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 ……あっ。  ──し、しまった! 今のは明らかに必要のない付け足しだった! 「でっ、でも大丈夫! カワイのことをそういう目で見てるわけじゃないから! 安心してねっ、身の安全は保証するから!」 「えっ」  慌てて手を引っ込めて、俺は必死にカワイの身が安全だと訴える。  いやだって、そうでしょう? 恋愛対象が男で美少年って、完全にカワイのことじゃん? カワイが自分のルックスに対してどれだけ自覚があるかは分からないけど、俺の話だけ聴いたらビックリさせちゃうよ!  ついでに付け足すのなら、こうしないとゼロ太郎に通報される! ……ということで、必死の弁明。  俺が身振り手振りでカワイの安全性を訴えると、カワイは一度だけ目を丸くした。 「……うん」  だがすぐに、コクリと頷いてくれたのだが……。  あ、あれ? ヤッパリ、怖がらせちゃった、かな? ちょっと、テンションが下がっているような気がするぞ?  ここは責任を持って、カワイのテンションを取り戻させなくては。俺は再度、身振り手振りで情けない話を打ち明けた。 「えぇっと、そのっ。お恥ずかしながら二次元以外に恋をした経験がない奴なので、初恋もまだなんだよ、あははっ。……なんて。こんな回答で良かったのかな」 「うん、いい。ありがとう」 「ど、どういたしまして、なのかな?」  うひゃ~っ。こんな話、今まで縁が無かったからなぁ。ちょっと照れくさいぞ。俺は意味もなく、頬を掻いてしまう。 「ちなみに、そんなカワイにはいるのかな? 好きな子が」 「ボクは……」  話題としては相応しい相槌を打ったと思うのだが、なぜかカワイにジッと見つめられてしまった。  ……えっ? もしかして、もしかしてこの目って?  カワイは、俺のことが──。 「──ヒミツ」 「──秘密かぁ」  日中の月君にも同じ返しをされたっけ。ガッカリしたような、寂しいような、安心したような……。  勝手に緊張して勝手に脱力した俺を見ながら、カワイは『ヒミツ』と返した理由を話してくれた。 「ヒトが番にしたい相手を見つけたら、教えてあげる」 「今、俺の話は訊いたのに?」 「ボクにそういう相手がいたとしたら、ボクだけ暴露することになる。それは、不公平」 「なるほど、確かに。仮にカワイに好きな子がいるとしたら、俺と好きな子を教え合うのが条件ってことだね」  そういうことなら、深掘りはやめよう。 「分かったよ。俺の初恋相手、分かったら教えるね」 「うん、指切り」 「あははっ。うんっ、指切りだねっ」  カワイの小指と自分の小指を絡めて、約束をする。なんだか、この年になって『好きな子を教え合う』なんて約束、照れくさいなぁ。 「でも、カワイが恋バナをしたがるなんて意外だったなぁ。そういう話、もしかして好き?」 「ううん、別に。特別好きってわけじゃない」  小指を離した後、カワイは空を見上げた。  それから、ポツリと。 「星が、勇気をくれたのかも」  なにごとかを呟いたのだけれど、星空に向けられたカワイの言葉は、うまく俺の耳には届かなかった。

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