。  ちょうど夕食時の時間にきたせいか、浴室にも誰もおらず、貸し切り状態だった。  大我も隣に来て座る。 「誰もいなくて良かった。」  ホッとしたように大我が呟く。 「うん、俺たちの貸し切りだね。ね、髪、洗ってあげようか。」  美己男はそういうと大我の後ろに立った。 「え?いいよ。」 「いいじゃん。昨日もおとついも、馨さん、俺の体、綺麗にしてくれたんでしょ。 今日は俺が馨さんの髪、綺麗にしたい。」  シャワーを手に取ると、大我の顎を持って上を向かせる。  髪を湯で流すと、木の屑が流れていく。 「あは、木屑、落ちて来た。馨さんの木の匂い、これだね。」 「髪だけじゃなくて、服も、何もかも、木屑だらけだからな。」  指先で髪の間をシャワシャワと擦りシャンプーを泡立てる。 「あー、気持ちいい。」  大我が目を閉じて呟く。  耳の後ろを擦ると頭を預けて、あぁ、と小さく息を漏らした。  目を閉じた大我の顔は、今日、彫っていた彫像の顔によく似ている気がする。 「流すね。」 「ん。」  シャンプーの泡を流し終えると、大我が目を開けて美己男を見上げる。 「尾縣はほんとに綺麗な顔してるな。」  美己男はえへへ、と笑って隣のシャワーに戻った。 「?」  大我が何か問いた気な顔をする。  美己男は坊主頭からやっと少し伸びた髪と体を手早く洗うと浴槽に向かった。 「うー、気持ち良い。」  長い手足を伸ばして湯船に浸かる。  大我も体を洗い終わると浴槽に入ってきて、あー、と声を上げる。  目を閉じている大我の横顔を見ながら 「俺、馨さんの顔のほうが好き。」  そう美己男は言った。 「・・?」  大我が目を開けて美己男を見る。 「俺、自分の顔、あんま好きじゃなくて。」 「嫌な目に合ったか?まぁ、一年の時からその顔のせいで追いかけられたもんな。」 「んー、それよりも母さんに・・。小さい頃、母親にお前の顔なんか見たくないっ、 て言われて部屋から時々、締め出されて。この顔、父親にすごく似てるみたい。」 「容赦ねぇな。」 「うん。次の日には、可愛いねって、言って抱きしめてくれるんだけどね。 小さい時は訳わかんなくて。」 「ふーん。カンちゃんは?何て?」 「んー?寛ちゃんは・・。寛ちゃんは頭が良くていいな、って言ったらお前は顔が良いから それでいいんだって。」  大我があはは、と楽しそうに笑う。 「すげぇな、カンちゃん。俺、カンちゃんめっちゃ好き。いいな、尾縣とカンちゃん、 お互いの事、よくわかってんだな。」 「ええ?なんだよ、それぇ。」  大我が何のためらいもなく〝好き〟と口に出したことがなんとなく面白くなくて美己男は 口を尖らせた。  大我が手を伸ばして、美己男の顔を撫でる。 「俺は好きだよ、尾縣の顔。綺麗で。人は美しいもんにどうしようもなく惹かれるように なってんだ。」  今度ははっきりと自分に向けられた〝好き〟を聞いて心臓が跳ねる。  美己男は大我の手に頬を()り寄せた。 「馨さん、・・ヤバい。」 「なんだよ、勃っちゃったか?」 「・・うん。」 「またかよ。盛ってんな。」  大我が笑ってバシャッと美己男の顔に湯をかけた。  水風呂に入ったりしながらなんとか気持ちを収め、逆上せる寸前で美己男は脱衣場に 戻った。  髪を乾かし、コーヒー牛乳を飲んだり、マッサージチェアに座ったり、とひとしきり はしゃいで二人は銭湯を出た。  外は寒かったがほかほかと温まった体で白い息を吐きながら歩く。  もう美己男の肩はほんの少し大我より高く、手足も長い。 「尾縣、でかくなり過ぎで怖い。チワワがハスキーになったぐらいでかくなってる。」  大我が横に並んだ美己男を見て言う。 「何それ。ウケる。チワワがハスキーになるとか、意味わかんないし。」 「はは、見た目は変わったけど、中身はあんま変わってないな。」 「ええっ?中身もすげー成長したでしょ?俺。」  美己男は大我の顔を覗き込みながら手を握った。  チェーンソーと彫刻刀を振るう手は、今は豆だらけだ。 「うん、成長した。けど、尾縣はずっと尾縣のまんま、ずっとブレてない感じで、俺は 尾縣が・・。」  そう言って大我が立ち止る。  美己男も立ち止って抱き合うと軽くキスをした。 「早く帰ろ。」 「ん。」  大我が美己男の手を強く引いて歩き出す。  倉庫に帰ってまだ熱の冷めていない体をもつれされるようにしてマットレスになだれ 込んだ。  服を脱ぎ捨て、確かめるように抱き合う。 「後ろ、向いて。」  大我に言われ、美己男はうつ伏せになった。  背中を吸われ 「んっ。」  と気持ち良さに声を上げる。 「腰、上げて。」 と引き上げられ、尻を掴まれると後ろを舌で撫でられた。 「あ、馨さんっ。やだ、そこっ。」  美己男はビクリと腰を引くが、強く太ももを掴まれていて、引き戻された。 「今日、辛いだろ。」 「あ、でもっ、それっ。」  柔らかく湿った舌が後ろを撫でると、ゾクゾクと鳥肌が立つ。 「んんっ、ああっ。」  舌先が中に入ってくる。  そのまま、モノを撫でられ、さらに擦られると、もう何も考えられなくなった。 「っつっ。んぁ。」 「痛い?」  美己男は何とか首を横に振る。 「いい。あ、も、だめ。」  怖いほどの気持ち良さにあっという間に美己男の腰は崩れる。  グイと後ろに体を起こされ、大我に後ろから抱きかかえられるとビクビクと先から液が 飛ぶ。 「あ、あ。また、一人で。」  美己男は泣きながら呻いた。 「すげー飛んでる。」  大我に背中をジュウ、と吸われてまたビクリと体が震えた。 「かおるぅ、止まんない。どうしよ。」 「いいよ、尾縣のして欲しいこと、何でもしてやる。」  首を捻ると、大我の唇に吸い付いた。  大我の熱いモノが股の間から入って、美己男のモノと重なる。  美己男は腰を動かし、さらに擦りつけた。 「んっ。」  大我が呻く。 「じゃあ、馨さんも、気持ち良くなってっ。」  大我の腕を掴んでマットレスに倒れ込み、ギュッと足を閉じきつく挟み込んだ。 「あっ、尾縣っ。」  大我が背中にのしかかってユサユサと腰を揺らし、美己男の耳にしゃぶりつく。 「んー、馨さんっ。またっ、イくっ。」 「俺もっ、イきそうっ。」  激しく腰を打ち付けられ、一気に高まると熱い大我の精液が背中にぶちまけられた。  美己男も一緒にまた決壊する。  ハァッ、ハァッと大我の荒い息が聞こえる。 「あー、ごめん。背中に思いっきりかけちゃった。」  濃い男の匂いが充満する。 「んーん、平気。」 「動くなよ。今、綺麗にするから。」 「んー。」  また馨さんに拭かせちゃったな、と思いながらも温かくしたタオルで身体を丁寧に拭かれ 気持ち良さに身を委ねると、目を閉じた。

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