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 ゼロ太郎になんとか見逃してもらったところで、俺は空の色に気付いた。 「それじゃあ、そろそろ帰ろうか。暗くなってきたら、ボールが見えなくなっちゃうからね」 「うん、そうだね。ヒト、ぐったりしているみたいだし」 「あー、うん。ソウダネー……」  誘導尋問な気もしたけど、仕方がない。罪を認めよう。認めたのだから、赦してほしい。ゼロ太郎相手に謝りまくって疲弊した俺は、渇いた笑いを浮かべた。  カワイは心配そうに俺を見ていたけど、きっと『いつものことだもんね』とでも解釈してくれたのだろう。俺に近寄り、普段通りに話しかけてくれた。 「ねぇ、ヒト。また一緒に、キャッチボールしてくれる?」 「勿論だよっ。カワイとなら毎日でも大歓迎っ」  カワイからの可愛いお誘いに、俺の元気はフル充電。不安そうにしていたカワイを安心させるべく、俺は何度も大袈裟なほど頷いてみせた。  それを見て、カワイは嬉しそうに尻尾を振っている。そして、俺に比べて小さな手を伸ばしてきたではないか。 「あのね、ヒト。手、繋ぎたいな」 「うん、勿論──……っ」  カワイが手を伸ばすから、反射で了承したけども……。  ──あっ、あれっ? なんか、メチャメチャ緊張してきたのだけど……えっ、えぇっ?  お、おかしいな。ホームセンターに向かう途中も、マンションに戻ってくる時だって手を繋いでいたのに、あれっ?  動揺する俺の顔には、呼んでもいないのに熱が集まってくる。そう自覚できるくらいには、赤くなっているのだ。  ……そう、か。『カワイが好きだ』って自覚したから。だから俺は、こんなにドキドキしてるのか。顔に集まってきた熱が意味することを理解し、俺はカワイをチラリと見てみた。  カワイも、同じ気持ちだったら嬉しいな、なんて。そんな期待を込めて、カワイを見つめる。 「ヒト? どうかしたの?」  視線に気付いたカワイが、小首を傾げた。……それすらも、可愛い。  おかしいな。カワイが可愛いなんて初めから分かっていたけど、それにしたって可愛すぎる。なんだか、妙な補正が付けられたような気がするくらいだ。 「あー、いやっ。慣れないことしたのに、カワイは普段通りに見えるなと思ってさ! あはは~っ!」  なんだか、意識をしているのが俺だけだと分かると猛烈に恥ずかしい。なので俺は、強引に話題を作る。 「確かに、いつもと違って疲労感はある。だけど、嬉しい気持ちの方が多いから疲労は相殺。まだまだ元気」 「おおっ、すごいねっ?」  俺に感心されたからか、カワイは嬉しそうだ。尻尾の揺れが速くなった。  カワイはどこか誇らし気な様子で胸を張りつつ、俺を見上げる。 「うん、ボクはすごくすごい。だから、部屋に戻ったらヒトをマッサージしてあげる」 「──なんだって? いったい、いくら欲しいんだい?」 「──違う、そうじゃないの。ヒト、目が怖いよ」  好きな子に無料でマッサージしてもらえるなんて、そんな夢みたいなことが起こり得るはずがない。むしろ、お金を積んでも発生するはずがないイベントじゃないか。  ポケットの中でスマホがブブッ、ブブッと何度も振動しているけど。俺は戸惑うカワイを目に焼き付けるので忙しかったので、今回ばかりはスルーさせていただいた。  ……ちなみに、余談。部屋に戻って速攻、俺はスマホに土下座をかました。悪魔との混血と言えど、怖いものは怖いのだ。

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