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8章【未熟な社畜も伝えました】 1
俺の【不調】はすっかり治まり、なんだかんだで季節は秋の終わりだ。
寒い日が続いているし、北海道としては『雪、いつでも行けます! やれます、降れます!』な季節だったりする。
つまり、俺の寝覚めがどうなるかと言うと……?
「──毛布が俺を離さない」
ゴロゴロ、ダラダラ。ダラダ~ラで、ゴ~ロゴロ。
はい、そうです。俺こと追着陽斗さんは、いつも以上に最低な寝覚めを満喫せざるを得ない状況に陥っているのでした。
秋が始まった辺りからね、駄目なんだよ。たぶんみんな分かると思うけどさ、寒くなると起きられなくなるでしょ? 毛布の温もりに包まれていたいじゃん? あれだよ、あれ。これはもう、なんて言うのかな……そう。自然の摂理ってやつ!
完全に【不調】は治まって、いつも通りな日常を過ごしている俺なのだけど……。まぁつまり、俺の日常ってこういう時間のことだよね。仕方がない、仕方がない。
そんなこんなで、俺は今日も今日とて全くベッドから降りられそうになかった。エプロン姿にポニーテール状態のカワイが腕を組んで仁王立ちしている中でも、俺は毛布から指一本出せやしないのだ。
「ヒト、そろそろご飯の時間だよ」
「いやぁそれは分かっているんだけど……あー、駄目だ。これは毛布攻めの俺受け状態だ。俺なら毛布の隣で寝てるぜってやつだ。あーっ、あぁ~っ」
いくらカワイが俺を可愛らしく見下ろそうと、尻尾の先端が苛立たし気に床をペシペシ叩いていようと、起き上がれないものは起き上がれない。俺は毛布の中で丸まりながら、何度も「あーっ、あぁーっ」と呻く。
すると突然、仁王立ちしていたカワイが床にストンと座ったではないか。
そんなところに座っていては、フローリングの冷たさでカワイが冷えてしまうかもしれない。ただでさえカワイは魅惑の生脚属性持ち美少年悪魔なのだから、フローリングの冷たさがダイレクトアタックしてしまう。
これはつまり、カワイの冷えた体を毛布で温めるべき……という話かな? 俺はベッドの上でモゾモゾと蠢きながら、カワイをベッドの上に誘おうと──。
「──ヒト攻めの、ボク受け」
「──っ!」
したところで、とんでもない呟きを食らってしまった。
カワイはぷくっと頬を膨らませて、俺とほぼ同じ高さの目線になりながら、俺をジトーッと睨んでいる。
「──それでいて、左右固定。……これが一番、だと思う」
「──カワイ~ッ!」
ガバァッ! 俺はベッドから起き上がり、毛布を薙ぎ払いながらカワイに飛びついた。
「ごめんっ、ごめんねカワイ! そうだねっ、俺とカワイは左右固定だよねっ! でもカワイ、そんな言葉をどこで覚えたの?」
「教えない。毛布と浮気するヒトには絶対教えない」
「うわぁ~んっ! 不謹慎とは分かりつつもヤキモチ焼きなカワイが可愛くて堪らない~っ! もっと妬いてっ、もっとぉ~っ!」
「……ヒト、あの。さすがにちょっと、苦しい」
ムギュムギュッ! カワイに強い抱擁を送りつつ、高速頬擦りをかます。
俺の体が毛布によって温かだからか、ツンと拗ねていたはずのカワイが顔を赤らめた。きっと、俺のせいで暑くなってしまったのだろう。面目ない。
はてさて、そんなこんなで。今日も今日とて、俺の日常は平和に機能しているのであった。
[毎度のことではありますが、今日も今日とて本当に、なんて酷い茶番でしょうか……]
とどのつまり相変わらず、ゼロ太郎のツッコミが秋風と同じくらい冷たい気がしたけど、気のせい気のせい!
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