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まぁ、ゼロ太郎との出会いに関して隠すことはない。俺はムースを食べつつ、カワイとの会話を続ける。
「俺はずっと、家族が欲しかった。【家族】ってものに強い憧れがあって、だからゼロ太郎とはどうしても家族になりたかったんだ」
「うん」
「でもね、女の子は駄目。俺は、子供がほしくないから」
「どうして?」
家族が欲しいくせに、子供は欲しくない。俺がそう言えば、カワイの反応はそうなるよね。
ということで、俺はサラリと答える。
「俺は、この血を続けたくないんだ。【悪魔と人間のハーフ】って理由で苦しい思いばかりしてきたし、何年経っても、時代がどれだけ進んでも、混血の生き難さは変わらない。そんな思いを、子供にはしてほしくないんだ」
「ヒトが前に『子供は作りたくない』って言っていたのは、それが理由なんだね」
「うん、そうだよ。人間界でも魔界でも、大きな夢は【絶対に】叶わない。苦しくて、惨めで……。こんな思い、俺以外にはさせたくないんだよ」
「そうなんだ」
静かに、カワイは俺の話を聴いてくれていた。
こんな話を、まさかゼロ太郎以外にする日がくるなんて。なんとも不思議な気持ちのまま、俺は話を続ける。
「だけど、家族は欲しかった。家族の温もりも、家族っていう唯一絶対に安心できる相手も。……俺は、家族が欲しかった。でも女の人は幸せにできないから、俺は消去法で男の人が恋愛対象になったんだよ」
子供がいなくたって、そういう形でも夫婦の幸せはあると思う。だけど、そうじゃない幸せだってある。
俺はどうしたって、子供がいる幸せは与えられない。だから俺は、女の人じゃ駄目なんだ。どうしても俺は、余計なことばかり考えてしまうから。
だけど家族は欲しいから、誰かと一緒にいたかった。それで、俺の恋愛対象は消去法で男性になった……というだけの話だ。
「こんな話、ゼロ太郎以外だとカワイにしかしたことないんだよね。だから、えっと……ごめんね、気持ち悪い話しちゃって」
「気持ち悪くなんてない。恋愛は自由だし、恋愛観も、論じる幸福だって自由だよ」
「あははっ! ゼロ太郎と同じことを言ってくれるんだねっ」
笑うと、カワイはなぜか嬉しそうに微笑んだ。ゼロ太郎とのお揃いが嬉しいのかな。
まぁ、なんにせよ。ということで、俺とゼロ太郎の思い出回想は終わり。カワイは納得した様子で、カップに残った最後の一口を食べた。
……が、なにか気になる点があったらしい。
「あれ? でも、なんでヒトは、ゼロタローの声をこんなに低く設定したの? 声だけでも女の子にはできるし、そうじゃなくてもヒトが好きなのはカワイイ子だよね?」
カワイの疑問に対する答えを、俺はさも当然と言わんばかりのテンションで口にした。
「だって、可愛い声で叱られたり注意されたりしても、俺の生活は改善されないでしょう?」
「えっ。……え、っと」
[──カワイ君。遠慮せず、素直に『今も改善されていないのでは』と仰って良いのですよ]
ひっ、酷いっ! これでも多少は改善されたし、確実にいい方向へと俺の日常は進んでいるのに!
でも自覚があるから、なにも言い返せないっ! 俺はかき込むように、カップに残ったムースを完食したのであった。
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