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 ピザを食べ終えて、浴室の説明やら就寝準備の説明やらをし終えた後。 「じゃあ、君はベッドを使っていいからね。俺はこっちで寝るから」  俺はカワイを寝室に案内した後、リビングにあるソファを指した。  ちなみに、シャワーを浴びたカワイには俺の寝間着を一式貸している。サイズの合わないシャツとズボン姿……ありがとうございます!  さらに、ちなみに。カワイが着ているシャツには犬のイラストがプリントされていて、犬の下に【|齧歯類《げっしるい》】と書かれ、犬の上には【TANUKI】と書かれている。実に、ハイセンス。無論、買ったのは俺だ。  小さな声でゼロ太郎が[このドヘンタイショタコンが。せめてセンスくらい磨いてください]と罵ってきた気もするけど、人工知能がそんなこと言うはずない! 空耳として、流そう。  カワイはソファを見てから、ほんのりと眉を寄せた。 「人間はベッドで寝ないの?」 「そんなことないよ。カワイにベッドを使ってほしいから、俺はソファで寝るだけ」 「どうして?」  いや『どうして』と言われても。俺は苦笑しながら、カワイの頭をポンと撫でる。 「ご飯を食べた後だとしても、カワイは道端で行き倒れていたからね。病み上がりみたいなものなんだし、広いベッドで好きなようにリラックスして寝てほしいよ」  カワイは俺を見上げたまま、質問を重ねた。 「ボク、寝相悪くないよ。それに、ヒトのおかげでもう元気。そんなに心配されなくても、平気」 「それでも、俺は気になっちゃうからさ。だから、俺のためにもベッドで寝てほしいな」  揺れていたカワイの尻尾が、床に向かってタラリと垂れ下がる。 「……ヒトが、そう言うなら」  うっ。カワイのためを想っての提案なのに、どうしてこんな罪悪感にまみれるような態度を見せられているんだ?  揺らぐ、揺らぐじゃないか。欲望剥き出しの発言をしていいなら、俺はカワイと一緒にベッドで寝たいんだぞ。……勿論、健全な意味で!  しかし、そんなことを言ってみろ。ゼロ太郎が部屋中に『110』と表示し、自首を勧めてくるに決まっている。  それに、もしもカワイに『下心がある』なんて思われて軽蔑されたらどうしてくれるんだ? 立ち直れないぞ、絶対に! 「それじゃあ、おやすみ。枕とか毛布とか、全部好きに使っていいからね」 「……うん。おやすみ」  あぁ~っ、やめてぇ~っ! 罪悪感がっ! よく分からない罪悪感が押し寄せてくる!  まぁ、なにはともあれ保護一日目が終了だ。明日からはカワイと沢山会話をして、カワイという悪魔のことをもっと知らないと。カワイを寝室に送った後で扉を閉め、俺はソファに寝転がる。  誰かと同居なんてしたことがないし、悪魔の知り合いが多いわけでもないからな。可能な限りコミュニケーションを取って、カワイが暮らしていく上でのストレスをできる限りゼロにして……。 「ゼロ太郎、電気消してー」 [かしこまりました] 「ありがとう。ゼロ太郎も、おやすみー」 [おやすみなさいませ]  考えるのは、明日にしよう。一先ず今日はサッサと寝て、明日に備えなくてはいけない。  明日からきっと、忙しくなる。そんな予感を胸に抱きながら、俺は目を閉じた。  目を閉じて、いつの間にかぐっすりと入眠して、そして……。  ──翌朝、俺は大いなる衝撃を受けた。 「──あれっ? なんでっ? なんで俺の上にカワイがっ?」  目覚めた瞬間、いつの間にか俺の毛布の中に潜り込んでいたらしいカワイを発見したのだから。  昨晩やけにベッドでの就寝に気乗りしていなかったのは、まさかカワイがベッドよりもソファ派だったからか? 若干の的外れ感を理解しつつも、俺は上に乗って眠っていたカワイに声をかけてしまう。 「もしかして、寒かった? 毛布足りなかったかな? ごめんね?」 「ん……。……違う」  俺の声で起こしてしまったらしく、カワイは寝惚け眼を擦りながら俺を見た。状況は全く分からないけど、寝起き姿も可愛いなぁ!  なんて思っている俺には気付かず、カワイは眠そうにしながらも俺を見つめ、答えた。 「──一人で寝るの、寂しかったから。……ベッド使わなくて、ごめんなさい」  ……。  …………。  ──キュンッ! 「ゼロ太郎! 今すぐこの子の枕をポチッて! 高価で上等なやつ! 今日から一緒に寝るんだい!」 [──かしこまりました。通報ですね] 「──いやそれなにもかしこまってないじゃん!」  悪魔の保護、二日目。  最高な寝起きにハートをぶち抜かれながら、俺は可愛い美少年悪魔君をソファの上で力いっぱい抱き締めたのだった。 1章【未熟な社畜と未熟な悪魔は出会いました】 了

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