129 / 144
5.5 : 2
おいしい晩ご飯を食べ終えて、俺は心も体も満たされたような心地になった。
すると、まるで『待っていました』と言わんばかりにカワイが立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。
「ヒト、少し待っていて」
「カワイが望むならいくらでもっ」
要件は分からないけど、愛するカワイに頼まれたのならばいくらでも待つ。俺は椅子に座ったまま、カワイが戻ってくるのをルンルンと待った。
数秒後。カワイは冷蔵庫から【なにか】を持ってきたらしい。カワイの少し不思議な手には、小さなカップが握られていて……。
「すっ、すごい! 二層になったムースだっ!」
「グレープフルーツのムースだよ。オレンジジュースでも作れるみたいだから、今度はオレンジムースも作ってみたいな」
「なんというチャレンジ精神。そして、思い返せば全てにおいて成功という結果を残している。……ねぇ、ゼロ太郎。俺たちの子供、天才すぎないかな?」
[私たちの子供ではありませんが、確かにカワイ君は天才ですね。素晴らしいです]
「ゼロタローがそんなおべっか言うなんて、珍しい」
尻尾がユラユラと揺れているぞ。俺はともかく、ゼロ太郎が褒めるなんて珍しいからなぁ。きっと、カワイは喜んでいるに違いない。
普段は甘いものをあまり口にしない俺のことを考えて、チョコとかプリンみたいな【甘さ重視!】ってデザートじゃなくて、サッパリ系のムースにしてくれたのかな。……なんてことを考えるだけで気持ちが弾むのだから、ヤッパリ恋ってすごい。
「もしも甘過ぎたらごめんね」
「大丈夫だよっ。カワイが作ってくれたものならなんでも食べる! と言うか、むしろ食べたい!」
「……ありがとう」
フイッと顔を背けて、カワイは自分の椅子に戻る。依然として、尻尾は揺れていた。よほど、ゼロ太郎に褒められたのが嬉しいのかな? そんなところも可愛い。
はてさて、それでは……。俺はカワイとゼロ太郎お手製のムースにスプーンを差し込み、早速一口。
「うんっ。サッパリしていておいしいねっ。仕事の疲労が一撃で消し飛ぶ味だよっ」
「それは、すごくすごい味だね」
カワイがとても驚いている。嘘は吐いていないのになぁ。
二人でムースを食べ進め、おいしさを共有した頃。不意に、カワイは顔を上げた。
「そう言えば、ゼロタローは【ヒトが悪魔と人間の混血】って、知ってるの?」
「うん、知ってるよ。……ねっ、ゼロ太郎?」
[はい、存じております]
「そうなんだ」
一度会話を止めて、ムースを一口。それからカワイは、もう一度訊ねた。
「じゃあ、ヒトの【家族】に対する気持ちも?」
「うん、勿論知ってるよ。俺が唯一、ゼロ太郎に求めたことだからね。……ねっ、ゼロ太郎?」
[はい、そうですね。入居する際の契約書に記載されていました]
「そうなんだ」
それからまた、ムースを一口。そして、またもやカワイは訊ねる。
「それで、すぐに家族になったんだね」
「あー、いや。すぐではなかった、かな」
[はい。すぐではありませんでした]
「そうなんだ」
怪訝そうだ。怪訝そうだけど、ムースを食べている。可愛い。
俺は一度、スプーンをくるりと指先で回す。それから、小首を傾げているままのカワイを見た。
「そうだねぇ。それじゃあ、話そうかな。俺とゼロ太郎の出会いとか、こうして家族になった経緯とか」
俺の提案を受けて、カワイはコクコクと頷く。
それからまた、カワイはムースを口に運んだ。
ともだちにシェアしよう!