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片方は、黒色。もう片方は赤色の、俺の瞳。
俺は、この瞳が嫌いだ。黒色はあの人──母親を思い出すし、赤色は父親の存在を否が応でも彷彿とさせるから。
「ごめんね、カワイ。ずっと、隠していて」
カワイは、俺が投げたボールを受け取る。それが、俺の謝罪を受け止めてくれたという意味じゃないとしても。カワイは俺からのボールを、受け取ってくれた。
そのままカワイは、ジッと見つめる。ボールじゃなくて、俯いた俺を。
だけど俺は、カワイの顔が見られない。どんな目を向けられているのか、直視したくなかったから。
そんな俺の顔を上げたのは、カワイの声だった。
「──うん、大丈夫。ずっと、そんな気がしてたよ。ヒトの言葉は時々、少しおかしかったから」
カワイの、遠慮のない──優しい、声。
俺が顔を上げると同時に、カワイは構える。そして、ヤッパリ軌道が危ういボールを投げた。
「ボクのために食べ物を買って来てくれた時、ヒトはボクを『純正悪魔』って言った。ボクがヒトを人間扱いすると、ヒトはいつも複雑そうな顔をしてた。例えばヒトの指のケガを指摘した時とか、他にも……。……これ以上、聞きたい?」
「いや、大丈夫。自分のマヌケ加減にちょっと情けなくなってくるから、ストップしてほしいです」
「分かった。ヒトが、そう言うなら」
俺、分かり易すぎるな? 一世一代の告白をしたつもりだったけど、格好つかないぞ、これは。
ボールをキャッチした後、もう一度カワイに向かってボールを投げる。カワイは一生懸命、俺が投げたボールを取ってくれた。
「でも、言動だけじゃ分からなかったよ。ボクがヒトを『普通の人間と違う』って思ったのは、ボクが悪魔だからだもん。ヒトが持つ魔力に、ボクは気付いちゃっただけ」
なるほど。ヤッパリ、悪魔にはなにかしら通じ合うものがあるらしい。ファンタジーじみた話だが、自分の中に流れる半分の血がファンタジーそのものなのだから、納得するしかない。
「でも、これだけじゃ分からない。どうしてヒトは、野球を辞めちゃったの?」
カワイからのボールと、問い。俺は受け止めながら、両方に返す。
「人間界で、悪魔は起業できない。大きく名が残るような活躍をしちゃいけないから、仕事にも制限がある。しかもそれだけじゃなくて、悪魔と人間は身体能力が違うっていう理由もあって、プロのスポーツ選手にもなっちゃいけない。……他にも色々と制約があるのは、カワイも知ってるよね?」
「うん、知ってる。人間も、魔界ではすごいことをできない」
「そうだね。だから俺は、どっちの世界にいても【そこそこ】で終わり。子供の頃にそう知っちゃったから、俺は野球を辞めたんだ。続けても、未来なんか無いからね」
「そっか。それだと、モチベーションにならないもんね」
さすが、人間界に来るための試験を突破したカワイだ。俺の話をすぐに理解して、納得してくれている。
今のカワイに、俺はどう映っているだろう。知りたいような、知りたくないような……。複雑な気持ちのまま、俺はボールを投げる。『ごめんね』って。そんな気持ちも、乗せながら。
それでもカワイは、しっかりとボールを受け止めてくれた。
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