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 さて。こんな俺でも、実は悩みがあった。  それはあの日──俺が【不調】に悩んでいた、とある日のことだ。 『ボクはずっと、ヒトのことが好き。性欲とか恋愛とか、そういう意味で。ボクはずっと、ヒトが好きだよ』 『もしもヒトの言う通り、ヒトが悪い男だったとしても。それでもボクは、ヒトを好きになったよ』  ……なんてことを、俺はカワイから告げられた。  無論、これは妄想でもなければ都合の良い夢でもない。驚愕すべきことに、これは現実として起こった事実なのだ。  つまり、つまりだよ? 俺はスーツに着替えながら、ゼロ太郎と会話を始めた。 「ゼロ太郎、単刀直入に訊かせてほしい」 [はい。なんでしょう?] 「──俺とカワイの関係って、なに?」 [──本人に訊いてください]  なっ、なんて薄情なんだ! ゼロ太郎のことだから、こっちがどれだけ恥を忍んでこんな話題を打ち明けているか分かっているくせに!  ちなみに、カワイはキッチンで俺のお弁当を用意してくれている。つまり、この会話は聞こえていないのだ。  だから俺は、堂々とゼロ太郎に訴える。 「言えないだろこんなこと! 仮にカワイから『恋人同士じゃないの?』って言われたらカワイを傷付けたことになる! 逆に『ただの同居人』って言われたら俺が傷付く!」 [前者には同意いたしますが、後者は知りませんよ] 「この薄情者! 悪魔!」 [私はただの人工知能です。そして、悪魔はカワイ君ですよ]  たぶんこれ、ゼロ太郎に顔があったら『ツーン』って効果音が付いていたぞ! 絶対、絶対だ!  しかし、こんなことを相談できるのはゼロ太郎だけ。俺はモジモジと指先を合わせつつ、相談を続行した。 「確かに、俺はただの【保護者】かもしれないよ。でもさ、ほら。カワイは俺に『好き』って言ってくれたし、俺もカワイのことは好きだしさ? だったら、つまり……ねっ?」 [そうですね] 「分かってくれたんだねっ! 察してくれたんだねゼロ太郎ぅ~っ!」 [えぇ、まぁ……]  ヤッパリ、なんだかんだでゼロ太郎は俺とカワイの味方だ! 俺の──と言うより、俺とカワイの悩みには全力で寄り添ってくれているじゃないか!  まったくもうっ、このツンデ──。 [──【保護者】という単語の意味を考えるのは、疾うの昔にやめました] 「──カワイを保護してからまだ日が浅いのに?」  あっ、分かっちゃった。たぶん今、ゼロ太郎は俺の言葉を【妄言】として捉えている。つまり、俺になにかをどうこう説くというやり取りを諦めているのだ。  違う、そういう【察し】じゃない。俺が求めたのは、そういう意味の理解じゃないんだよ。  などと嘆いたところで、色々と遅い。ゼロ太郎はおそらく、俺から目を逸らしている。それはもう、全力で逸らしているのだ。 [あぁ、まったくもう。カワイ君ったら、今日もあんなに熱心な様子で家事に励んで……。愛おしいですね] 「よくこのタイミングでその話題と言葉を選んだね!」  くっ、くそぉ~っ! 俺はくじけない、くじけないぞ! そんなことを思いつつ、俺は手早く着替えを終えた。  ……なぜかって? 家事に励むカワイを眺めたいからだよ!

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