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悪魔君の宝石みたいな瞳が、キョトンと丸くなった。
それから悪魔君は、小首を傾げる。……うん。この子、動作がいちいち可愛いぞ。ヤッパリ【カワイ】で間違いなしだ。
「カワイ? ボクの名前は、カワイ?」
「うん、どうかな。いい名前でしょう?」
[悪魔様、正直に仰って良いのですよ。【名前】は、生きていく上でとても大切な要素で──]
「──気に入った。ボクの名前はカワイ」
[──嘘でしょう?]
二対一で、俺の勝ち。……と言うわけで、悪魔君の名前は【カワイ】に決定した。めでたいなぁ。
すると、悪魔君もといカワイが、宙を見上げて小首を傾げた。
「そう言えば、どうしてキミの名前はゼロタローなの?」
[申し訳ありません。主様以外の問いにはお答えできません]
すぐに、カワイが俺を見る。困っている、気がした。あまり表情が変わっていないから、本当に『そんな気がする』くらいの認識だけど。
俺は後頭部を掻いた後、ゼロ太郎へ向けるように視線を上げた。
「あー、いいよいいよ。この子とも、俺にするのと同じ感じで普通に会話して」
[それは『彼のことも主人として認識しろ』というご命令でしょうか?]
「いや主人は俺だけど、うーん。……友人、かな? それとも、家族? いや、同居人……。とにかく、ゼロ太郎にとっての主は俺だけど、彼は俺と対等って感じ」
[承知いたしました]
この絶妙なニュアンスも理解できるのだから、やはりゼロ太郎は優秀だ。
カワイを【日常会話をしても良し】と設定し直したのか、すぐにゼロ太郎はカワイの質問に答えた。
[私の品番が【0Tar00】だからです]
「それで、ゼロタローなんだ。ふーん」
納得するカワイを見て、俺はムンと胸を張る。
「ゼロ太郎、いい名前でしょう?」
[そのまますぎではありませんか。ネーミングセンス皆無ですよ]
「こんな感じで、ゼロ太郎はちょっと照れ屋な奴なんだ」
[どの辺りがそう聞こえましたか?]
とりあえず名乗り合ったところで、俺はカワイに向けて手を伸ばした。
「改めまして、俺は陽斗。人間界に来てまだ分からないことばかりだと思うけど、俺とゼロ太郎がサポートするから安心してね。それと、これからよろしくね、カワイ」
伸ばされた手を見て、カワイは瞬きをするだけ。すぐに[握手をする場面です]とゼロ太郎から説明を受けたカワイは、コクリと縦に頷いた。
俺が伸ばした手を、カワイは両手でギュッと握る。それから、カワイは顔を上げて俺を見て──。
「──よろしく、ヒト」
「──まさかの呼び捨て、だとッ?」
驚きの呼称で、俺と挨拶を交わした。
えっ、マジ? 『ご主人様』でも『兄さん』でもないのは想定通りとは言え、敬称もなにもなく、呼び捨て?
これは、出会った今だからこそ呼び方の指定をすべきか? 個人的には『陽斗お兄ちゃん』と呼ばれたい!
……だが、しかし。
「──悪くない! むしろ、アリ!」
美少年君に呼び捨てされるというのも、悪くない! むしろ、ありがとうございます!
カワイの手を握っていない方の腕でガッツポーズをすると、案の定ゼロ太郎が[通報すべきでしょうか]とぼやいたが。俺もカワイも、そこはスルーすることにした。
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