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第6話 ※R18
その地方の、豪族の総領の妾腹として生まれた修顕であった。
しかもその妾というのも近隣で財を為した商家の、美貌で知られた妻であったのだ。その美貌を噂に聞いた総領が、半ば強引に奪い己の妾にしたのだった。
生まれた修顕はその出生を疑われた。
果たして総領の子か、それとも前夫の子かと…。
ために豪族の館に置く事ならずと、表向きは出家を前提とした修行として、その実僧侶たちの欲望を満たす為の稚児として、修顕は親に売られたのだった。
自坊はそれほど大きな規模の寺院ではなく、せいぜい相手をさせられるのは高齢の師ではなく、二人いた兄弟子の和尚だけで済んだ。
彼らは修顕を大切にし、丁重な態度で稚児として扱った。
しかし、それは貴重な道具としての修顕をただ丁寧に、壊さぬように扱っていただけの事で、修顕には自分の身に起きている事の意味など理解できなかった。
美しく、素直で、体も良くなじんだ修顕は、俗世で元服するはずの歳になっても稚児の役を外されるはずではなかった。
成長期を迎え、その美貌が衰えるまでは稚児として務めさせられることになっていたのだった。
だが、修顕の実家であった豪族から寺に突然の要望が送られてくる。
正妻が、修顕に遅れる事1年後に産んだ子が元服する事になったのだ。
それと同時に、跡目争いなど、後々の禍根にならぬよう、修顕を一刻も早く出家させるようとの要望だった。
現世から引き離し、豪族の屋敷には二度と戻るなとの実家からの残酷な命令だった。
そして、その美しさを惜しまれながらも三日後には剃髪するというある夜、人目を忍んで修顕を:拐(かどわ)かした男が居た。
「誰?」
一人で泣き寝入っていた修顕が、部屋の中の人の気配に気づいた。
間もなく仏との縁を結び、仏法を学ぶ学僧として誓いを受ける身である。
そうなれば、昨日までの稚児とは言え、あからさまには嬲ることもできない。
惜しんだ兄弟子の一人が、修顕の体を求めてきたのかと思われた。
「誰なの?」
十二になったばかりの修顕の声は、まだ少女のように優しくか弱い。
暗闇の奥に自分を見つめる目に怯え、修顕は震えた。
「どなたか、そこにおるのでしょう?」
「来なされ!」
「…っ!」
悲鳴を上げるより先に抱き上げられた。
恐怖に震える修顕であったが、その声と温かな胸に何かを思い出す。
「与助…なの?」
修顕を腕に抱いた男は、答えずに立ち上がり、音も立てずにその局を後にした。
静かに庭に出て、男は:蘭若(てら)の裏手に駈ける。
そこには先達 の師たちが籠もって瞑想に耽ったという、奥の院に通じる石段がある。
険しい石段を前にして、男はその逞しい腕の中の修顕をもう一度抱え直した。
その時、真夜中の雲が晴れ、大きな月が現れた。
今宵は満月である。
「やはり…」
修顕は自分を抱く男を認め、不安の中にもなにかしらの落ち着きを取り戻した。
それは、寺男の与助だった。
与助は無口ではあるが屈強な寺男で、まだ若い身ではあるが、身寄りがないために遠くから流れてきたとかで村に住めず、行き場を無くしてこの寺院に引き取られたのだ。
身の置き所のない立場に似たものを感じたのか、与助は何もしゃべりはしないがなにくれとなく修顕には親切だった。
ただ身寄りがないというだけで差別され、村八分にされた与助は心を閉ざし、人を信じまいと決めたかのような冷たい目をしてはいたが、その心は誠実で、それゆえにこの蘭若の師も信頼して傍に置いていたのだ。
そんな、決して乱暴ではないはずの与助が、何の説明もなく修顕を連れ出したのだ。
修顕は逆らう事も出来ず、それでもどこかで与助を信じて身を任せていた。
「なにを…するの」
連れ込まれた山の上の堂内は、暗く、冷たく、与助の腕の中から下ろされた修顕は不安になって固い表情をした男に縋った。
男は何も言わぬまま燭に明かりを灯し、暗い眼差しで修顕の青い美貌を見つめた。
「もう…我慢なりませぬ」
修顕の全身を貫くような、低く響いた声で与助が囁く。
「な、何を?…与助、なぜそんな怖い顔をして私を見るの?」
「稚児どのは、他のものとは違った」
思い詰めた様子の与助は、じりじりと修顕に近づいてきた。
「与助?」
「俺を汚いものを見るような目で見る事もなく…」
与助の太い指が、崩した弾みに露わになった修顕の白い膝に伸びた。
「俺を哀れむことも、見下すことも、苛めることもない…」
膝に感じた熱さに、修顕がビクンと全身を戦慄 かせた。
