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倉庫で 5日目のこと
「尾縣 、起きて」
大我 の冷たい鼻先が頬を擦る。
「んふ」
美己男 はうっすらを目を開けて笑いながら大我の首に抱き着いた。
まだ明け方で薄暗い。
「おはよ」
「おはよう。早いけど一緒に起きよう。今日仕上がる。全部見てて欲しいから」
「うん、わかった」
「彫刻刀研ぐからコーヒー入れてきて」
大我が手早く服を着て立ち上がるのを見ながら
「すぐ行く」
と美己男も起き上がった。
ポットの湯が沸くのを待っている間、美己男はしばらくぼんやりと机の上を眺めた。
ピー、ピー、という湯の沸いた音に、インスタントコーヒーの粉をカップに入れながら
じわじわと溢れてくる涙を拭った。
朝の光の中で目を閉じている彫像の顔を見上げ、倉庫の端の大我の所へコーヒーを持って行く。
「ありがと」
コーヒーを渡すと、美己男はタバコを手に取った。火を点けて大我の唇に差し出す。
「ここ出たら絶対やるなよ」
大我が唇に咥える。
「分かってる」
「せっかく高校に入ったのにこれで退学とかになったら洒落になんないからな」
「馨 さんにしたいだけだから。・・ねぇ、馨さんフランス行くの?」
美己男は尋ねた。
「あー、うん。まだ行けるかどうかわかんないけどな。挑戦だけはしてみようと思って。尾縣が頑張ってるのに俺も同等になんないと、かっこつかねーだろ」
ふぅ、と大我が吐き出した煙が漂う。
机の上にフランス語の本が何冊も積んであるのは前から気が付いていた。毎日のように大我が食い入るように見ていたパソコンの画面はフランスの会社のホームページのようだった。フランス語は読めないし、何を書いてあるのかはさっぱりわからなかったが、履歴書のようなものを書いていたことぐらいは分かる。
「尾縣が工業科に行きたいって言い出した時、嬉しかった。生徒が成長するとこ見るのって、こんなに嬉しいんだなって思ってさ。先生やってくのも悪くないなって、本気で思った」
大我が彫刻刀を研ぎながら話す。
「でも、すごい腹も立って」
額に垂れた銀髪が揺れる。
「尾縣の事、他の生徒とは全然違う目で見ちゃってたし、可愛くて仕方なかったから。あんだけ煽っといて、俺を置いてくのかよって思ったりもして」
はぁ、と大我の口から息が漏れる。
「おまけに國柄 さんのこと見つけてきちゃうし、もう頭ぐちゃぐちゃでさ。尾縣に自分が彫るからって言われた時、ああ、もうダメだなって思った」
「ダメ?何が?」
「もう、逃げらんない、って」
「何から?」
「うーん、何だろ。尾縣の愛?」
「え?俺の何?」
美己男の問いに答えず、大我は研ぎ具合を指先で確かめ、彫刻刀を綺麗に拭き上げた。
「しんどかったけど何とかまた彫れたよ。尾縣のおかげだな」
「違うよ。俺、何もしてない、何もできなかったっ。ただ、見てるしかできなくって」
我慢できなくなって美己男はうー、と泣き出した。
「何言ってんだ。散々、やらかしといて」
大我は笑って美己男の頭をサリサリと撫でた。
「俺ぇ?やらかしてた?」
「やらかしたろ。もうちょっとでソーで足、切るとこだったし、怖ろしいもん削って出品しようとしたし」
「うぅ」
返事に詰まった美己男に、はは、と笑って大我が立ち上がる。
「尾縣が才能ないと彫れないのかって訊いてきた時、びっくりして、衝撃だった。才能ないと彫っちゃいけないと思ってたからさ」
大我は彫像の前に立って見上げた。
「でも、そんなわけないよな。ただ彫ったっていいんだから」
美己男も大我の隣に立って見上げる。
「うん。馨さんのチョウコク、すごく好きだよ、俺。どうしても見たかった」
「ん、尾縣が最後に一緒にいてくれて良かった」
大我はそう言って脚立を登った。
