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俺がカワイへの想いに気付いたなんて、カワイは気付いていない。
「ヒトが悪魔と人間の混血だって、会社の人間は知っているの?」
キャッチボールを続けながら、そんな雑談を投げてくれているのだから。
だから俺は、自覚したばかりの気持ちを一先ず閉じ込めた。『自覚したばかりの気持ちだから、今はまだ、俺だけが独り占めしていたい』という気持ちもあるからだ。
なので、俺は雑談に乗っかった。
「一応隠してはいるんだけど、社長と人事担当者を除けば、一人だけが知っているかな」
「それはツキって人間?」
「ううん、違うよ。知っているのは月君じゃなくて、|草原《そうげん》君って子。悪魔なんだ、草原君は」
「ヒトの会社、悪魔がいるんだね。……ふーん」
カワイがそっと、瞳を伏せた気がする。
無論、目敏い俺はその動作を見逃さない。瞳を細め、口角を上げ、ニヤニヤしながら追撃した。
「あれれぇ~? もしかしてカワイ、俺の近くにカワイ以外の悪魔がいるって知って、ヤキモチ焼いちゃったのかなぁ~? なんちゃって──」
「──ヤキモチ? どうして? その発想にビックリ」
「──むしろ俺の方が驚きなんですけど!」
悪魔はいいのか! 猫は駄目なのに! 分からないよ、そのさじ加減が!
と言うかそもそも、今の俺メチャメチャ恥ずかしい奴じゃない? てっきりヤキモチだと思ったから、カワイの反応を受けて俺は恥ずかしさがマックスだ。そのせいで、俺はちょっと速い球を投げてしまった。
「えっ、わ、わわっ」
「あっ! カワイ、ごめん!」
カワイは慌てた様子でオロオロと動き回り、一生懸命ピョンッと飛んだ。
その際、俺は見てしまった。
──お召し物がピラッと捲れ上がったことによりチラ見えされた、カワイの可愛いお腹を!
俺が反射的にカッと刮目したと同時に、カワイは慌ててお腹を隠した。どうやら、恥じらっているらしい。ありがとう、その恥じらいも可愛いです。
心の中で合掌をしている俺を見て、カワイはお腹を隠したまま俺を見た。
「……今、見たよね。ボクの、お腹」
「う、うん。見ちゃった、かな」
カワイは恥ずかしがりながらも、取りこぼしたボールを拾いに行く。
転がっていったボールを拾った後、カワイは小走りで元の位置に戻る。それから、チラリと俺を見つめて……。
「──どう、だった?」
……はい? 『どうだった』って、どういうことでしょうか?
い、いやしかし! 可愛いカワイが訊いているんだぞ! 見てみろ、今のカワイを! 緊張感からか、尻尾がユラユラ揺れているじゃないか!
戸惑っている場合ではない。俺は、しっかりとカワイの顔を見つめる。
「こ……」
「『こ』?」
あのカワイが、恥じらいながらも俺に感想を確認したんだ。ここでハッキリ伝えないなんて、男が廃る!
だから俺は、グローブをはめていない方の手で拳を握った。そして、ハッキリと答えたのだ。
「──好みです!」
[──通報します]
その日俺は、誰が見ているとも分からないマンション敷地内の裏庭で、スマホ相手に華麗な土下座を決め込むこととなった。
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