「綺麗で、優しい…暖かい…。稚児どのは…、お天道 さまのように俺を見てくれた」
「与助…。私…私は…」
稚児として慣れた修顕には危険な場所にまで与助の指が伸びる。
「髪を下ろしたら、稚児どのは坊様だ。もう触る事もできない…」
「…っん…。や…ぁ、あ…」
修顕の細い腰に手が回り、片手は肩を抱いて与助は引き寄せた。
「稚児どのに…、惚れ…申した」
それだけを不器用に言うと与助はふいに荒々しく修顕の唇を奪った。
「!」
驚きのあまり目を見張る修顕だったが、その追いつめられた与助の気迫が修顕の抵抗を封じた。
「あ、ああっ!待って…、よ、与助…!いや…、そ、そんな…」
寝間着の単衣 を脱がされ、軽々と抱きすくめられた。
「ずっと…ずっとこうすることを…」
与助は興奮した口調で、あらぬ事を呟きながら、夢にまで見た修顕の体を開いていく。
白く、滑らかな肌。恥じらいと戸惑いに桜色に染め上がり、熱く燃え上がる。
「よ、与助…、いやぁ…。こんな…こんな風な…」
荒々しい愛撫と性急な口づけの繰り返しに、修顕は目眩 を覚える。
稚児として男の性を受け入れるのには狎れている。
けれど、和尚たちの行為はいつでも儀式めいて整然として、こんな熱く滾るような行為ではなかった。
「俺のを…握ってくれ」
修顕に覆い被さり、舌と指で愛撫を繰り返していた与助が、ふいに身を起こし、求めた。
「…!あ…ん。…ち、違う…。こんな…あ、ああっ」
ソレは修顕の知らぬ大きさと熱さであった。
怯えと裏腹に、修顕もまた夢中になってソレに指を絡ませた。
「稚児どのが…あぁ、俺の稚児どのが、指で…」
見る見るうちにソレが固く、強く頭をもたげた。
「もう、辛抱ならない。これを稚児どのに…」
修顕の手を握り返すと、与助は再び小さな体にのし掛かり、口の中を舐めた。
ねっとりした音を立て、修顕の口中は溢れるほどに唾液が満ちた。
「口で…この口の中で俺を満足させて下され」
考えるより先に、修顕は与助に食らいつき、そしてその大きさに一瞬の気後れはしたものの、迷うことなくしゃぶりついた。
「おぉ…夢じゃ…」
与助が譫言のように呟いた。
「どれほど夢に見たか…。稚児どのが…俺を…」
修顕は我を忘れて与助に奉仕した。
これほど一心込めておこなったことはこれまでにない。
この体の、心の奥から湧き上がるものを修顕は初めて感じていた。
その正体を知らぬままに。
「い、いかん!…放されよ、稚児どの。俺の…、俺のが貴方の口の中に…」
憧れ続けた美しい修顕の口の中を汚すことを畏れ、与助は腰を引いた。
「…っあ…ぅ、ん」
けれど修顕はなおもと与助のソレを追う。
「ちょうだい…、もっと、…与助…私に…」
慌てて両手で掴み、その紅をさしたような艶やかな唇を寄せようとした修顕に、与助は身を引き、体勢を替えてぐいと抱き締めた。
「ぅふっ…。よ、与助…。熱い…熱いの…。こんなの…私は…」
体の奥底から湧き上がる熱に、修顕は涙さえ浮かべて戸惑いを訴える。
「そなたの体では…俺は…、壊してしまうかもしれぬ」
修顕が瞳 の奥で訴えることを察し、与助は躊躇 う。
「こんな細い腰…俺のものでは大きすぎるのではないか」
「平気…。怖くないよ、与助。私は…平気。壊れても…良い」
与助の想いが修顕にも通じたのか、幼く健気な稚児は、自らの体の奥に男を誘った。
「…っく…!っあ、あぁっ…!こ、こんな…すごい…」
「稚児どの…。俺の…俺の…」
深々と修顕は与助を感じた。
この男こそ、自分の…、自分だけのものだと確信しながら。
「あぁ…ん。は、初めて…、こんな…こんな…」
修顕は気が狂うほどの快感に身を震わせた。
これほどの快楽は味わったことがなかった。
稚児として幾夜も男たちに奉仕せしめられた。
けれどそれは、雄たちを満足させるためだけの道具としての扱いであった。
しかし、与助は違った。
与助は、修顕を人として抱いた。
愛しいと、惚れたと、修顕だけが欲しいと一途に願い、与助は抱いた。
それは荒々しい交わりではあったが、暴力ではなく、修顕はこれが、この熱さが「情」だと知ったのだった。
生まれて初めて人から情を持って求められた修顕は、歓びに満ち、与助の体が忘れられない身となる。
以来二人は、修顕が剃髪し、出家した後も、誰にも知られぬように逢い引きを重ね、熱い獣 のような交わりを続けていた。
それが修顕がこの身と心の内に秘めた秘密である。
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