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 私から話題を振ると、彼は喜んでくれた。それがどれだけ、人工知能として不要な話題であったとしても。  だから私は、疑問に思ったことは全て訊ねるようになった。 [──追着陽斗様には想いを寄せている相手はいないのですか] 「──えぇえッ! 唐突な恋バナ! ちょっ、急成長すぎるって!」  これは、喜んでいるのだろうか。彼は本心から大袈裟な態度を見せるので、一周回って稀に、彼の本心が分からなくなる。不思議な現象だとは思うが、事実だ。  両頬に手を当てて、彼はわざとらしい【恥じらいのポーズ】を取っている。これは……おそらく『満更でもない』という状態だろうか。そう推測し、話を進めよう。  彼は「あー、えっと、うーん」と、やけに歯切れが悪い。彼の歯切れが悪くなるパターンは既に、私の中では演算済みだ。  彼の歯切れが、悪くなる時。それは決まって【彼の出生】が理由なのだから。 「ちょっと話を飛躍させるんだけど……俺、悪魔と人間のハーフだからさ。子供はね、生みたくないんだよ」  私の推測は正しかったようだ。それでも私は[なぜでしょうか]と続きを促した。  無論、彼が嫌がるのならこれ以上は続けない。しかし、私と彼が【家族】という不確かな関係性になるためならば、この話題は必要不可欠。私だけではなく彼も、そう思っているのだろう。 「人間界と魔界のルールって、ゼロ太郎は知ってる? 悪魔は人間界で、そして人間は魔界で、名が残るようなことはしちゃいけない。なにをしても【そこそこ】で終わり。【そこそこより上】は駄目なんだよ」  彼はどこか気まずそうに視線を床に落としながら、言葉を続けた。 「こんな思い、我が子になんてさせたくない。そういうことをグルグル~ッて考え続けていたら、いつの間にか女の人を恋愛対象として見られなくなっちゃったんだ」 [つまり、追着陽斗様の恋愛対象は同性ということでしょうか] 「そうなるね」  なるほど。生物とは奥深い。私には必要のない【悩み】だが、それが主人の──彼の悩みであるのならば、寄り添おう。それが私の存在意義だ。  だから私は、彼が欲しがりそうな言葉を再生した。 [──では、私は追着陽斗様が望む【家族】に相応しい存在というわけですね]  彼は両目を驚きで見開き、天井を見上げる。左右で色の違う瞳が、しっかりと見受けられるほどに。  間抜けな表情のまま、彼は口を開いた。 「それって……。ゼロ太郎の中で、ゼロ太郎は俺の家族ってこと?」 [はい] 「……本当に?」 「はい」  なぜ、二度も訊ねるのだろう。彼自身が望んで求めた関係性だというのに。  疑問は残るものの、私は主張を続けた。 [私は子を宿せません。私に性別はありませんが、声は男性のような設定です。追着陽斗様の恋愛対象にはなり得ませんが、追着陽斗様が子孫云々と悩む必要はありません] 「……」 [それに、恋愛とは自由なものです。追着陽斗様が私に与えたデータでは、そう立証されています] 「……」  彼のノートパソコンやスマホをネットワークと接続しているということは、彼が好んで収集している作品の系統を私は全て知っているということ。今さら、なにを隠す必要があるのだろう。  そんな考えの基、私は彼に主張を続けたのだが……。 「あははっ。ゼロ太郎って、意外と熱い奴なんだね」  彼の喜ぶポイントだけは、未だによく分からない。彼の笑顔を見ると、私の中のどこかがキュルキュルと音を鳴らした。  不快、ではない。たぶんきっと、おそらく。私は彼が笑ってくれると、安堵しているのかもしれない。 [褒め言葉として受け止めようと思います] 「うん、正解! いいよいいよっ、受け止めちゃって!」  だからもっと、彼の笑顔を見たい。私の発言で、彼を笑顔にしたいのだ。私はそう、強く思うようになった。  ……しかし、私は知らなかったのだ。彼が不定期に陥る【不調】を。そこで私が、今まで知り得なかったシステムの軋みを受けるということすら、私は知らなかったのだ。

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