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そんなこんなで始まった、三人での飲み会。
先ずは各々の飲み物を頼み、それから料理もいくつか注文。俺たちは無事に、飲み会のスタートを切った。
「──本日は竹力様を持ち帰る覚悟でございますので、お覚悟を」
「──独りで帰れ」
と同時に、危うく閉幕するところじゃないか!
ちょっとおしぼりで手を拭いていただけで、どうしてっ? 俺はすぐに草原君へと詰め寄る。
「待って待って待って! 草原君! ここはせめて、先ずは【同期】から【親友】くらいまで友好度を高めるとかさ! もうちょっと段階を踏もうよ!」
「僕と竹力様に残っている段階はセックスだけでございますが?」
「……えっ、そうなのっ?」
「違いますよ! 一瞬で丸め込まれないでくださいセンパイ!」
じゃあ、なに? 草原君は今、超真顔で嘘を吐いたってこと? 末恐ろしいなこの悪魔君!
届いたばかりのビールが入ったジョッキを、形式的に乾杯を交わしてからグイッと一口。俺は冷えたビールをキンキンと楽しんだ後で再度、草原君に顔を向けた。
「あのね、草原君。たぶん、草原君のド直球すぎるストレート剛速球が月君は受け止められないんだよ」
「これだけ素晴らしい体格をしているのに、僕如きのボールが受け止められないのでございますか?」
「なっ! 表に出ろ、三日月! 三日月とのキャッチボールでオレが負けるワケないだろうが!」
「では『竹力様は僕からの剛速球を受け止めてくださる』という解釈でよろしいでございましょうか?」
「──そう言ってるだろ!」
「──落ち着いて月君! 話が食い違ってるよ!」
なにこの悪魔君、怖い! 目的までのルートを自ら開拓しているよ! たぶん草原君は『道が無いのなら自分で作れば良いのでございますよ』とか言って、行き止まりの壁をドッカンドッカン壊していくタイプだ!
立ち上がった月君の腕を掴み、なんとか座り直させる。それから俺はビールをグビグビッと飲んだ後で、草原君を見た。
「えぇっと、草原君? 例えば、そうだなぁ……。月君へのアプローチの方向性を変えてみるのはどうかな?」
「アプローチの、方向性?」
「こう、グイグイ押すだけじゃなくてさ? 例えばほらっ、それとない優しさを見せてみるとか?」
「それとない、優しさ。……善意、ということでございますね」
おっ、意外と素直な反応。草原君は顎に指を添えて、黙り込んだ。
うぅ~ん。ヤッパリ、黙っていると絵になるなぁ。考え込んでいる草原君を見て、月君も「ずっとこうならいいんだけどな……」って言っているし。
やがて、草原君はなにかが閃いたらしい。伏せていたまつ毛を上げて、草原君は月君を見つめた。
「竹力様」
「な、なんだよ?」
なんて真剣な表情だろう。それでいて、整った顔だ。タジタジになる月君の気持ちも分かる。
だけど、俺たちは忘れていた。
「──消したい記憶はございますか?」
「──怖いッ!」
草原君は、いつも真顔だったと。
ゾゾッと身を震わせる月君を見て、草原君はポンと自らの手を打つ。こちらも変わらず、普段通りの真顔で。
「なるほど。それでは【恐怖心そのもの】を抹消する、ということでよろしいでございましょうか?」
「怖い怖い! マジで怖い!」
「お任せを。こう見えて僕は、悪魔の学校を首席で卒業するほどのエリートでございます。魔術の扱いに長けているので、不要な感情だけを削ぐことなど朝飯ならぬ飲み会前でございますよ」
「三日月のそういうところが苦手なんだよ! うわぁ~んッ、センパイ~ッ!」
なんだか、本格的に【善意】というものをはき違えている気がする。とてつもない勢いで飛びついてきた月君に見事潰されながら、俺は頭を抱えてしまう。
せめて、せめて二人の価値観を擦り合わせるだけでも……! 上体を起こした後、俺は残っていたビールを一気に飲み干した。
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