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 待ちに待った休日。昼近くまで惰眠を貪り、起きてからは寝るまでずーっとカワイの可愛さを堪能できる夢のような時間。  ……の、はずなのだが。 「──カワイ、ごめん。今日は寝室で横になるね。……ごめんね、折角の休日なのに全然なにもできなくて」  天気は、雨。だけど俺は低気圧で体調を崩すような繊細さんではないので、横になる理由に天気は関係ない。  ゼロ太郎や草原君の言葉を借りるのなら、そう。『まさに絶不調』というやつだ。情けないったらない。  カワイは寝室から出てきたばかりの俺を見て、黙った。たぶんだけど、カワイは言葉を詰まらせたのだろう。もしかすると俺は、酷い顔色をしているのかもしれない。  しかし、カワイは努めて【普段通り】を気に掛けてくれた。 「ううん、大丈夫。今のヒトにはムリをしてほしくない。しっかり休んでくれる方が、ボクは嬉しい。だから、謝らないで」 「カワイ……。……うん、ありがとう」  カワイは俺に近付き、両腕を伸ばす。俺はすぐに、カワイの体を抱き締めた。  名残惜しさはあるけど、俺はカワイとのハグを終えて寝室へと向かう。カワイは「おやすみ」と言って、俺を見送ってくれた。  すぐに俺はベッドに上がり、まるでへたり込むかのように座る。一度だけ、ハァと息を吐いて。  俺の心象が作用しているのかは分からないけど、外は荒れた天候のせいで騒がしいのに、室内は妙に静かな気がした。不思議だ。  でも、微かに音が聞こえる。カワイが家事をしている音だ。俺は堪らず、どこか縋るような声色で「カワイ……」と呟く。  ……そう言えば、カワイは俺のことをどう思っているんだろう。ふと、そんな疑問が浮かんできた。  以前、俺が下心を持って接しても、カワイが許してくれたことを思い出す。それどころかむしろ、俺の下心を喜んでくれたっけ。  それってつまり、カワイも俺を? そこまで考えて、俺は緩く首を振った。 「有り得ないでしょ、それは。……さすがに、ね」  もしも今、体調が万全だったら。もう少し、自惚れられたかもしれない。  だけど俺は今、不定期に起こる【不調】に直面している。それでいつも、こうなると決まって思い出すことがあるのだ。  まるで、俺に『忘れるな』と刻み付けるように──。 『──だって、あなたの  で     なんだもの』 「──っ」  ノイズ交じりの、記憶。思い出しかけて、俺はすぐに首を振った。今度はさっきよりも、もっと強く。 「勘弁、してくれよ。俺に、どうしろって──……俺は、どうしたら良かったんだよ……ッ」  体やメンタルが参っているときに限って、どうして普段は思い出さないような【嫌な記憶】は脳内で鮮明に再生されてしまうのだろう。俺は学者でもなければ雑学王でもないので、その理由は分からない。  だけど、俺にしか分からないこともあった。  気怠さ、食欲増進、疲労や眩暈、味覚障害。そして、その先。【不調】が見せる、最後の光景。  俺はもう、既に【不調】が迎えさせる最終地点の目前まで来ているのかもしれない。自分の体を強く抱き締めながら、俺はただ、ベッドの上で蹲った。

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