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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】 1

 ベッドの上で、俺とカワイはなぜか向き合いながら互いに正座をしていた。  正面に座るカワイは、無表情のまま俺をジッと見つめている。 『あのね、ヒト。ボク、人間界のルールについていろいろ調べたよ』  無表情なのか、それとも真剣な表情なのか。カワイは真っ直ぐと俺を見つめながら、そんなことを言い出した。 『おぉ~っ、そうなんだっ! カワイは勤勉で真面目で偉いなぁ~っ』  魔界から人間界にやって来たくらいだ。きっとカワイは人間界に多大なる興味があって、その好奇心が赴くまま色々と調べたのだろう。俺は素直に、カワイの探求心を褒めた。  綺麗な銀髪を撫でると、カワイは俺を見つめ直す。  その瞳は、ほんのりと熱っぽく潤んでいた。……気がする。 『人間は、一緒に暮らす相手と【結婚】するんだよね? ボク、結婚に興味がある』  ベッドが、小さく軋む音。  俺との距離を、カワイが自ら縮める。 『えっ? カワイ、もしかしてそれって……?』  近付く、美少年系悪魔。俺は正座をしたまま、縮まる距離に胸を跳ねさせてしまった。  やがてカワイは、俺にぴったりとくっつく。それから俺を押し倒し、カワイは赤らんだ顔でこう告げた。 『ヒト、ボクと結婚して?』 「──っていう夢を見たんだけど、これって正夢かな? ……ううん、正夢にしてみせる!」 [──そのような与太話はどうでも良いので、早く出勤してください]  カワイを保護した、翌日のこと。  スーツに着替えつつ十秒でエネルギーチャージができるゼリーを吸いながら、俺はゼロ太郎に【いずれ正夢になる夢】を語っていた。  いや正直、自分でもこれはヤバいと思う。驚きだ。 「──俺って、結婚願望あったんだなぁ~……」 [──問題はそこではありません]  ちなみに、カワイはリビングに居る。今頃はソファに座って朝食を取っていることだろう。  重ねてちなみに、朝食としてカワイにも同じゼリーを渡した。昨日も見た通り、冷蔵庫の中にはそれしかないからだ。  ゼリー飲料の口を噛みつつ、俺はちゃちゃっとネクタイを結ぶ。そんな俺をおそらく呆れ顔で見守っているだろうゼロ太郎が、それはそれは呆れ感たっぷりに呟いた。 [保護して半日ほどでそのような夢を見るのでしたら、やはり私は彼をこのまま住まわせることには反対です。主様を性犯罪者にするようなものですから] 「いや違う! 違うって! ちょっとほら、最近ちょこっとだけ疲れていたから気が動転しちゃったんだって!」 [つまり【理性という抑制剤を失った主様の本性は、保護したての少年を本人の同意もなく伴侶にしてしまうような獣未満の愚劣極まりない動物】という弁明でよろしいでしょうか?] 「うんなにもよろしくないね!」  好みドンピシャな美少年を過剰摂取して、それに加えて最近読んだ【義理の弟と新婚生活】をテーマにした同人誌の記憶がないまぜになって、その結果、あんなメルヘン全開の夢を見ただけのはず!  などと色々叫んだり喚いたりしたところで、この弁明が功を奏するなんてこと、あるはずがない。甘んじて『獣未満』という評価を受けるしかないのか。トホホ。 [|今日日《きょうび》『トホホ』なんて言わないと思いますよ] 「心を読むのはやめて!」  あと、イマドキ『今日日』とも言わない気がする。反論したところで負けるのは目に見えているから、わざわざ言わないけどさ。
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