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5.5 : 2

 おいしい晩ご飯を食べ終えて、俺は心も体も満たされたような心地になった。  すると、まるで『待っていました』と言わんばかりにカワイが立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。 「ヒト、少し待っていて」 「カワイが望むならいくらでもっ」  要件は分からないけど、愛するカワイに頼まれたのならばいくらでも待つ。俺は椅子に座ったまま、カワイが戻ってくるのをルンルンと待った。  数秒後。カワイは冷蔵庫から【なにか】を持ってきたらしい。カワイの少し不思議な手には、小さなカップが握られていて……。 「すっ、すごい! 二層になったムースだっ!」 「グレープフルーツのムースだよ。オレンジジュースでも作れるみたいだから、今度はオレンジムースも作ってみたいな」 「なんというチャレンジ精神。そして、思い返せば全てにおいて成功という結果を残している。……ねぇ、ゼロ太郎。俺たちの子供、天才すぎないかな?」 [私たちの子供ではありませんが、確かにカワイ君は天才ですね。素晴らしいです] 「ゼロタローがそんなおべっか言うなんて、珍しい」  尻尾がユラユラと揺れているぞ。俺はともかく、ゼロ太郎が褒めるなんて珍しいからなぁ。きっと、カワイは喜んでいるに違いない。  普段は甘いものをあまり口にしない俺のことを考えて、チョコとかプリンみたいな【甘さ重視!】ってデザートじゃなくて、サッパリ系のムースにしてくれたのかな。……なんてことを考えるだけで気持ちが弾むのだから、ヤッパリ恋ってすごい。 「もしも甘過ぎたらごめんね」 「大丈夫だよっ。カワイが作ってくれたものならなんでも食べる! と言うか、むしろ食べたい!」 「……ありがとう」  フイッと顔を背けて、カワイは自分の椅子に戻る。依然として、尻尾は揺れていた。よほど、ゼロ太郎に褒められたのが嬉しいのかな? そんなところも可愛い。  はてさて、それでは……。俺はカワイとゼロ太郎お手製のムースにスプーンを差し込み、早速一口。 「うんっ。サッパリしていておいしいねっ。仕事の疲労が一撃で消し飛ぶ味だよっ」 「それは、すごくすごい味だね」  カワイがとても驚いている。嘘は吐いていないのになぁ。  二人でムースを食べ進め、おいしさを共有した頃。不意に、カワイは顔を上げた。 「そう言えば、ゼロタローは【ヒトが悪魔と人間の混血】って、知ってるの?」 「うん、知ってるよ。……ねっ、ゼロ太郎?」 [はい、存じております] 「そうなんだ」  一度会話を止めて、ムースを一口。それからカワイは、もう一度訊ねた。 「じゃあ、ヒトの【家族】に対する気持ちも?」 「うん、勿論知ってるよ。俺が唯一、ゼロ太郎に求めたことだからね。……ねっ、ゼロ太郎?」 [はい、そうですね。入居する際の契約書に記載されていました] 「そうなんだ」  それからまた、ムースを一口。そして、またもやカワイは訊ねる。 「それで、すぐに家族になったんだね」 「あー、いや。すぐではなかった、かな」 [はい。すぐではありませんでした] 「そうなんだ」  怪訝そうだ。怪訝そうだけど、ムースを食べている。可愛い。  俺は一度、スプーンをくるりと指先で回す。それから、小首を傾げているままのカワイを見た。 「そうだねぇ。それじゃあ、話そうかな。俺とゼロ太郎の出会いとか、こうして家族になった経緯とか」  俺の提案を受けて、カワイはコクコクと頷く。  それからまた、カワイはムースを口に運んだ。

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