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倉庫で 4日目のこと
朝の気配がして美己男 は目を覚ました。
大我 が彫刻刀を研ぐ音に耳を済ます。
美己男はモゾモゾと起き上がって着替えた。
「おはよ」
「おはよう」
大我が顔を上げて眩しそうに美己男を見た。
「俺にも研がせて」
「ん」
大我の前に座り込んで、刃に手を添えシュッと前に押し出すと
「わっ」
と意外と軽い滑りにつんのめった。
はは、と笑って大我は指を重ねると、シャッ、シャッ、とリズムよく研ぎ始める。
始めは大我に動かされているだけだった手が、段々と動きが一体になってどちらが動かしているのかわからなくなった。
大我の息遣いが耳元で聞こえて、呼吸のリズムが重なるのが心地良い。
「チョウコク、いつできあがりそう?」
「明日か明後日には。来週、運び出す」
「そっか。もうすぐ終わるね」
「尾縣 には見届けてもらわないとな。そのために来たんだろ?」
大我が手を止め彫刻刀を持ち上げると刃先を撫でた。
「ん、良い感じ。触ってみ」
ヒヤリと濡れて冷たい刃先に触れると、指先に吸い付くような感触がする。裏返して少し研ぐと大我は彫刻刀を丁寧に拭って立ち上がった。
「今日、もう彫り始めるから朝飯買ってきてくれるか」
「わかった。後で昼も買ってくる。今日はちゃんと食べてよ」
「ん」
大我の熱に浮かされた視線がもう彫像の顔を捉えている。
同じものを見ているのに大我の目には全く違うものが映っているんだな、と美己男は少し寂しくなり『弱い方は傷付いて壊れる』と言った大我の言葉を思い出した。
美己男自身は傷付いたつもりはないが、この半年なす術もなく見ているだけで辛く苦しかったのは確かだ。
馨 さんは國柄 さんといると傷付いて壊れちゃうのかな
大我の脚立に登った後ろ姿を見上げて美己男は胸が痛くなった。
今日の大我は何度も手を止め脚立を降りては彫像の顔を眺め、また彫って、を繰り返した。
「馨さん、昼飯」
脚立を降りて来たところに美己男は声をかけた。
「ん。分かった」
買ってきたおにぎりとインスタントの味噌汁、という簡単な昼だ。
「ありがと」
おにぎりを頬張りながら、彫像を見上げて周りをウロウロする大我の後ろを美己男も味噌汁入りのカップを手について回る。
「彫刻って1回削っちゃったら元に戻せないからキツいよな」
美己男に話しかけているのか独り言なのかよくわからない調子で大我が話す。
「そうなの?でも馨さん、俺が切り刻んじゃった丸太からすごいの彫ったじゃん」
カップを握らせるとズズ、と彫像から片時も目を離さず味噌汁を啜る。
「あの時は・・」
んー、と首を傾げる大我に新しいおにぎりを持たせると、それもすぐさま彫像を見たまま頬張る。
上の空なのに返事を返してくる大我がおかしくて美己男は笑った。
「光が当たる角度によってさ、表情が変わるだろ」
「うん」
「面白いよな」
「うん。でもさ、表情は変わるけど、どっから見ても祈ってるみたいに見えるよね」
「・・え?」
「幸せを祈ってるって言うか、幸せを願ってるっていうか。なんか全部赦される気がするよね」
そう言って大我を見ると大我が目が覚めたようにくっきりとした視線で美己男を見ていた。
「あ、間違えた?ごめ・・」
また言ってはいけないことを言ってしまったのかと、とっさに謝ろうとした美己男に大我の顔が近づいてきた。
頬にギュウと強く唇を押し付けてくる。
「え?馨さん?」
顔を挟まれ、息が苦しくなるほどに強く唇を吸われた。
「んっ」
ようやく唇を離すと
「今日、抱いていい?」
と熱っぽい瞳で訊いて来る。
「え?うん」
もう1度ギュッと唇を重ねると、あっけにとられている美己男のことをもう忘れてしまったかのように大我はガシャガシャと脚立を登り彫刻刀を握った。
その後も、大我は暗くなるまで彫像の顔を撫でては彫り、眺めては彫りを繰り返した。
掘り込んでさらにはっきりとした顔立ちになった彫像は、泣きたくなるほどに美しかった。
