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そして、翌日。俺は職場で迎えた昼休憩時に、カワイとゼロ太郎が施してくれた【ある善意】に気付いた。
「あれ? なんか、お弁当とは違う袋があるけど……」
今朝、出勤前に渡されたお弁当がやけに大きな袋に入っているなとは気付いていたのだが。てっきり、中身は【大きなお弁当箱】だと思っていた。
しかし、どうやら違ったらしい。あっ、いや、お弁当箱はいつもより大きいんだけど。そうじゃなくて、違いはそこだけじゃなかった、という話だ。
お弁当箱を包んでいる袋の中に、お弁当箱以外の袋が鎮座している。俺はお弁当箱を休憩室のテーブルに置いた後、もうひとつの袋を開けてみた。
すると、先に俺の視界が捉えたのは……。
「う、わぁ~おっ。ビックリした。保冷剤がビッチリだ」
[デザートですので]
小さな保冷剤がビッチリと敷き詰められた構図だ。おったまげた。
スマホから聞こえたゼロ太郎の声を信じ、俺は保冷剤をヒョイヒョイと避けてみる。すると、タッパーがいくつか確認できた。
お弁当にデザート付きなんて、珍しい。俺は感動しつつ、そっと眉尻を下げた。
「それはありがたいような申し訳ないようなって感じだけど、でも俺、甘いものはあまり……」
[はい。それは私もカワイ君も存じております]
俺が甘いものは得意じゃないなんてことは、ゼロ太郎だけではなくカワイも知っている事実。つまり、甘さ控えめってことかな。そう考えると『二人の善意は手厚いなぁ~』なんて感心してしまう。そして、ますます申し訳ない気持ちにもなった。
いやでも、恐縮し続けるのも失礼か。俺は『申し訳ない』という気持ちを抱きつつも、前向きに受け取る方向へと心の舵を取った。
ということで、タッパーの中身を確認だ。早速、ひとつ目のタッパーを見てみよう。
「これは? チーズケーキかな?」
[はい、その通りです。生クリームを使わずに作った【ヨーグルトのチーズケーキ】です。サッパリした味わいですが、なめらかでおいしいですよ]
ほうほう、なるほど。甘い物が得意ではない俺でも嬉しく食べられそうじゃないか。
続いて開けたのは、クッキーが並んだタッパーだった。綺麗に整列したクッキーを見ると、カワイの丁寧さが感じられて感動ものである。いっそ、芸術だ。
[そちらは、チーズ味のクッキーです。甘さ控えめで、甘党にとっては物足りなさを感じる味です]
「ふむふむ?」
試しに、サクッとな。クッキーを一枚食べてみて、っと……。
「おぉっ! 確かに甘さは控えめだけど、俺としてはやみつきになりそうな味だよ! 大絶賛!」
[なによりです。……ちなみにそちらは、我々の手作りではなくスーパーで売っていたキャンディーです]
「へぇ? どれどれ? ……これかな?」
[はい、そうです。そちらはお食事中だけではなく仕事中にもいただけると思いますので、午後に]
クッキーを呑み込んだ後、飴の包みをひとつ開封してみた。包みの中に収まる飴玉は、可愛らしくお花の形をしている。
「うん、これなら仕事中でも食べられそう」
[そのようですね。そちらはほんのりと花の香りがして、普通のキャンディーとはまた違った風味の楽しさを味わえます。まるで花園を思わせる、とまでは言えませんが。それでも花の香りがするので心が安らぐかと]
これは本当に、至れり尽くせりというやつだ。俺はお菓子ボックスを閉めた後、立てかけたスマホに顔を向けた。
「ありがとう、ゼロ太郎。カワイに色々、教えてくれて」
[それが私の存在意義ですからね]
「うん。カッコいいね」
甘いものが得意ではないという点だけではなく、俺が【仕事中にも食べられるもの】を考えて、カワイに伝えてくれて……。本当に、ゼロ太郎はすごくすごい家族だ。
……さて、感動は一旦ストップ。俺はスマホを見て、気になったことを訊ねる。
「……ところで、ゼロ太郎」
[はい。なんでしょう]
「──さっきからゼロ太郎が説明してくれている【味の感想】って、全部【実際にカワイが言っていた感想】かな?」
[──はい、そうです。明確に記録していますよ]
そっかぁ~。クッキーの辺りから『おや?』とは思っていたけど、ヤッパリそうだったんだねぇ~。
カワイにとっては甘さが物足りないらしいクッキーだが、俺は嬉しいぞ。……という気持ちを、カワイにスマホでメッセージとして送ってみた。ちなみに返事は、カワイが欲しがったよく分からない生き物のスタンプだ。
……さて。ここでひとつ、大事な導入を記載しておこうか。
──しかしまさか、帰宅後に【あんなことが起こる】なんて。ゼロ太郎とカワイが用意してくれた沢山のお弁当とお菓子を食べた俺は、想定もしていなかった。
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[メタいです、主様]
「ゼロ太郎、しっ!」
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