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 カワイから存分に甘やかされた後、俺たちは食卓テーブルが置いてあるリビングに移動した。 「ゼロタローが『ヒトはもう大丈夫』って言っていたけど、ホントにもう大丈夫なの?」  朝食で、話題は【俺の体調】に。俺はカワイとゼロ太郎が作ってくれたご飯を食べながら、コクコクと頷いた。  ちなみに、今日の朝食はゼロ太郎が事前にカワイへ伝えてくれたのか【不調】の前と同じ──つまり、いつも通りの量に戻っている。 「うんっ、もう元気だよっ! それと、味覚も戻ったよ~っ! その証拠に、今日の料理は牛肉とゴボウの味噌風味な煮物でしょう?」 「正しくは、白みそ。でも、味覚が戻ったなら安心」  意気揚々と答えたものの、さすがに味噌の種類まではよく分からないなぁ~。野菜がたっぷり入ったミネストローネを啜りつつ、俺は苦笑いを浮かべた。  だけど、カワイに『俺がいつも通り』って伝わったならそれでいいかな。俺としても、二人が作ってくれる料理の味が感じられる日常に戻って嬉しいしっ。  しかし、それでもカワイは俺が心配のようだ。 「念のため、今日は会社に行くのやめた方がいいと思う。確か、こういうのを『ヤミアガリ』って言うんだよね?」 「カワイは優しくて博識だね~っ。それに、俺も個人的には有給を取ってカワイとゴロゴロしたいよ」  すぐに俺は、持っていた食器をテーブルに置く。そして、視線も下に落とした。 「でもね、昨日までの俺は作業効率がマッジで最悪でさ……。仕事がね、俺の主観としては引くほど溜まっちゃってるんだよねぇ……」 「ちゃんと会社に行ってはいたのに、変な話だね」  カワイの言う通り、変な話だ。しかし、今日の俺は珍しく出勤に意欲を見せている。  自分の仕事を終わらせるのはマストとして、時間を作って周りの作業に協力したい。それが、俺のスタンスだ。  この思考や働き方が合っているとか、間違っているとかって話ではない。これが俺のやり方で、俺はこういう生き方じゃないと安心できないから。……ただ、それだけの話だ。  カワイはまた「そっか」と相槌を打つ。それから真っ直ぐ、俺を見つめた。 「でも、ムリはしないでね。それで今度は人間みたいに疲労で倒れちゃったら、意味が無いから」 「カワイ~っ! なんて優しいんだぁ~っ!」 [いえ、これは【優しい】ではなく【一般論】ですよ] 「こっちは病み上がりなんだから感動にくらい浸らせて!」  ゼロ太郎の俺に対する扱いも、普段通り。なにもかもが、いつも通りに戻ったみたいで──。 「──ホントは休んで、一緒にいてほしかったけど……」  ポツリと、カワイが呟いた。  俺は顔を上げて、そのままギギギッとぎこちない動きをして、天井を見る。つまり、ゼロ太郎に視線を向けたのだ。 「……ねぇ、ゼロ太郎──」 [──さすがに今日の私は普段のように主様を止めませんが、先ほどご自分で出勤の意思を示したばかりですよね? 勿論、私は主人を第一に考えますが?] 「──くっ!」  据え膳食わぬは男の恥、とはこのことか。しかし、食えない。食えないときだってあるのだ!  ゼロ太郎が[据え膳云々とは話が違うと思いますが]なんてツッコミを入れたけど、俺はカワイの可愛らしい誘惑とデスクに溜まった仕事を天秤にかけていたので、それどころではなかった。

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