夕刻の光が倉庫に差し込む頃、大我の手が止まった。オレンジ色の光で満ちた倉庫の真ん中には白い光を放った彫像が佇んでいる。
出来上がったんだな
美己男は大我の背中を見上げた。
彫像の顔は全てをその胸に受け入れるように静かに目を閉じている。
美己男は脚立の上の大我に声をかけた。
「できたね」
「おー、もうこれ以上は彫れなさそう」
ガシャガシャと脚立を降りて来る。
「尾縣も登って近くで見てみ。今しか近くで見られないから」
「うん」
美己男は脚立を登って彫像の顔を間近に見る。
「触ってもいいの?」
「いいよ」
美己男はそっと手を伸ばして彫像の頬に触れた。目を閉じている瞼を撫で、細い鼻筋に指を滑らせると薄く開いた唇をなぞった。
すべすべとした木肌が指先に触れ、うっとりとする。
「・・綺麗」
「その顔、好きか?」
大我が脚立の下から訊いて来た。
「うん、すごく好き」
「そう?何で?」
「え、だってすげー綺麗だもん。きっとみんな好きになる」
「そっか。それ、尾縣の顔だよ」
大我がおかしそうに笑った。
「え?俺?嘘っ。俺、こんな顔してないよ。馨さんの方が似てると思う」
「お前だよ。自分でもよく彫れたと思う。尾縣の顔スケッチした時に彫る顔が決まった」
「俺の顔・・」
彫像の顔をじっと見る。
「綺麗だろ?」
「・・うん。すごく・・」
美己男の目から涙が溢れて止まらなくなった。
「嬉しい」
「そっか。尾縣に見せることできて良かった。お前の顔はな、そんな風に綺麗なんだよ。綺麗なだけじゃない、尾縣が言ったようにみんながきっと好きになる」
そう言ってタバコの煙を吐く。
「今日は晩飯、どっか食いに行こっか。完成祝い。お別れ会も兼ねてさ」
大我がバサバサと頭を振って木屑を払うのを見ながら脚立を降りた。
「・・やだ」
「え?」
「お別れ会は今日はヤダ。まだ明日1日あるし」
声が湿る。
「そっか。じゃあ、どうしたい?ずっと俺につきあわせちゃったからな。最後は尾縣のしたいことしよう」
頬に触れた大我の手に顔を摺り寄せた。
「んー、じゃあ、今日はデリバリーして、チョウコク眺めながら食べたい」
「なんだよ、そんなんでいいのか」
「うん。こんな贅沢なこと今日と明日しかもうできないから」
必死に泣かないように堪 えて大我にしがみつき深くキスを交わす。
「わかった」
「それで、今日もエッチしたい」
「ん、それは俺も」
それを聞いて美己男はやはり、うー、と泣き出してしまう。
「泣くなって」
「んー、ごめんなさい。馨さんが同じ気持ちなのが嬉しかったから」
「そうだな。ほら、何頼むか決めな。今日は食べたいもん全部頼もうぜ」
大我はトイレットペーパーをグルグルと手に巻き取り、美己男の顔にグイと押し付けた。
倉庫に机を持ち出してきて、デリバリーしたピザやチキンなどを並べ、彫像を見ながら贅沢に次々と食べる。
散々、食べ散らかすと大我は彫像の前に座り込み、おいしそうにビールを飲んでタバコに火を点けた。
「ちょっと飲ませて」
美己男も隣に座ってビールに手を伸ばす。
「ダメ」
大我が手を引っ込める。
「ちょっとだけ。試すだけ」
「ダメって。なんか俺が悪いことばっかり教え込んだみたいで嫌だ」
平気平気、と美己男は大我の手からビールを取ると、1口飲んだ。苦い味が口の中に広がる。
「んー、にが」
大我が笑った。
「だからダメっつったのに。お前コーヒーだって砂糖入れないと飲めないだろーが」
「だって馨さんがおいしそうに飲むから」
そう言うと美己男は大我の唇にキスをした。
笑いながら大我が美己男のキスに濃厚に応える。
「あー、マジで我慢できない」
腰を抱きかかえられ引き寄せられる。
「固くなってる」
美己男は大我の張りつめたモノに触れた。膝の間に潜り込み、顔を埋める。
「あ、尾縣っ。やめっ」
