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高校2年 夏のこと
それから何度か鈴木父娘 と食事に行き、夏休みに入る頃には小華 とは時々メールをやり取りするようになった。
「ハナちゃん」
恒例になった昼食会に部活で遅れて来る小華を美己男 は駅まで迎えに行く。
「あ、みー君」
小さく手を振って駆け寄ってくる小華の重そうなスポーツバッグを手に取ると肩にかける。
「夏休みまで部活とか、大変だね」
「えー、そっかな、普通だよ」
小華は美己男には砕けた口調で話すようになったが知愛子 にはまだオドオドと接していて、昼食会は相変わらず微妙な空気のままだ。
「みー君、中学の時、バレー部だったんでしょ?」
小華の声は小さく、美己男は体を折り曲げるようにして少しかがんだ。
「そー。昔は俺、チビだったんだよ。バレー部でいっちばんチビだった」
きゃはは、と笑い声をあげてうんうん、と頷き
「今はでっかいね」
と美己男を見上げる。
こんないい子なのに、鈴木さんと母さんが本当に結婚しちゃったらどうなるんだろ
美己男は悲しい気持ちで小華を見た。
「美己男君、来週の水曜日、施設に遊びに来ない?」
去年、子供の頃に住んでいた保護施設の職員がバイト先の焼き鳥屋にたまたま来店して以来、時々仕事帰りに夕食を食べに来る。今日もおいしそうに焼き鳥を齧りながらそう声をかけてくれた。
「水曜日?何かあるんですか?」
「恒例の花火」
「うわ、懐かし。みんなでカレー食って?」
「そうそう」
「それも変わんないんだ」
「うん。寛太朗 君が去年、美己男君と花火した時のこと話してたからさ」
「え?そうなんだ。寛ちゃん、ねずみ花火で子供たち泣かしてないですか?」
「もー、泣かす泣かす。大暴れ」
「やっぱり?」
すげー会いたい
「うん。寛太朗君の暴れっぷり見に来なよ」
「じゃあ、行こっかな・・」
誰か変わってくれそうな人を美己男は素早く頭の中でリストアップした。
水曜日に美己男は頼み込んで焼き鳥屋のバイトを変わってもらい施設に出かけた。
「寛ちゃん」
リビングでかき氷を作っている寛太朗に声をかける。
「ああ、みー」
振り向いた寛太朗の顔は少し日に焼けていてより一層カッコ良く見え、ドキリとする。
あー、もうほんとにヤバい
すぐにでも抱き着きそうになるのを堪 えていたら代わりに
「寛ちゃん、かき氷、ちょうだーい」
と小柄な子が寛太朗の腰にしがみついてきた。
あは、俺みたい
寛ちゃんに抱きついてら
かき氷を子供に手渡している寛太朗を見て美己男の胸がキュッとなる。
寛ちゃんは弱い奴をほっておけないんだ
だから俺ともエッチしてくれてんのかな
「昔のお前に似てて笑える。すげーノロいんだよ、あいつ」
そう言われてますます胸が苦しくなった。
それでもいい
どんな理由でも寛ちゃんが俺を見てくれるなら
「君らも食べてきたら?」
職員に促され、かき氷を手に2人で庭の石段に腰かけると
「彼女とどっか行ったりしないの?」
と美己男は訊いた。
「全然。忙しいから」
素気なく答える寛太朗に彼女より自分を選んでくれたようで有頂天になる。
「お前は?」
そう訊かれて質問の意味が分からず
「え?」
と訊き返した。
「彼女。先週、一緒に歩いているとこ見た」
俺が?先週?
一瞬、混乱してしまったが先週の小華を駅に迎えに行った時のことを思い出し
「ああ、あれは彼女じゃないよ」
と答えた。
「そうなの?ずいぶん、仲良さそうに見えたけど」
寛太朗の納得いかない、といった顔に必死で説明する。こんなことで誤解されたらシャレにならない。
「そっか。ほら、早めにカレー食いに行こ」
ようやくそう言ってもらえてホッとすると慌ててかき氷を掻き込んだ。
久しぶりに寛太朗の後ろをついて回りながら子供たちとはしゃぎ、花火を楽しんだ後、火薬の匂いと隣の寛太朗の体温に美己男はフワフワと幸せな気分で施設を出た。
あー、寛ちゃんとチューしたい
堪 えていたものが2人きりになってタガが外れたように一気に溢れ
「ね、寛ちゃん」
と腕を強く引き、抱きしめて覆いかぶさるようにキスをした。押し返された寛太朗の手が熱く、覗き込んだ眸 が濡れて光る。
もしかして寛ちゃんも・・?
