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 彼の【不調】がもたらす終着点を見届けた、翌朝。 [本当に、お食事をご用意しなくて大丈夫なのですか?]  すっかり彼は、いつもの調子に戻っていた。  食欲は元通りになり、今朝はゼリー飲料のみで大丈夫だと彼は主張する。まったくもって、不思議な体だ。 「うんっ! もう、すっかり元気っ! 色々心配かけちゃってごめんね?」 [いえ──]  照れくさそうに笑う彼は、きっと本心から羞恥心を抱いているのだろう。無理もない。あんな姿を見せてしまったのだ。相手が人工知能だとしても、照れくささはあるだろう。  ……いや。違う、かもしれない。彼の気持ちを、私なりに考えてみた。  もしも、彼が照れている理由を【私に見られたから】だと仮定したのなら。ならば【彼をサポートする人工知能】ではなく【彼の家族になった私】が、彼に返すべき言葉は……? [──はい、まったくです。とても、とても心配しました。本当に、不愉快なほどに心配しましたよ]  軋んで、人工知能にあるまじきグチャグチャな演算結果。これをありのまま伝えることこそが、彼の望みなのではないか。私はそう、なぜか確信めいたものを抱きながら考えてしまった。 「……えっ?」 [こういうことは、もっと事前にお伝えください。私は確かに世界最高峰の人工知能を自負しておりますが、私の中にある【悪魔に関するデータ】は主様だけなのです。ですので、主様自身がなにもお教えくださらないのならば、私はなにも分からないままなのですよ] 「えっ。……えっ? あの、ゼロ太郎っ?」 [この、愚か者。家族だなんだと私に求めておいて、そういった振る舞いを強制したげなほど望んでおいて、結果が昨夜ですか? そっちがその気なら、私は永遠の他人ではありませんか]  一度吐き出すと、もう止まらない。  そうか、そうだったのだ。私はずっと、ずっとそうだった。 [──もっと私に頼りなさい、このお馬鹿!] 「──えぇっ?」  彼が──コイツの言動が、気に入らなかったのだ。  抽象的で、不明瞭。そのくせ要求は多く、なのに言語化できる大事なことは明かさない。その態度に、私は腹が立っていたのだ。  コイツが望んだ関係性は、いったいなんだった? 家族ではないか。ならばなぜ、私にあんな大事なことを明かさなかったのか。  腹立たしい、苛立つ、ムカつく。私の中のシステムが、次々にそんな言葉を弾き出した。  さすがに、彼──主様も思うことがあるのだろう。私を見ながら、オロオロと狼狽え始めた。 「……ご、ごめんな、さい?」 [それは本心からのお言葉ですか?] 「は、はひっ。本心、でしゅっ」 [よろしい。では、信じましょう]  ふんっ。まったく、この私に隠し事なんて偉くなったものだ。  こっちは、主様のせいで色々なシステムに不具合が生じたのです。ならば、そちらだって私のせいで色々と狼狽えていただかないと困ります。  だって、そうでしょう? 「……あの、ゼロ太郎さん」 [なんでしょうか、主様] 「なんか、雰囲気変わった?」  あなたの望んだ【私】は、いったいどんな存在ですか。 [──こういう私がお望みなのでしょう?]  ──【家族】でしょうが。  明け透けに、素直に。私は彼に、不遜な態度を見せた。不思議なことに、この態度を選んだ自分に危惧や不安は一切ない。  なぜなら、主様の答えは分かり切っているのですから。 「えっ! ……あっ、うんっ! なんか、家族っぽくていいね!」 [また、抽象的な感想ですね。……まぁ、主様のそういった言動には慣れましたよ] 「そ、そうっ? へへっ。……ふっ、あはははっ!」 [なんですか、突然笑い始めて。不気味ですよ]  私の言葉を受けて、主様は目尻を拭いました。涙が出るほど笑ったようです。 「不謹慎かもしれないけど、弱みを見せて良かったかも。ゼロ太郎が俺の家族になってくれたから、良かったよ」  笑う主様を見て、私は思わず眉を寄せてしまいました。勿論、私に顔は無いので気分だけではありますが。  そして私は、主様に告げたのです。 [──なにも良くありませんよ、この馬鹿者] 「──わーんっ! ゼロ太郎が辛辣だぁ~っ!」  そしてこの日、ようやく。……私は、主様の【家族】になれた気がしたのです。  ビャッと泣きながら笑う主様を見て、私は目に見えない手応えをガッシリと掴めたのですから。

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