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 ん? んんっ? なんだ、どういうことだ? 「えっ、いや……。だって君、人間界に興味があってこっちに来たんでしょう? それなら一人暮らしとか人間社会で従事するとか、そういうものに興味があるんじゃ?」 「そういうのは、よく分からない。これと言って『なにがしたい』って、明確な欲求も無いから」 「いやいや、いやいやいや! でも君は、勉強とかを頑張って人間界に来たんでしょう? そもそも、初対面の人間と共同生活とか嫌じゃないの?」 「うん、イヤじゃない。キミは、悪い人間じゃないから。ピザ、おいしい」  俺がしたことなんて、水道水とピザをあげただけだぞ? それなのに『悪い人間じゃない』って評価は、あまりにも短絡的じゃないか?  駄目だ、ツッコミが追い付かない。そんなあっさりと人間界での住居を決めていいのか? 駄目だろ、絶対。 「そう評価してくれるのは普通に嬉しいよ、ありがとう。でも、ヤッパリ君は一度ちゃんとした機関に行くべきだと思うな。今日はゆっくり休んで、一旦冷静になろう? ……ねっ?」  そうだ。この子は今、行き倒れたばかりだということもあって混乱しているに違いない。そうだ、そうに決まっている。 「ほら、ピザ食べて。お風呂も沸かすから、今日はとことんゆっくりしちゃおう? あっ、そうだ。デザートも欲しいかな? 待っていてね。今、デリバリーを──」  スマホを手に取り、俺は悪魔君に食べたいものを訊くことにした。  ……したの、だが。 「えっ。……あ、あれっ?」  悪魔君の手が、スマホを持つ俺の手を掴む。えっ、なっ、なんだろうっ? 普通にときめくから、先ずはジャブからお願いしたい。  戸惑う俺に、悪魔君はその綺麗な瞳を向けて──。 「──キミと一緒にここで住みたい。……ダメ?」 「──駄目じゃないよ、ウェルカムだよ」  俺の胸は、悪魔君の瞳にズドンと撃ち抜かれた。 「そうだよねっ、もう一緒に住んじゃおう! こうして出会ったのもなにかの縁だしね、うんうんっ! よぉ~しっ! 明日はパーティーをしちゃおうか! なにか食べたいものはあるかなっ?」  よく考えたら、初めから保護するつもりで連れて帰ってきたんだもんな。月君にも言った通り、この部屋には【盗られて困るような物】なんてひとつもないし。  よし、よしよし! そうと決まれば早速、この子が暮らすうえで必要そうな物を一式ネットで揃えて──。 [──駄目に決まっているじゃないですか]  などと、浮かれていたのも束の間。無機質で低い声が、俺と悪魔君の意見を一刀両断した。  すぐに、俺と悪魔君は思い思いの方向へ顔を向ける。ゼロ太郎には実体がないので、なんとなく『居そうな方向』を見るしかないからだ。  きっと、ゼロ太郎に顔があったら厳しい表情をしていることだろう。若しくは、怒り顔か、それとも──。 [──主様のようなドヘンタイと、このように無垢でピュアな子供を一緒に住まわせるなんて容認できません。犯罪者になりたいのですか、主様は] 「──ゼロ太郎は俺を傷つけるのに一切の躊躇がないよなぁ~」  ──絶対に呆れ顔じゃん!  てっきり俺の身を案じてとか、そういう温かい理由からの反対だと思ったのに! 想像と全然違う理由だったんですけど!  ガガンとショックを受けつつ、俺はガックリと肩を落とした。

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