そう思った瞬間、壁に押し付けられて小ぶりな唇に強く吸われさらには下唇を噛まれた。身体の中に燻ぶっていた熱が一気に燃え上がり
「ん・・」
と声を漏らすと寛太朗のシャツを強く握り、すぐに反応した下半身を押し付けた。
人の話し声が聞こえて慌てて体を離し、寛太朗が歩き始めるのを
「待って、寛ちゃん」
と火照った体で追いかける。神社の境内へと上がって行く石段を息を弾ませ登り、お社の裏に回り込むと待ち構えていた寛太朗の腕の中に飛び込んだ。
「会いたかったっ、寛ちゃん」
ズボンのチャックをおろされ、すでに固くなったモノを握られて美己男の先端からは先走りが溢れる。
「んー、擦って、寛ちゃん、ああっ」
寛太朗はいつも美己男を待っていてくれる。
踏切を渡る時も市場を抜ける時も、殴られて雨に濡れた時も学校の屋上でも、いつだって追いかけたその先には寛太朗がいた。
「寛ちゃん、舐めていい?」
「ん。いいよ、舐めて」
美己男は跪いて寛太朗の熱く固いモノを夢中で口に含み吸った。
ああ、寛ちゃんの匂い、寛ちゃんの味
この瞬間の寛ちゃんは俺だけのものだ
「待って、みー、強すぎ」
「ん、ごめん」
慌てて力を緩め、ゆっくりと味わいながら自分のモノを握った。美己男のモノはすでに張りつめているが、寛太朗のモノも口の中で弾けそうに固くなっている。
「ん・・、寛ちゃん固い・・」
喉の奥まで咥え込み強く吸った瞬間
「あっ」
と声を出し寛太朗がビクリと体を震わせた。口の中がねっとりと熱くなり、美己男は喉を鳴らして飲み込む。寛太朗がハァハァと荒い息をしながら
「バカ。その辺に吐き出せよ」
と優しく頬を撫でた。
「吐き出すなんてヤダ」
俺だけにくれたのに吐き出すわけない
全てを飲み込むと美己男はグイと口を拭い、ニコとえくぼをへこませた。
夏休みが明けるとすぐに学園祭の準備が始まり工業科の校舎内は大騒ぎになる。
普通科に比べて工業科の学園祭はド派手なことで有名だ。それぞれのクラスがこぞって日ごろの技術を披露すべく、凝ったデザインの作品を製作して展示したり、パフォーマンスしたりする。もちろん模擬店を出店しながらだ。売り上げはクラスの機材購入費に充てることができるのでどのクラスもかなり本気だ。
「ミキオちゃんはその顔とその身長を生かして王子様キャラのコスプレで客引きねー。愛想振りまいて売上に貢献してよ」
愛良 がせっせとコスチュームのデザイン画を描いている。愛良は器用でセンスも良く、チェーンソーからミシンまでなんでもそれなりに扱えるのが美己男には本当に羨ましい。
「アイはほんとになんでもできていいなー」
「はー?僕は器用貧乏なだけで結局何にも極めることができないわけ。ミキオちゃんは図面引かせたらクラス1じゃん。羨ましいのはこっちだって。完全に手に職コース」
「そうかなー」
自分ではなかなかそんな風には思えない。中学校の頃に大我 に教えてもらえていたからなんとか今、みんなについていけているだけでクラス1と言うのは過大評価だ。
「でも、大型機械とか扱うの怖いしなー」
美己男は中学の時にチェンソーの扱いを失敗したトラウマもあり、大型の電動のこぎりなどの機械が怖くてすぐにパニックになり体が硬直してしまう。木工製作をやっていくのにそれは致命的だ。
「機械なんて、使ってるうちに慣れるんじゃん?」
怜 がせっかくの愛良のデザイン画に落書きしながら言った。
「だといいけど」
3年生になったら木工班は本格的に大型電動機械を扱う授業が格段に増える。
「ヤダなぁ・・」
「なら設計専門にすればよくね?無理して木工することねーし」
「そうだけど・・」
大学で設計をもっと勉強すれば?という鈴木の言葉がチラリとよぎる。
いやー、無理無理
自分が大学に行きたいがために母親と結婚してくれとは言いたくない。いや、言ってはいけない、と思う。
鈴木さんとハナちゃんの人生、壊せないもん
「俺、なにができんだろ・・・」
美己男の呟きに愛良がふーん、と言いながら見る。
「ミキオちゃんはさあ、丁寧だよね、手つきがさ」
「ええ?そうかな。それって俺がノロマだからだろ」
「そうかなー。違うと思うな。道具を扱うのも丁寧だし、物に対してもそう。壊れそうなものとか古いものでも大事に扱うじゃん?そういうの、ミキオちゃんらしくていいと思うよ」
あー、そう言えば・・
中学の時に2段ベッドを直したことをルームメイトの小田が尊敬する、と言ってくれたことを思い出した。道具を丁寧に扱うのは、几帳面だった大我に中学の頃、散々注意されたからだ。
「えへ、そうかな」
「うん。ってか怜ちゃん、ヤメテよっ」
いつの間にか王子様のコスチュームデザインが際どいドラッグクイーンの衣装ようになってしまっている。
「なんだよこれっ」
「ほれ、これでミキオを校内歩かせようぜ。注目間違いなし」
「ヤダよっ、これ乳首丸見えじゃんかっ」
美己男の叫び声に周りのみんなも覗き込んでその後はギャーギャーと大騒ぎになった。
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