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後輩二人の飲み会に混ぜてもらい、俺は居酒屋で日付が変わる直前頃までお酒を嗜んでしまった。
幸いにも、明日は休日。『念のため休日出勤しようかな』程度の気持ちだったので、二日酔いの場合は素直に寝て過ごそう。
つまり、この思考がなにを意味するかと言うと……。
「──たっだいまぁ~っ! カワイ~っ、ゼロ太郎~っ! 家主様のご帰宅だぞぉ~うっ!」
──どんな飲み会であろうと必要以上にやる気を出してしまう俺は、ものの見事にへべれけだ。
無論、後輩二人の前でこんな姿は見せないぞ。これはあれだ、家族だけの特権だ。……そう! つまりこれは『家族サービス』というやつだ!
[なんて迷惑なサービスでしょうか]
「んあぁ~っ! ゼロ太郎が冷たい冷たいつ~め~た~い~っ!」
と言うことで、バタリ。俺はリビングに辿り着くよりも先に、通路へと倒れ込んだ。
すると丁度そのタイミングで、カワイがリビングから姿を見せてくれた。俺は倒れ込んだまま顔だけを上げて、カワイを見る。
「あぁ~っ、カワイだぁ~っ。今日も可愛いねぇ~っ? だって、カワイは可愛いからカワイだもんねぇ~っ。……ねぇ~っ?」
「おかえり、ヒト。ここで寝ちゃダメだよ。先ずは着替えよう。……ね?」
「んんん~っ! カワイがしっかりしてるぅ~っ!」
「褒められた、嬉しい」
カワイは尻尾を振りながらも、懸命に俺を引きずり始めた。
「ヒト、今日は一段とすごくすごい。大丈夫?」
「大丈夫だよ~っ。んっへへへっ、カワイに心配してもらえて嬉しいなぁ~」
[酔っ払いの『大丈夫』を信用してはいけませんよ]
「分かった」
「あっれぇ~?」
ゼロ太郎の一声により、俺はサラリと『大丈夫ではない』認定を受けてしまったらしい。トホホ。
カワイは俺をリビングまで引きずった後、コップに水を注いで持って来てくれた。
「水だよ、飲んで」
「飲む飲むぅ~っ! まだまだ飲めるよぉ~っ!」
「うん。水を飲もうね」
カワイが用意してくれたものならお酒でもお水でも、なんだって飲み干してやる! そんな精神で、俺はコップに注がれた飲み物をグイッと飲み干した。
「ぷはぁ~っ! おいしいっ! もう一杯!」
「うん、水だね」
おかわりまでいただいてしまったぞ。カワイは甲斐甲斐しくて世話焼きで、本当にいい子だなぁ~。
「今日はねぇ、ちょっとお節介しすぎちゃったかなぁ~って思ったんだよねぇ~? でも、帰りに二人共『ありがとう』って言ってくれたんだぁ~っ。二人共だいぶお酒が進んでいたし、あれってきっと本心だよね~?」
「アルコールを摂取しすぎると、理性が働かなくなる。だから、酔っぱらっている時の人間は本性が現れる。……って話だよね?」
「うん、そういうことだねぇ~? でもいきなり、そんなこと気にしてどうしたの~?」
って、俺がそういう話題を振ったんだろうがーいっ! 心の中で、ノリツッコミ。
しかしカワイは、俺の質問を真に受けたようで。
「つまり、今のヒトはホントのヒト。今のヒトは、隠し事ができないはず……」
ブツブツとなにかを呟き、それから俺の顔を覗き込んだ。
宝石みたいにキラキラしていて、綺麗で、透き通った瞳。それはまるで、俺の奥底に在る全てを見透かすかのような輝きにも思えて──。
「──ヒト、教えて。どうして最近、ボクに触ってくれないの?」
射貫かれたような、そんな衝撃。まるで、酔いがヒュンッと一撃で覚めるような。そんな瞳と……そんな発言だった。
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