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 ということで、カワイのお膝──と言うか太ももに頭を乗せた。 「どう? セロトニン、分泌された?」 「感動で泣きそうだよ。幸せ過ぎる。ありがとう、カワイ……」 「よく分からないけど、ヒトのセロトニンがいっぱいなら嬉しい」  なんていい子だ。他人が分泌している目に見えないものに、ここまで喜んでくれるなんて。お小遣いをあげたくなるぞ。 「カワイ越しに見る桜も絶景だなぁ。お花見最高だよ」 「良かった」  なんということだろう。カワイが、俺の頭をナデナデしてくれている。これはチップが発生するオプションじゃないか? 財布ごと捧げたい。  体をカチンと硬直させた俺を見つめながら、カワイは瞳をほんのりと細める。 「本音を言うと、少し不安だった。ボクが『サクラを見たい』って言ったから、ヒトはムリして付き合ってくれているんじゃないかって」 「そんなことないよ。カワイが喜んでくれるのは勿論嬉しいけど、俺だってお花見に興味があったんだから」 「うん。ヒトもオハナミ楽しんでくれて、嬉しい。ボクだけの【嬉しい】じゃないから、ボクはいっぱい嬉しい」 「そっか。それなら余計に、俺もいっぱい嬉しいよ」  家族となにかをするなんて経験、俺には無い。だからこういう時、どんな振る舞いをするのが正解なのかを俺は知らないのだ。  だけど、少しだけ分かった。俺が知るべきなのは【世間一般の喜び】じゃなくて【カワイの喜び】なんだって。  当然だけど、俺が一緒にいるのはカワイなんだ。だったら『なにをどうするのが普通』なんて考えたって、意味はない。 「一緒にお花見してくれてありがとう、カワイ」 「うん。ボクも、ありがとう」  寝坊はしちゃったし、お弁当だって任せきりにしてしまった。  それでもカワイが楽しんでくれているなら、カワイが赦してくれるなら、心も軽くなる。……我ながら、単純だなぁ。  なんてことを考えていると、不意に。 「……あっ」 「ヒト? どうかしたの?」 「うん、ちょっとね。……カワイ、じっとしてて?」  カワイの髪に、手を伸ばす。 「花びら、付いてたよ」  綺麗な銀髪に、桃色の小さな花びら。それはそれで絵になるけど、俺はカワイの髪に付いた桜の花びらを取ってあげた。  つまんだ桜の花びらを見せると、カワイはパチパチと数回の瞬き。それから、カワイは手を動かした。 「それを言うなら、ヒトにもサクラ付いてる」 「えっ、本当? 取って取っ──」  嬉々として返事をした俺に。……カワイの顔が、近付いた。  まるで、キスをするかのような距離。近付いたカワイの顔に見惚れていると、カワイはそっと口を尖らせた。  それから……ふぅ、と。吐息を、かけられた。 「サクラ、飛んでいったよ」  至近距離で微笑むカワイを見て、俺はしばし絶句してしまう。  だがやがて、カワイの吐息が夢なのではと思ってしまうほど時間が経った後──。 「──春風よりも、カワイの『ふぅ』の方が心地良い……!」 [──ですから、そのネタはカワイ君には通じませんってば]  俺は顔面を両手で覆って、心から悶えたのであった。  ……ちなみに余談だけれども、その翌日。  朝になっても起きようとしない俺に『ヒトは起きなくていいし、働かなくてもいいよ。ボクとゼロタローがヒトのことを養ってあげるから』と言う夢を見るくらい、俺はお花見中に発覚した二人の副業に衝撃を受けていたらしいと気付いたのであった。  やはり、どうにか収入アップを目論まなくては。当然、カワイには全力で止められたけど。 3.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔のお花見です】 了

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