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悪魔君に水を飲ませた数分後にピザが届き、俺たちはテーブルに移動した。
悪魔君は初めて見るピザに感動──しているのかは分からないけど、心なしか瞳を輝かせている気がする。ゼロ太郎、ナイスチョイスだ。
さて、食事をしながら話すにはヘビーな話題だとは思うが、大切な話を進めなくてはいけない。
と言うのも実は、悪魔が魔界から人間界に入国するには、魔界で【試験】を受けなくてはいけないのだ。
その試験に合格し、後日の面接なりを受けて資格を取得しないと、悪魔は人間界に入国できない……という仕組みである。
ちなみにこれは、逆も然り。人間が魔界に行くためには、同じように試験や面接を受けて資格を得ないといけない。
……ということを踏まえると、だ。
「ピザ、おいしい」
それはそれは嬉しそうにピザを頬張るキュートなこの子は今、人間界にいる。と言うことは必然的に、試験等々を突破した資格持ちのはずだけど……。
なんだかポヤポヤ~ッとしているし、一応念のために、確認しておこう。俺はピザをつまみつつ、テーブルを挟んで正面に座る悪魔君を見つめた。
「ところで、君は異種間交流とか、人間界でのルールとかは知ってるよね?」
「うん、知ってる。信号の赤は【止まれ】で、青は【進め】だよね」
「──わっ、天才っ。人間の少年と言っても過言ではないのではっ?」
[──過言です]
ゼロ太郎から鋭いツッコミが入るも、スルーしよう。この子は天才だ。
さて、どうやらこの子は試験を突破した資格持ち悪魔で間違いないらしい。俺は悪魔君の口元に付いたソースを指で拭いながら、ふむと考える。
「君は人間界になにをしに来たのかな。目的とかは?」
「なんだろう。強いて言うなら、観光……かな?」
悪魔然り、人間然り。異世界に行くということは、それぞれ目的があるものだ。
とは言っても、悪魔も人間もほとんどは【異文化に触れること】が目的だろう。外国旅行の世界規模版、と言ったところだ。
となれば、悪魔君がうまく目的を説明できなくても納得だろう。
人間と比べて、悪魔は自分の欲求に素直な存在が多い。より詳細に言うのなら、悪魔は喜怒哀楽の【喜楽】を追求することになりふり構わないのだ。
面白そうだから、楽しそうだから。悪魔が人間界に来る理由なんて、それだけで十分だ。
とは言っても、好奇心だけで生きていくのは不可能。いくら悪魔と言っても、寝床は必要だ。
「となると、先ずは住む場所の確保か? それと、就職先も探さなくちゃ」
そうと決まれば、明日はこの子を役所に連れて行かなくては。悪魔の生活をサポートするための課があるから、一先ずそこに連れて行けば安心だろう。
明日は半休を貰って、この子を役所に連れて行って……。よし、どうにかなりそうだ。
「よし、決まり! 今日はここに泊まっていいから、明日は役所に行こうね。それで、君の仕事と住む場所を決めよう。俺もついて行くから、一緒に頑張ろう」
少し心配な部分もあるが、資格持ちならばなんだかんだと人間界のルールには詳しいはずだ。可能な限りサポートしてあげれば、きっとすぐにこの子の就職先も住居も決まるだろう。
我ながらスピーディーな補佐だなと思いつつ、俺はピザに手を伸ばした。……うん。美少年を見ながら食べるピザは格別だ。ゼロ太郎と悪魔君に感謝だな。
などと、満ち足りた気持ちになっていると。悪魔君はピザを食べるために開いていた口を、そっと閉じた。
それから、コテンと小首を傾げて……。
「──ここに住んじゃダメなの?」
俺がピザを吹き出しそうになってしまう質問を、あっけらかんとした態度で口にしたのであった。
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