やはり祈っているような優しい顔をしている、と美己男は思って薄暗くなった倉庫の電気をパチリと点けた。
もうすぐ完成してしまう
見届けたくて来たのにいつまでも終わって欲しくない、このまま見続けていたい、という気持ちも大きくなってくる。
脚立を降りて来た大我が美己男にぐったりと体を預ける。
「お疲れ様」
木の匂いのする体を受け止め、胸いっぱいに匂いを嗅ぐ。
「今日も髪、洗って」
「うん、いいよ」
「・・明日、完成すると思う」
心臓がズキリと痛くなる。
「・・うん」
美己男は大我の背中を包むように手に力を込めた。
「今日、尾縣としたい。いい?」
銭湯から帰って来て、大我はマットレスの上で美己男を膝の上に抱えた。
「うん、俺も」
美己男は膝に跨って服を脱ぎながら頷いた。
「もう痛みないか?」
大我の服も脱がせて首筋にキスをする。
「平気。昨日だってして欲しかったのに」
「今日、俺、止まんないかも」
大我の舌が胸元を這う。
「痕、つけたい」
「うん。たくさんつけて」
肌に音を立てて強く吸いつかれ捩られてチリリと痛みが走る。
「んっ」
そのまま大我は乳首を大きく咥え込むと吸いながら舌先でコリコリと嬲 り始める。
「ああっ、んっ、んふっ」
美己男は思わず大きく喘ぐ。大我は構わず、ジュウと音を立てて吸うと甘く噛んだ。
「はぁっ、あっ」
美己男は大我の頭を胸に抱え込んで胸を反らした。体中に波のように震えが走る。もう片方の乳首も親指で弾かれるように撫でられ執拗に責められた。浮きそうになる腰を大我はグッと引き寄せ、抱え上げるとマットレスに倒した。
「腰上げて」
ズボンと下着を脱がされ、膝を開く。
大我は内ももに顔を埋め、舌を這わせた。
「んああっ、あっ、馨さんっ」
触れられたことのない敏感な場所をいきなり舐められ美己男の体はビクビクと痙攣する。
「んー、やだぁ」
内ももを吸われモノを握られて、美己男は体を捩らせた。
「また溢れてる」
大我が舌先で裏筋を舐め上げ、先を口に含む。手でしごきながら舌で先端を探られ美己男の目の前がチカチカと光って訳がわからなくなった。
「あー、かおるぅ」
大我は喉の奥まで咥え込むと後ろを撫で、指を中にいれてかき回しはじめた。
「んー、らめぇ、すぐ出ちゃうよぅ」
銀色の髪を掴むと美己男は快感に身を委ね、回らぬ口で大我に訴えた。
「まだだよ、俺の挿れてからな」
大我がゴムを嵌め、美己男の後ろにヒタリと当てた。
「尾縣の中に挿れたい」
「んー、早くっ。イっちゃうっ」
大我は膝を持ちあげると、グッと美己男の中に押し入った。
「あー、尾縣の中、きつくて気持ちい。今日、1日挿れたくてたまんなかった」
大我が呻きながら奥に挿入 っていく。
「擦って、突いて、啼かせたかったよ」
「ああー、馨さんっ。俺もっ、今日ずっと待ってたっ。あんっ、すごっ、熱いっ。もっと繋がってよぉ」
美己男はひたすら声を上げる。
大我が腰を掴んで太ももに乗せると腕を掴んで美己男を引き起こした。
「ほら、尾縣、見て。今、繋がってるとこ。奥まで尾縣ん中、挿入ってるの見える?」
「んんっ、あ、馨さんっ、俺の中、馨さんでいっぱいだよ。こんなに挿入ってる」
ゆるゆると大我が腰を揺すり抜き差しする様を見た。
「あっ、あっ、ナカ、擦ってっ」
膝下に腕を入れて尻を持ち上げられる。
「首、しっかり掴まって」
大我はそう言うと、美己男を抱えて激しく腰を打ち付けた。
「んあっ、ああっ」
グチュグチュと音をたてながら激しく深く突かれた。
「あ、イク、出るっ、出るっ。も、無理っ」
後ろに倒され、奥まで押し込まれた瞬間、体を反らせ爆ぜた。
「ああー、馨さんっ」
ドクドクと先から白い液が吹き出す。
「んっ」
大我もブルリと美己男の中で震える。
お互いのうねりが収まらず繋がったままきつく抱き合い、息を荒げ、そのまま眠りに落ちた。
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