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 主としての俺が、いかに人工知能からの評価が低いかと露呈したところで。 [まぁ、主様が本当によろしいのでしたら私は止めません。手続き等はこちらで申請しておきます]  ゼロ太郎はため息交じりに、そう付け足した。  俺が言うのもなんだけど、随分と人間らしさを持った人工知能だ。発言の前にため息を吐けるなんて、ほぼ人間じゃないか。  ともあれ、ゼロ太郎の提案はありがたい。俺は思わず、笑みを浮かべてしまう。 「本当にっ? 助かるよ、ゼロ太郎~っ!」  なんだかんだと、俺に優しいじゃないか。俺の手を依然として握ったまま、キョロキョロと辺りを見回している悪魔君に情けない誤解を受けるところだったぞ、まったく。  さて、そうと決まれば俺はピザに舌鼓を──。 [──主様にお任せして変な申請をされてしまったら、人類最高レベルの人工知能たる私の沽券に関わりますからね] 「──ゼロ太郎の善意って本当に厳しいよなっ、くそぅ!」  ヤッパリ、ゼロ太郎はゼロ太郎だな!  そんなやり取りを交わしていると、悪魔君はコテンと小首を傾げた。 「よく分からないけど、ボクはキミと一緒に暮らしていいの?」  しまった、当事者の悪魔君を置き去りにしてしまっていたらしい。  悪魔君の手を握り返し、俺はその手をブンブンと上下に振った。 「うん、いいよ。難しい申請とかは全部ゼロ太郎がどうにかしてくれるから」 「さっきからキミが話しているゼロタローって、誰? どこにいるの?」  実体がないのに、声だけが響いている。確かに、このマンションの構造とシステムを知らない子からするとビックリだよな。 「このマンションはね、部屋ごとに人工知能が搭載されているんだよ。で、俺の部屋にいる人工知能の名前が【ゼロ太郎】なんだ。俺が付けた名前なんだけど、それで反応するから君もそう呼んでね」 「人工知能? すごいね。人間界は文明の発展が面白い」  ゆらゆらと、尻尾が揺れている。なんだろう、これは喜怒哀楽で言うと【喜】かな? それとも【楽】?  どちらにせよ、たぶん【不快】ではないはずだ。俺は悪魔君からパッと手を離す。 「そうだ! いつまでも『君』って呼ぶのもなんだし、良かったら名前を教えてくれないかな?」  すると、すぐに悪魔君は首を左右に振った。 「えっ! 名前、教えたくないっ?」 「ううん、違う。悪魔は人間界に来たら、先ず人間界用の名前を付けなくちゃダメなんだよ。でもボク、まだ名前を作ってないから」 「なるほど。つまり、まだ君に名前はないってこと?」 「うん。名前を決めるのとか、得意じゃないから」  そっかぁ。それなら、確かに教えられないよね。  じゃあ、どうしようかな……。俺は数秒悩み、それからポンと手を叩いた。  それと同時に、ゼロ太郎が慌てた様子で声を張り上げる。 [お待ちください、主様。私が今、名前を検索してから候補をリストアップいたしま──]  ……が、少し遅かった。 「──君はとっても可愛い子だから、名前は【カワイ】なんてどうかな?」 [──最悪です]  自分で名前を付けるのが苦手なら、俺が付けてあげたらいいじゃないか。  シンプルすぎるこの理論に俺が行き着いたのは、ゼロ太郎が口を挟むより早かったのだから。

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