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話題は変わり、普段のカワイとゼロ太郎の日常に。
「そう言えば、カワイはいつも部屋でなにしてるの? 家事以外でなにか、例えばそうだなぁ……。趣味とかできた?」
カワイはいつも、家事が苦ではないと言ってくれる。むしろやり甲斐のようなものすら感じているらしく、カワイにとって家事は趣味の域に達しているようだ。
だが、それだけだとカワイが人間界に来た意味があまりない気がするのも事実。カワイにとって、家事以外にもなにか楽しみが見つかっていたらいいのだが……。そんな気持ちで、俺はカワイに質問を振ってみた。
「家事以外? そう限定されると、最近は……」
おにぎりを齧りながら、カワイは考える。
そして、カワイは答えたのだ。
「──ゼロタローと一緒に、パソコンを使った仕事をしてるよ」
「──なん、だと?」
──俺にとって、大いなる衝撃を孕む単語を。
なんだって? 今、カワイはなんて言った? ……『仕事』? カワイは今『仕事』って言ったのか?
「ゼロタローみたいな人工知能が、人間に代わって事務作業をこなすのは規則違反なんだよね」
「う、うん。そう、だよ?」
戸惑う俺を引っ張るかのように、カワイはそんな質問を口にする。
カワイが言う通り、ゼロ太郎はあくまでも【家主の生活改善並びに日々のサポート】がメインの仕事であって、決して【家主に楽をさせること】が役割ではない。
だから、家主の仕事を代わりにやってのけるのはご法度。確かに、そんな感じの注意書きが契約書には書いてあったはずだけど……。
「だから、ボクがゼロタローの指示に従って作業をしてる。プログラミングとか、計算ソフトを使って見やすい表とかグラフを作ったり、読みやすい文章を打ち込んだり……」
「それって、在宅ワークってこと?」
「仕事の外注。……って、ゼロタローは言ってたよ」
なっ、なんじゃそりゃ!
「ヘイ、ゼロ太郎!」
[スマホのAIみたいに呼ばないでください]
「そんなことはどうだっていい! あのですねっ? 主様はカワイとのお仕事なんて一言も聞いていないのですがっ? 初耳なのですがっ?」
[えぇ、そうでしょうね。言っていませんから]
こっ、この薄情者ぉ~っ!
と言うか、俺のパソコンを使っているってことだよねっ? そうなると、俺がコツコツ買い込んでいるムフフ本たちがカワイに見つかる危険性が──。
[念のためお伝えしますが、主様の見られたくないデータはカワイ君に開かないよう伝えてありますよ]
「作業に不必要なフォルダは開かない。プライバシー保護」
杞憂だった! ありがとう二人共!
……って、いやいや! ヤバい、ヤバいってこの状況は! なぜならこのままだと、俺唯一のポテンシャル【財力】が失われてしまうからだ!
ただでさえ身の回りの世話を二人に任せっきりだというのに、収入面まで充実されてしまっては俺の立場がっ、存在意義が~っ!
「決めた! 俺は副業するよっ! 夜に作業をして、年収をアップさせる!」
ゼロ太郎は興味がなさそうに[そうですか]なんて言っているけど、カワイの反応は若干不服そうだ。
「ダメ。人間はしっかり寝ないと体を壊すよ」
「だけどこのままじゃ──」
すると、カワイがジッと俺を見たではないか。
それから、揺れていた尻尾をぺしょっとレジャーシートの上に垂らした後──。
「──ヒト。今日の夜は、ベッドの上でボクをギュッてして? 夜更かししないで、ボクと一緒に寝て? ……添い寝、して?」
「──する!」
即答。つまり、惨敗。
後ほど、カワイからは「お小遣い程度の収入だよ、大丈夫だよ」と慰められたが、それでも俺は正直、気が気ではなかった。
……でも、カワイとの就寝時間には敵わない。俺は副業を諦め、カワイを選んだ。
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