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5.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔の恋バナです】 1

 先日の【追着陽斗が太ったのでは? 騒動】が落ち着いて、数日。 「今日の晩ご飯もおいしい。俺は今、食物だけではなく幸せも噛みしめている。あぁ~、幸せぇ~っ」  メンチカツの中にスクランブルエッグが入っているオシャレな料理を頬張りながら、俺はニコニコと笑っていた。  あの騒動が落ち着いてからというもの、俺は日々、カワイとゼロ太郎が用意してくれる料理に感謝をしまくっている。  カワイにも話した通り、俺が育った家庭環境というものはお世辞にも『良いもの』とは言えない。正直、母親──あの人の手料理なんて、ひとつとして記憶に無いほどだ。  それでもこうしてすくすくと育ったのは、やはり俺の出生が理由だろう。悪魔の血とは、それほど丈夫な遺伝子のようだ。  まぁ、とにかく。そんなこんなで俺は【家族】というものに強い憧れがあった。今もずっと、その存在に強く焦がれている。  そんな俺にとって、家族が作ってくれる料理というものは言葉にできないほど嬉しいものなのだ。それはもう、普段はゼリー飲料しか摂取していなかった俺が、満面の笑みで「ご飯のおかわりをください!」と懇願するほどに。  だが、例の騒動が終わってからというもの。この日々に、俺は新たな喜びを見つけてしまった。 「はい、ヒト。ご飯のおかわりだよ」 「わーいっ! ありがとう、カワイ!」  それは、この子──カワイへの気持ちが理由だ。  この、状況。カワイが料理をしてくれて、カワイが俺のためにご飯をよそってくれて、カワイが俺を見てくれて……。つまり、要約するとこうなる。  ──好きな子と過ごす日常って、贅沢すぎやしないか? という話だ。  家族が作ってくれるご飯というだけでプレミアすぎるのに、そこに【好きな子】という属性が盛られた。ご飯で例えるなら、白米の大盛りだけでもテンションが上がるのに、てっぺんに梅干しが添えられたようなものだ。もう、ルンルンではないか。 [今、主様が訳の分からない例え話を唱えたような……] 「そうなの? 気付かなかった」  一先ず、ゼロ太郎とカワイの会話をスルーさせてもらおう。突っかかれば最後、俺は泣く気がする。  ……まぁ、とにもかくにも、だ。  俺は今現在、とても贅沢な日々を過ごしている。よそってもらったご飯をムシャムシャと食べ進めながら、俺は幸福も噛みしめているのだ。  素晴らしいじゃないか、日常。素晴らしいじゃないか、恋愛。俺は今、幸福の絶頂だ。  ……いやまぁ、あれだよ。カワイと両想いになったわけではないとか、そもそもカワイとはただの同居人であって恋人とは違う関係性だとか……。まだまだ、俺とカワイの関係は【保護者と保護対象】ってところだけども。  それでも、今の俺はハッピーなのだ。恋愛にキャッキャウフフする女子高生たちの気持ちが分かるほどに。 「……ヒト、最近いいことあった?」 「えっ! なっ、なんでっ?」 「最近、いつも以上にニコニコしてる気がするから」  浮かれているのがカワイ本人にバレてしまうほどに、俺はハッピーだった。 「『いいこと』って言うか……うん、そうだね。最近、今まで以上に『幸せだなぁ』って思うことが増えてさ」  俺の正面に座ったカワイは、浮かれている俺の顔をジーッと見ている。  それから……。 「ヒトが嬉しいと、ボクも嬉しい。だから最近は、ボクも今まで以上にいっぱい幸せだよ」  ニコリと、それはそれは可愛い笑顔を向けてくれた。  途端に詰まる、俺の胸。俺は呻きながら、苦しいほどに締め付けられた胸を押さえる。 「──ありがとう、カワイ。寿命、延びた気がする」 「──そうは見えないけど」  結論。今日もカワイが可愛い。……結局のところ、俺の根本は変わっていないのかもしれない。

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