大我が吐息を漏らす。美己男は構わず、下着から大我の熱いモノを引き出し音を立ててキスをした。
「ダメだって」
大我が焦ったように腰を引く。
「馨さん、逃げないで」
美己男は腰を抱えて先端を口に含んだ。
「初めてだから、下手かも。ごめんね」
そう言って美己男はジュルリと根元まで咥えてみた。
「ああっ、尾縣ぁ、あ、ダメって」
呻く大我を見上げると、上気した顔で眉を寄せている。ビクビクと張りつめて血管がはちきれそうだ。舌で撫でると大我の腰がグイと持ち上がった。
「あ、ヤバいっ。尾縣っ」
大我の濃い男の匂いがして美己男の気持ちも高まり、舌で包み込んだ。腰を引き寄せ、さらに根元まで顔を近づけると、喉の奥までいっぱいになる。そのままジュウと音を立てて吸った。
「ヤバい、出るっ、離せっ」
大我が叫んで美己男の頭をグイと押した瞬間、白い液が飛び地面に垂れた。
「あ、ぶね・・」
ハッ、ハッと大我が荒く息をする。
美己男はグイと口元を拭い
「大丈夫だった?」
とニコと笑って大我を見上げた。
「お前、その顔やめろよっ」
そう言うと美己男の腕を掴んで立ち上がる。
「シャワー行こ」
簡易シャワーは2人で入ると身動きが取れない程狭い。
「せまっ、無理だって。馨さんちょっと待っててよっ」
「いいじゃん、くっついて浴びれば。ここの給湯器小さいからすぐぬるくなるぞ」
笑い転げながら湯の下でじゃれあう。
「そんなひっついたら洗えないって」
「大丈夫、洗ってやるから」
大我の指が後ろを撫でようとするのに抵抗してあちこちをぶつける。
「痛てっ。ヤダッ、やめっ、馨っ」
「暴れるなって」
「んっ、やだぁ」
大我の長くてしっかりとした指は肌に触れる時には蕩けるように繊細に滑らかになる。
「んっ、あ、馨さん、ダメ」
腰がすぐに砕けそうになる。
「待って、あと流すだけだから」
狭いシャワールームが2人の体温と立ち上がるもうもうとした湯気の熱気で真っ白に曇る。
逆上せた顔でビシャビシャと濡れたまま砕けた腰を引き上げられるようにしてマットレスまで連れて行かれた。
マットレスの上に座り込んだ美己男を大我が後ろから抱きかかえ、タオルで身体を拭く。
「ここに来てから馨さんに毎日、体拭いてもらってる気がする」
「そう言えばそうかもな。尾縣の体、綺麗だからつい触りたくなっちゃうんだよ。後でスケッチさせて?」
耳元で囁かれ、美己男は熱い息を漏らした。
膝を開かれ内ももを撫でられる。
「んっ」
美己男の全身に鳥肌が走る。
大我のローションで濡れた指が後ろを撫でる。
「あー、馨さん・・」
指が中に入っていき、クチュクチュと音を立てて蠢いた。
「ごめん、我慢できない」
大我の息も弾む。
美己男の手を前につかせると、腰を引き上げ尻を掴んだ。
ゴムを嵌めると、グッと先端を押し込み、内側を擦りながら奥へと進む。
「ああ、はっ」
美己男は堪らず顔を伏せ、シーツを強く掴んだ。
「熱い、尾縣の中」
大我が美己男のモノを掴んでグリグリと先端を撫でた。
「尾縣が溢れてるとすげぇ気持ちいい」
「んー、かおるぅ、そんなに握ったら出ちゃうってば」
美己男は涙声で言った。
「待って、顔見たい」
仰向けで繋がり直すと、膝を持ち上げられて奥まで深く貫かれる。大我の顎からポタポタと汗が滴り美己男の胸に降りかかった。
「あ、あ、イっちゃう」
「ん、俺もイきそう」
大我の打ち付ける腰に一気に高まり、体の中がうねった。我慢できずに勢いよく白い液を飛ばしてしまう。
大我も呻いてブルリと体を震わせた。ドクドクと中に広がる熱さが愛おしい。倒れ込んだ大我の銀髪を美己男は胸に抱きかかえた。
トロトロと甘く心地良い浅い眠りを味わう。
全裸でうつ伏せになっている美己男を大我がスケッチしているシャッシャッと言う音を半分眠り、半分目覚めながら聞く。
