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なんだ、この展開は。なんなんだよ、この展開はよ。
……えっ、夢? 夢なのか? いやいやっ、これで夢オチとか、ちょっと笑えない。
だけどこれが夢じゃないなら、どういうことだ? 考えて、すぐに理解した。
──そうか。カワイは、俺が言っている言葉の意味を理解していないんだ。……と。
天然で鈍感で、純粋で無垢。カワイのそんなところが、俺は大好きだ。
だけど、今回に限っては許容できない。まるで、カワイが俺のことを【そういった対象】として全く意識していないように感じたからだ。
だから俺は、強引な方法に出てしまった。
「──ゼロ太郎、命令だよ。スリープモードになって」
[──かしこまりました]
カワイから、退路を断つ。俺はゼロ太郎に、命令した。
どこか楽観的な俺が『強制しちゃったなぁ。スリープモードを解除した後で、ゼロ太郎には怒られそうだなぁ』なんて考えているけど、それはそれ。申し訳ないけど、今はゼロ太郎のことを頭の片隅辺りに置いておこう。
俺は立ち上がり、カワイに近付く。それから、カワイの顔をジッと見つめた。
「カワイ、さっきの言葉だけど。あれって、本気で言ってる?」
「うん。本気」
「今、聞いていたよね。俺がゼロ太郎に『スリープモード』って命令したの。つまり、俺がカワイになにをしても、ゼロ太郎は守ってくれないってことだよ?」
「うん。分かってる」
たぶん、分かってなんかいない。そんなところも可愛いけど、今はもう少し分かってほしいと思う。
俺は強引に、カワイの腕を掴んだ。驚くカワイの反応には無視をして、そのまま寝室へとカワイを引っ張る。
寝室に着くや否や、俺はベッドにカワイを押し倒した。
「これでもカワイは、まだ『分かってる』なんて言えるの? 俺に触れられてもいいって、そう思えるの?」
さすがに、カワイでもそろそろ事の重大さに気付いてくれたはずだ。ベッドに押し倒されて、腕を押さえ込まれているのだから。
多少、罪悪感はある。だけどもっと、脅しておかないと。二度と、カワイが誤解をしてしまわないように。
「──俺の言っている『触れる』って、こういうことだよ。俺はカワイと、こういうことがしたいんだよ」
「──っ」
俺はカワイの脚の間に、膝を割り込ませる。それから、カワイの下半身を膝で刺激した。
カワイが一瞬、息を呑む。ピクリと体を震わせて、驚きを露わにした。
こう、なんて言うのだろう。いざ警戒されると、自分で蒔いた種と言っても精神的にこう、クるものがある。……カワイに怯えられるのは、ヤッパリ悲しい。
だけど、早い段階でカワイに警戒してもらうのは必要なことだったのかもしれない。むしろ、今からだと全然遅いくらいで──。
「──うん、いいよ」
カワイの、声。言葉を受けて、俺はハッとした。
カワイが、真っ直ぐと見つめている。カワイに覆いかぶさる俺を、あの綺麗な瞳が、真っ直ぐと。
「──ヒトになら、なにをされてもイヤじゃない」
カワイの言葉を受けて、カワイの腕を押さえ込んでいる俺の手は震えたことだろう。なぜなら俺は今、驚いたのだから。
……揺らいで、しまう。カワイにそんなことを言われたら、俺は……。
「……本気に、しちゃうよ?」
「うん。本気にして」
「本当に俺、カワイに手を出しちゃうよ? 破廉恥なこと、しちゃうよ?」
「うん」
するりと、カワイの腕が俺の手から逃れる。その手はすぐに、俺の服の裾を掴んだ。
「──ボクに手、出して」
ここまでされているのに、気付かないわけがない。カワイは、分かっているはずだ。……分かっている、はず。
だから、好きな子にこんなことを言われたら、もう。
「……うん。分かったよ」
もう俺は、止めてあげられない。
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