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周りの職員から『今日も二人は仲良しですね』やら『ふふっ、微笑ましい』なんて視線を向けられながらも、なんとか月ーズブートキャンプを回避した頃。
「今まで体重なんて気にしたことなかったから、正直に言うと自分の適性体重とかよく分からないんだよね。BMIとか、暗号かなってレベル」
俺のぼやきに、月君は相槌を打ってくれる。
「差し支えなければ、センパイの身長と体重を教えてもらえますか? これもいい機会ですし、計算しますよ」
「本当に? 助かるよっ」
俺は誰かに体重を知られたところで、別になんとも思わない。なので身長と体重を紙に書いて、すぐに月君へと渡す。
俺から紙を受け取った月君は電卓を取り出し、書かれたデータを元にパチパチッと計算を始めた。
……しかし、いざ調べてもらうとなると、さすがにちょっと緊張するかも。俺は今まで味わったことのないドキドキ感を抱きながら、月君が導き出す答えを待つ。
どんな結果でも、きちんと受け止めよう。たった数秒が数分単位に感じてしまうほど緊張していると、急に月君の手が止まった。
計算が終わったのだろうか。答えを訊こうとした、その直前。
「えっ。センパイ、この体重って……」
月君が、メチャメチャ不穏なオーラを纏い始めたではないか!
えっ、なにっ? ちょっと待って、なんで月君そんなっ、そんな顔をっ?
驚愕、一色。月君は悪い夢でも見ているのかと思わせるほど、まるで信じられないものと直面しているかのように顔色を曇らせている。
「えっ、えっ? 嘘、待って? そんなにヤバい?」
「はい。マジでヤバいです」
マジでヤバいって、マジでヤバいってことッ? 俺の中で【ヤバい】がゲシュタルト崩壊を起こした。
待って、そんな……。俺はもう、カワイのおいしい手料理が食べられ──。
「──センパイ、全然軽いですよ。むしろ、以前まではこれより体重が軽かったんですか? 不健康すぎますよ、マジで」
……。
…………。
「……んんっ?」
* * *
その日の、お昼休憩。
「ねぇ、ゼロ太郎。ちょっと教えてほしいんだけどさ、ゼロ太郎は俺の適性体重とかって分かるよね?」
休憩室でスマホを片手に、俺はそう訊ねた。
ゼロ太郎からの答えは、思っていた以上にサッパリとしている。
[無論です。人工知能嘗めないでください]
「だよね? そうだよね? 知ってるよね?」
ゼロ太郎は『なにをそんなに必死な形相を』とでも思っているのだろうけど、俺からすると大問題だよ。必死にだってなるさ。
だって、だって……!
「今日、月君に身長と体重を教えたんだけどさ? 『もっと太れ』って言われたんだけど?」
ゼロ太郎の答えは、やはりサッパリ。
[はい、そうですね。主様は軽すぎます]
「ヤッパリそれも知ってたんだ! じゃあなんで俺が体重計に乗ってから『過去最高の数値かも』って言った時に驚いたのっ? 俺、むしろ健康体じゃん!」
ピシャリ。ゼロ太郎は鋭く答える。
[──それは驚きもしますよ。今の体重が過去最高数値だなんて、人工知能ビックリです。どんな生き方をしてきたのですか、まったくもう]
「──あっ、そういう驚きだったのっ?」
それなら仕方ない。心配かけてごめんね──じゃなくて!
「じゃあどうして、カワイにダイエット料理の提案をしたのさ! おかげで俺は酢を一本飲まされるところだったんだよ!」
[カワイ君がレシピを求めたからですね。求められたのならば、全力で応えます。私はそういう存在ですから]
「あぁそうだったねいつもありがとう!」
いったい、俺の苦悩は……! 俺は頭を抱えて、己の無関心さを嘆いた。
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