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 帰宅し、ゼロ太郎への弁明を終えたその後で。 「カワイ、すっごいね……。メチャメチャ気持ちいい……」 「ゼロタローの指示に間違いはないからね」  ゼロ太郎に指南を受けながら、カワイは俺にマッサージを始めてくれた。  すっごく、すっごい。ツボとかには詳しくないけど、なんだか気持ちのいいところを的確に突かれている気がする。あぁ~、すごい~っ。 「カワイならいけるよ、整体師路線。プロになれちゃうよ。……まぁ、俺以外にこんなことさせないけどね」 [なんなのですか]  誰がカワイを渡すものか。金を積まれたってカワイにマッサージはさせないぞ。俺はカワイの保護者だからな。  カワイはむぎゅむぎゅっと俺を押しながら、普段と同じ優しい声音で訊ねる。 「体重かけてるけど、重くない?」 「大丈夫大丈夫~っ。カワイの体重はリンゴ五個分だからね~」  すかさず、頭上からゼロ太郎のツッコミが入った。 [違います。リンゴ換算がお望みなのでしたら、カワイ君の体重は──] 「──やめろゼロ太郎! プライバシーだぞ!」 「──ボクの体重でそんなに盛り上がるんだね」  だが俺は、ゼロ太郎のツッコミを遮る。なぜなら【体重】という個人情報は、今の俺にとってデリケートなものだからだ。  しかし、カワイの体重か。俺はふと、同じ会社で働く悪魔──草原君のことを思い出した。 「あのさ、カワイ。悪魔ってみんな、カワイみたいに華奢で細身なの? うちの会社にいる草原君も細身なんだよね」  俺の疑問に、カワイは否定を返す。 「ううん、そんなことないよ。太る悪魔もいるし、筋肉いっぱいな悪魔もいる。おっぱいが大きい悪魔もいるし、まな板と見紛うくらいおっぱいが無い悪魔もいる。個体差があるのは人間と同じだよ」 「へぇ~、そうなんだ」  つまり人間と同じく、悪魔の体型も個人の努力次第ということか。悪魔と言えど、やはり生物ということ。なんでもファンタジーにはならないのか。  ……いや、待てよ? 本人の努力次第でどうとでもなるのだとしたら? 俺は、とんでもないことに気付いてしまった。  もしもこのまま、カワイと運動を続けたとしたら。……そうしたら、カワイは!  ──ムキムキのカワイがッ! 筋骨隆々なカワイが出来上がってしまうのではッ! 「──そんなの嫌だぁあッ!」  うつ伏せの姿勢で施術を受けていた俺は、大いなる気付きと損失と恐怖に、体をガクガクと震わせ始めた。  俺にマッサージを施してくれていたカワイが、ビクッと体を震わせる。手が俺の背中に触れているから、カワイの驚きは伝わってきた。  カワイは恐る恐るといった様子で、俺の顔を覗き込む。そして、すぐに天井を見上げた。 「ゼロタロー、どうしよう。ヒトの目が、またグルグルになっちゃった」 [平常運転です。元気で健康な証拠ですよ。マッサージが効いているのです] 「いやその返しはおかしいでしょうが!」  確かにマッサージは最高だけども! そこは否定しないけどもさ!  ゼロ太郎の言葉に納得したのか、カワイは揉み揉みと俺のマッサージを続ける。 「それで? いきなりどうしたの?」  優しい。優しくて、可愛い。このカワイが、もしも筋骨隆々な……それこそ、月君みたいに筋肉を育て始めたら、俺は……! 「カワイッ!」 「うん。……うん?」  即座に起き上がり、俺はマッサージを施してくれていたカワイの両手を握る。  そのまま、まるで恐怖心を打ち消すかのように大きな声で伝えた。 「──俺は今のカワイが大好きだよ!」 「──っ!」  伝えると同時に、カワイはプイッとそっぽを向いてしまう。 「いきなりそんなこと言われても、ビックリするだけだよ。……バカ」 「えぇええッ! どうしてッ! カワイが反抗期だぁあッ!」  後で気付いたけど、なんだか告白みたいなシーンになってしまったなぁ。  ……なんて。告白はちゃんと、機が熟したらするつもりだけどね!

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