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魔力の欠乏を感じつつも、カワイとゼロ太郎のおかげで順調に日々を過ごせていた。
相変わらず食欲は異常だし、正直に言うと『魔力が足りていないな』とは感じている。しかし、今まで一人でやり過ごしていた【不調】に比べたら可愛いものだ。
これも全て、カワイとゼロ太郎のおかげ。ゼロ太郎ができないことをカワイが物理的にやってくれるからこそ、俺は今も元気に出勤できているのだ。
そう思うと……俺がこうなると、いつもゼロ太郎には心配と迷惑をかけていただけだった。ゼロ太郎が出前を取ってくれるのはありがたかったけど、やはり物理的なサポートとは差がある。
本当に、ゼロ太郎には頭が上がらない。感謝してもし足りないし、申し訳ないし、ありがたいし……。ゼロ太郎は俺にとって、特別な存在だ。
なんて、カワイとゼロ太郎への感謝を募らせまくっていたある日のこと。
「──最近のヒト、疲れてる? 顔色が悪い、気がする」
カワイに突然、そんなことを言われてしまった。驚きである。
絶好調。……とは、残念ながら言えない。それでも、いつもの【不調】に比べたらまだまだ余裕がある。それなのに、カワイに心配をさせてしまったのだ。
今日の晩ご飯も、いつも以上にすごくすごい。キャベツと牛肉の甘辛煮とか、納豆ともやしのキムチとか、海老とブロッコリーのマヨ炒めとか、紅ショウガのチヂミとか……。もう、雑多も雑多。思い付いた料理全部作りました、みたいなメニューだね。
そう言えば、昨日の晩ご飯もおいしかったなぁ。車麩? だったかな。その竜田揚げもおいしかったし、そら豆の春巻きもおいしかったし……。
……しかしまぁ、これだけ用意されて、あまつさえ完食だって余裕なのに。それなのに、俺の調子は万全にならないのだ。
だが、カワイとゼロ太郎の優しさに応えたい。だから俺は、おどけてみせた。
「そんなつもりはなかったんだけど、そうなのかな?」
心配をかけてしまって、申し訳ない。そんな気持ちに突き動かされながら、俺は努めて元気いっぱいに振る舞う。
「でも、大丈夫だよ! なんだかんだで俺、つらいことは笑っちゃえばなんでもゼロにできちゃうからさ! つまり、今の俺は笑顔だから平気ってこと!」
そう言い、俺は「お手軽な男でしょう?」と付け足した。
だけどカワイは、そんな俺を見て。
「──じゃあ、笑えないときは?」
真っ直ぐな目で、そう訊ねた。
思わず、面食らう。だって、そんな答えが返ってくるなんて思っていなかったから。
「……ちょっと、驚いた。カワイって結構、ズバッと言うんだね」
「悪魔は、誰のためになるのか不確定で不明瞭な【気を遣う】って行為はしない。それは楽しくなくて、悪魔の生き方に反するから」
「そっか。サッパリしていて、いいね」
カワイのそういうところ、好きだなぁ。優しいけど、不必要な気は遣わない。そういうところが、堪らなく好きだ。憧れてしまう。
なんて惚れ直している間にも、カワイは俺をジッと見つめていた。
「……そう、だね。笑えないとき、か」
考えて、俺は苦笑する。そのまま俺は、俺自身の胸を手の平で撫でた。
「ずっと、この辺りがモヤモヤしちゃうかな」
なんだか、気恥ずかしい。それでいて、若干だが居た堪れない。
どうしてカワイは、こんなにも真っ直ぐでいてくれるのだろう。おかげでどんどん、隠し事がヘタになっていく。
「でも、今は本当に大丈夫なんだよ。カワイとゼロ太郎のおかげで、本当に元気なんだ」
「そう」
だから俺は、正直に答えた。本当に、今の俺は『なんか不調かも?』程度だからだ。
カワイは頷いた後、俺のコップにお茶を注いでくれた。
「でも、ムリはしないで。魔力の枯渇がつらいってこと、ボクはよく知ってるから」
「行き倒れていただけに、説得力がレベチだねぇ~」
そんな、笑えない冗談を言いながら。
……あっ、いや。冗談ではない? かも?
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