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そのまま俺は、気を失った。
カワイの首から出た血を舐めて、魔力が補給できたから? それとも、カワイの言葉が俺の心を優しく包んでくれたからだろうか。
俺は無責任にも、その場で気絶してしまった。カワイに覆いかぶさるようにして、眠ってしまったのだ。
俺の背中を撫でた後、カワイは俺を起こさないようにゆっくりと、俺の下から脱出。そして、俺の頭をヨシヨシと撫でてくれた。
その状態のまま、カワイはポツリと小さな声で呟く。
「ようやく、分かった。ゼロタローが前に言っていた『ヒトの優しさは自己犠牲じゃない』って意味」
カワイは俺の頭を撫でたまま、キュッと眉を寄せる。
「ヒトは、自分の価値を見出せていないんだね。ヒトはずっと、ひとりぼっちだったんだね」
カワイが呟いて、俺の頭を撫でてくれたこと。
それを知らないまま、気付かないまま。俺は翌朝まで、意識を手放し続けてしまった。
* * *
俺に起こる【不調】というものは、俺が心の底から【俺自身の存在】を謝ると、不思議なことにピタリと治まる。
なんだか本当に、厄介だ。治まった後、いつもどんな気持ちで出勤したら良いのかと悩むくらいに。そして、全てを知っているゼロ太郎とも最初になんて言葉を交わせばいいのか、分からないのだ。
しかし、今回は違う。俺は目覚めると同時に、飛び起きたのだから。
カワイが、隣にいない。俺の頭は、すぐに最悪の結末を予測させた。
好き勝手に泣き叫んで、それ以前にカワイの首に噛みついて傷を付けたのだ。しかも俺はそんなカワイを放置して、自分勝手に気絶して……。つまり、昨晩の俺には【カワイに嫌われる可能性しか】なかったというわけで。
「カ、カワイ? カワイ、どこ……?」
俺は起き上がった後、急いでベッドから降りようとする。だけど焦りのせいで足がもつれてしまい、床の上で盛大に転んでしまった。
ドタッ、と。大きな音が、寝室に響く。しかし、まるでその音が号令となったかのように……。
「ヒト、大丈夫? 今、すごくすごい音が聞こえたけど……」
ヒョコッと、リビングからカワイが姿を現してくれた。
堪らず、安堵してしまう。床に打った体の痛みなんて、どこ吹く風かのように感じてしまうほどだ。
カワイはとても心配そうに、俺を見ている。きっとカワイは俺が床に倒れている理由を『昨日まで体調不良だったから』と思い、事実以上に心配してくれているのだろう。
俺は慌てて起き上がり、無事を証明するために言葉を探した。
「ご、ごめんね。その、起きたら隣に、カワイがいなかったから、えっと……」
どうしよう、どうしよう。焦りばかりが先行してしまい、まとまった言葉が出てこない。
すると、カワイは俺の目の前でしゃがんだ。そして、コテンと小首を傾げた。
「怖かった?」
そこは『寂しかった?』ではないのか。疑問を抱くと同時に、俺は理解した。
嗚呼、そうか。この子は、分かってくれているんだ。……なんて。どこか他人事のように、だけど穏やかな気持ちで。
「……うん。怖かった。君がもう、俺のそばにいてくれないんじゃないかって」
カワイは一度「そっか」と相槌を打ってから、俺の頭を優しい手で撫でてくれた。
「朝ご飯の準備をしてた。それで、そろそろヒトを起こそうと思って、だけど大きな音が聞こえたから急いで戻ってきたところだよ」
「うん……」
「ヒトが起きた時、そばにいなくてごめんね。……それと、素直に答えてくれてありがとう」
「……っ。ちょっと、恥ずかしかった、です……」
「うん、そうだね。でも、素直なのは嬉しいよ」
「それは、ようござんした……」
ナデナデ、よしよし。カワイの優しい言動に、俺の頬は妙に熱くなってしまった。
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