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3.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔のお花見です】 1
それは、カワイを保護して一ヶ月が経過した頃の話だった。
四月の、上旬。なんのけなしにテレビを見ていた時、その会話は発生した。
ニュース番組に出演しているアナウンサーが『それでは、現場の様子を見てみましょう!』的なことを言った時、テレビ画面はテレビ局のスタジオからとある大きな公園に切り替わったのだ。
どうやらその時、取り上げていたのは【お花見の特集】だったらしい。あまりにぼんやりとテレビを見ていたせいで、気付かなかった。
この時はまだカワイが料理を学んでいなかった時期だったので、俺はゼリー飲料を吸いながらテーブルにだらりと上体を載せつつ、テレビを眺めていた気がする。カワイも俺と同様、ゼリー飲料を吸いながらテレビを見ていた。
テレビ画面に表示されていた場面は切り替わり、映し出された大きく広い公園では、話題に負けないほど桜が満開だ。キャスターが『多くの花見客が集まっていますね~』と言っているように、お花見目的の人間がウジャウジャしている。
人間が沢山集まり、画面には満開状態な桜の木。おそらく初めて目にする光景に、カワイはゼリー飲料の吸い口から唇を離し、俺に目を向けた。
「ヒト、ヒト。【サクラ】って、このピンクの花?」
「そうだよ。綺麗で可愛いよね~。まぁでも、カワイの魅力には敵わ──」
「──サクラ見たい」
「──食い気味」
俺は今、カワイのことをサラッと褒めたかったんだけどなぁ。……でも、そんなクールなところも好きだ!
俺の大好きなカワイのご所望は、桜らしい。ゼリー飲料を両手で持ちながら、カワイは綺麗な目をさらにキラキラと輝かせ始めた。
しかし、俺とゼロ太郎の意見はと言うと……。
「でも、桜の開花は一ヶ月後かなぁ」
「どうして? サクラ、咲いてるよ? ……まさか、虚偽の報道?」
「違う違う! と言うか、どこでそんな言葉覚えたの!」
[北海道は他と違い、桜の開花時期が一ヶ月ほどずれ込んでしまうのですよ]
「そうなんだ……」
つまり、こういうことだ。
カワイに桜を見せてあげたい気持ちはあるけど、できるか否かとなると話は別。なんと言っても、こちらは北海道。桜の開花時期が大型連休と丸被りするという、素晴らしき土地。
……ということを、カワイは理解してくれたらしい。シュンとしているものの、頷いてくれた。
尻尾はひょろ~っと垂れ下がり、床についてしまっている。さっきまであんなに輝いていた瞳も、ほんのりと曇ったように見えてきたぞ。
極めつけに、カワイがポソッと「サクラ……」と呟いた。そんな姿を見せられてしまっては、俺は、俺は……!
「──咲かせたい、今すぐに……!」
[精々、無力な己を一ヶ月間呪い続けてください]
「辛辣すぎないっ?」
一刀両断されてしまった。トホホ。
カワイはチューッとゼリー飲料を吸いながら、テレビをジッと見つめている。よほど、桜が気に入ったらしい。
……正直、少し意外だ。悪魔のことを馬鹿にしていたり見下したりしていたわけではないけど、なんとなく悪魔は植物に興味なんて無いと思っていたから。
「桜、気に入った?」
「うん。気になる」
訊ねても、返事がすぐに届く。なんとも、意外な──。
「──キレイなサクラの木の下には、死体が埋まってるって聞いた。ホントかどうか、検証したい」
「──物騒すぎるよっ!」
……意外、なんてことはなく。
これがただの好奇心からの発言だとは分かっているけど、思わず心の中で叫んでしまった。
やはり、悪魔は悪魔だ! ……と。
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