マットレスの横に座り込み、一心に鉛筆を動かしている大我を美己男はうつ伏せのまま、ぼんやりと見た。
「寝てた」
「うん、ちょっとだけ。いいよ、そのまま寝てて」
石油ストーブの炎がチラチラと大我の顔に影を揺らし、視線が美己男とスケッチブックの上を行き来する。
美己男は腰の辺りまでかかっていた毛布を蹴り飛ばすと横向きになって全身を晒した。
大我がスケッチブックのページをバサリとめくり、新しいページに鉛筆を走らせる。
瞳に光が増し、熱を孕んだ強い視線がチリチリと美己男の全身を焼いた。
熱い・・
大我の視線に美己男は段々と肌が熱くなり、腰の辺りが疼き始めた。
「馨・・」
「もっと見せて」
美己男は大我を見つめ返したまま体を起こすと足を開き、自分のモノをしごき始めた。
大我はバサリとページをめくり、また新しい美己男を描き始める。
鉛筆を走らせる速度が速くなり、ハッ、ハッという自分の息と、シャッ、シャッという鉛筆の音が重なると大我の瞳がますます燃え上がるように光った。
「んっ、馨っ。触って」
美己男が我慢できずに湿った呻き声を上げると大我はスケッチブックを手放し、フリースのジャケットを脱いだ。
大我の腰に跨り、唇を合わせ体を密着させる。
「熱いな、体」
腰を引き寄せられ、大我の固くなったモノが押し付けられた。
「馨さんがあんまり見るから」
大我の指が熱く美己男の後ろを撫でる。
「もっと欲しい。まだ足りない」
大我が目元を緩める。
「ほんと、煽るのうまいよなぁ尾縣は」
指が美己男の中に入り込みかき回されて、あっ、あっ、と美己男は声を漏らした。
「尾縣、待って」
ゴムを嵌めて、さらにローションで濡らす。
大我のモノがゆっくりと中に挿入ってくると、全身に痺れるような快感が走る。
「馨っ」
美己男は大我にしがみついて深く腰を落とした。
「ああ・・」
大我が呻く。
「大好き、馨さん」
深くキスをしながら深くまで繋がる。
「もっと、ゆっくり」
大我に囁かれ、耳を舌で隅々まで撫でられる。
「ん、んふ」
くすぐったさに美己男の口から吐息が漏れた。
「いいな、尾縣の唇。薄くて息が濡れて」
唇を親指で撫でられ美己男はその指を口に含んだ。
大我が手を後ろについて腰をグッと上げる。
「好きなとこ当てながら動いて」
「んんっ。好きなとこ、分かんない」
「大丈夫、すぐに分かるから」
美己男は親指で口の中を探られながらぎこちなく腰を揺らした。
大我の腕を掴んでゆっくりと自分で動く。
大我の先が固く中を擦るのを感じて
「ああ」
と声を上げた。
体の内側から背筋を甘い快感が這い上る。
「ここ?感じる?気持ちいいの?」
「んっ、そこ、いいっ」
大我が腰を掴む。
「あー、すげー締まる」
「馨さんも気持ちいい?」
「すごくいいよ」
「もっと、気持ち良くなって」
「ん。もうちょっと触らせて。ヤバいくらい気持ちいい」
舌を絡め、唾液を飲み合う。
ズクズクと突かれ美己男の腰も応えるように揺れて止まらない。
「尾縣、腰が動いてる。かわいい。かわいくて仕方ない」
「馨さん、ごめん、イっちゃう」
「うん、いいよ。尾縣がイく顔、見たい」
「んあっ」
大我に腰をグッと上に突き上げられ、その勢いで、美己男の先から白い液が飛ぶと大我の胸にかかった。
ハァハァと息をついて汗ばんだ額を大我の肩に押し付ける。
「また、汚しちゃった」
「いいよ、もっと汚して」
大我はそう言うと美己男を抱きしめぴったりと体をひっつけた。
「わぁ、馨さんっ」
美己男は叫んで慌てて体を離そうとするがきつく抱きついてくる。
「今日は朝まで抱きしめさせて。離したくない」
大我の呻きに
「うん」
と頷いて美己男は大我にもたれかかった。
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